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第28話

第28話



少年は歩みを止めなかった。

燃え盛る風の中、瓦礫が砕ける音が足元から響いた。

息はすでに荒く、視界は赤い煙に覆われていた。

それでも、その歩みに一片の迷いもなかった。


彼の脳裏に浮かんだのは、

アスティラ大図書館の暗く静かな記憶だった。


あの場所で、彼は夜通し資料を漁っていた。

古文書、行政記録、都市の地下水路の設計図、古い勢力図――

そして、かつて禁書に分類されていた秘密報告書まで。

充血した目でページをめくりながら、

都市の構造、隠された通路、過去の戦闘記録などを読み解いていった。


「……あの時は、ただの興味本位だったのに。」

少年の口元にかすかな笑みが浮かんだ。

「まさか、今になって役立つとはね。」


だが、走れば走るほど、思考が深まるほどに、

頭を割るような激しい痛みが襲ってきた。

彼は額を押さえ、低くうめいた。


「……これが本当に“時代が変わった”ということなのか。」

彼の瞳が揺れた。

「いや……むしろ退化したのかもしれない。」


荒い息を吐きながらも、彼の足は止まらなかった。

「こんな浅はかな術にも、手立てがないとは……。」

その言葉は独り言のようだったが、

不思議と空気の中に共鳴するように広がった。


「自分の考えは……本当に正しいのか。」

少年はため息をつき、無表情のまま顔を上げた。

赤く燃える空の間を風が吹き抜け、彼の髪を揺らした。


「身体は壊れても……

感覚だけは、まだ残っている。」


彼は指先をゆっくりと持ち上げた。

その微かな震えの中に、

まだ消えていない生の気配が確かにあった。


その時、記憶の奥からアラヤの声が甦った。


――「あなたのような子どもたちが、世界を変えるの。

それが本当の勇気よ。」

「私は進みたいの……あなたもそうでしょ? ふふ。」


少年はほのかに笑った。

「彼女の最初の冒険を、挫かせるわけにはいかない。」


しかし、その笑みは長くは続かなかった。

再び全身を貫く痛みが押し寄せた。

肺がねじ切られるような苦痛に、彼は膝をついた。


「……はぁ……くっ。」

口元から血がこぼれ落ちた。

彼は手の甲でそれをぬぐい、低く呟いた。


「記憶は失われても……

感覚だけは、まだ生きている。

あれは……彼らの“配慮”なのか。」


少年はふっと笑い、再び立ち上がった。

炎と灰に満ちた道を、

無表情のまま、一歩、また一歩と踏みしめた。


だが――


その瞬間、空気がねじれた。


シュッ――!


本能が警鐘を鳴らした。

だが身体は、すでに遅かった。


ドン――!!


強烈な衝撃が彼の脇腹を撃ち抜いた。

少年の身体が宙に浮き、背後の壁へと叩きつけられる。

血と石片が同時に飛び散った。


「……くっ。」

少年は壁にもたれ、歯を食いしばった。

肺が重く波打つ。


そして、ゆっくりと顔を上げ――

赤い炎光の中を歩み出る“何か”を見つめた。


金属の擦れる音、炎を裂く影。

それは、確かに“人の形をした何か”だった。

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