結婚式衣装と駆け抜けるワープ 98
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
■ 銀河を駆ける三連艦 ― ハナフライム発進
「さて、行きますか」
「はい。結婚式、楽しみですね」
微笑み交わしながら、ゆきなとえれなは搭乗した。
──ステルスネット、起動。
──ハナフライム、発進します。
三台の艦が同時に動き出し、トライアングルフォーメーションを構成。
カーボンナノファイバーによる特殊装甲が各艦の外部を包み込んでいく。
「1番艦、2番艦、3番艦──配置完了」
艦体が黒く硬質な生体構造のような鎧に変化し、連結シールドを伴って一体化。
「3台の連結、完了しました。システム直接リンク、構築済みです」
モニターに映るのは、縦長の一体型トライアングル艦。
一見すれば、1隻の大型艦のような圧倒的な威容。
⸻
「ワープ開始。目標:第12宇宙基地」
「融合炉出力60%固定、フィールド展開完了」
「現在13.75ワープ速度、到着予定は5.4時間。朝ごはん、食べる時間もありますね」
「さーて、お風呂は入ってきたし……」
「オート操縦で大丈夫?」
「はい、1時間ちょっとで連絡があるかと思いますが、テキトーに返しておきます」
「じゃあ、寝ましょ。……夜行列車みたいね」
通信も準備万端。
地球とのラグは30秒程度だが、銀河連邦の司令クラス通信に接続可能。
しかも辺境領域には、同型艦のハナフライム5が中継艦として常駐している。
「何かあったときも安心ね」
「はい」
布団を出すゆきな。
「太陽の香りがする〜」
「今日、干しておきました」
「気がきくわぁ……」
そのまま2人は、深い眠りに落ちていった。
一方その頃——
辺境観測用レーダー艦。
「艦長、高速で接近中の艦、速度13超えてます!」
「あっ……通過!」
「あっ……範囲超えました!」
モニターの軌跡を追い切れず、
「ぐわああああ!!!」
観測士官たちは頭を抱えるばかり。
「な、なにこの艦……この短期間でここまで進化って……意味わからん……」
その報告が届くことは、まだなかった。
「ピピッ」
到着30分前のアラーム音で、えれなが起きる。
「ふあ〜、寝たわねぇ〜」
と背伸びするゆきな。
「5時間寝ると違うわね…」
「朝ごはん、12宇宙基地で何食べましょうか?」
「第12宇宙基地へ通信。25分で到着予定、着陸許可を申請します」
──「貴賓第一ゲート、第一ステーションへどうぞ」
「……すごいわね、特別扱い」
「地図きました。誘導ありです」
「ついでにおすすめ朝ごはん、聞いてみて?」
「わかりました。“お気軽な通信管制の方おすすめで”と伝えておきます」
5分後、地図にピン付きで届くグルメ情報。
ヌードル、卵料理、サンドイッチ、焼きたてパン、紅茶、コーヒー、ウインナー料理……
「迷うねぇ〜」
「服装を考えると、パン屋さんあたりでしょうか」
「そうね、じゃあそうしましょ」
⸻
■ 到着前、港で並ぶ艦たち
「まもなくワープアウトします」
光のトンネルを抜け、通常空間へ——
「相変わらずすごい艦の数ね……」
「なんで並んでるのかなあ?」
と、お姉様
「天然だなぁ……」
と、微笑むえれな
「順番待ちしてるんです、入港の。私たちは優遇されてるみたいですよ」
「そうなんだ……なら、着替えようか」
2人は意識で服を選択。
ナノウェアが形状記憶データを呼び出し、ゆっくりと着物姿に変化していく。
美しい帯と淡い色彩の織り交ざった、
銀河基地に咲く花のような2人がそこに立っていた——
三台連結のまま、ハナフライム艦隊は静かに第12宇宙基地の第一ゲートに着陸した。
だがその姿を見た周囲の者たちは、目を丸くするばかりだった。
「……なんだ、あの艦は……」
「見たことないぞ」「生きてるみたいだぞ」
「トランスポンダー信号は……天の川銀河?」
「どこだそれ、初耳だ……」
「うわさ……噂か……まさか噂……」
着陸の瞬間、周囲に静かな衝撃が走っていた。
着陸と同時にハッチが開くと、すでに待っていた准将が一礼していた。
「お早いお着きで」
「朝ごはんを食べようと思って」
振袖姿のゆきなに、准将は目を瞬かせた。
「その……お召し物でですか?」
「大丈夫、大丈夫。コーティング加工済みなの。汚れないわ」
「朝から開いてる焼きたてパン屋さんがあるって、管制の人が教えてくれて」
「ああ、1283デッキですね!」
「誰かお供しましょうか?」
「大丈夫よ。わからなかったら誰かに聞くから。冒険ついでに、のんびり朝ごはんしてから式に向かうわ」
「准将も行かれるんでしょう?」
「もちろん。副司令が……私の部下ですし」
「おめでたくて何より♪」
リフトでパン屋さんへ
「では、行ってきまーす!」
2人は振袖姿のまま、艦隊制服の人々に手を振ってリフトへ向かった。
その姿を見送る准将の顔には、静かな微笑みが浮かんでいた。
「うちの娘たちと同じくらいの年齢かもしれないな……」
「1283区画、目的地:パン屋さん!」
「出発〜」
リフトはシュワンシュワンと滑らかに走行し、目的のフロアへ。
「到着いたしました」
「……わぁっ! 香りがっ!」
ドアが開いた瞬間、焼きたてパンの芳ばしい香りが2人を包む。
「……この匂い、間違いない!」
「こっちね!」
匂いに導かれるまま、2人は店舗へ。
「おいしそ〜!」
「わぁ〜……!」
入場タッチでエントリーすると、パン取り放題のスタイル。
自動で次々と焼き上がるパンが、列をなして並ぶ。
「これ素敵すぎる……!」
「ちょっと、あれも取ってみたい」
「でも……結婚式もあるから……ちょっと控えないと」
「ぷっ……」えれなが吹き出した。
「ですね〜!」
その時、背後から声がかかる。
「失礼します。天の川防衛軍、ハナフライム艦長・ゆきな殿、副艦長・えれな殿でいらっしゃいますか?」
「はい、そうですよ!」
気軽に振り返ると——
そこにいたのは、気品あるドレス姿のお姫様だった。
「お初にお目にかかります。銀河連邦所属、エルダンカ国178代国王ウイリアムの娘、第二皇女マリアです」
「……えれな、知ってる?」
「ぷっ、知ってますよ! 救助したお一人です。休眠カプセルにいらっしゃった方」
「えぇぇぇぇ……! あの会議の時の……?」
「そうですそうです」
「あ、あら……ごめんなさい。ほっといて、私はゆきな、こちらはえれな」
「ごめんなさいね、はしたなくパン食べてて」
「いえいえ、こちらのパン、美味しいですから。私も好きです」
微笑むマリア王女。
「ご一緒しても……よろしいですか?」
「あ、狭いけど、どうぞどうぞ!」
ゆきなが椅子を差し出すと、マリアは上品に座り、優しく微笑んだ。
「すごいですね。これから結婚式に出席と伺っておりますが……そのお召し物、初めて見ます」
「これはね、私たちの国の晴れ着。着物の振袖っていうの」
「ふりそで……とても綺麗……」
マリア姫と仲良くなれそうな
雰囲気が漂うゆきなとえれなだった。
振袖たかいですよね・・・
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