みんなの幸せと結婚式の衣装の相談 97
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
空中都市のカフェ——。
透明なドームの向こうには、柔らかい空のグラデーションと、遥か下界に広がる雲の海が見えている。そんな中、今日もゆきなとえれなは、いつもの喫茶店へとやってきた。
「ゆきな様、えれな様。こちらへどうぞ」
スタッフが丁寧に微笑み、ふたりを案内する。
通されたのは、ドームの端にあるガラス窓際の特等席。絶景と音楽、そしてささやかなプライベート感がある、ふたりのお気に入りの場所だった。
「何になさいますか?」
「今日は……シェフのおすすめコースと、この“知らない果物”のケーキ。最後に紅茶をお願い」
「私は、同じコースとー……このチーズケーキ! それと、あのフルーティーティーを飲んでみたいです」
「承知いたしました。すぐにお持ちいたします」
奏でられるクラシックの弦の音に包まれながら、会話は穏やかに流れていく。空中都市の午後は、ゆっくりと、まるで夢のように過ぎていった。
「さて、帰りましょうか」
そう言いながらふたりは帰路につく。来週は変則的な連休が待っていた。金曜から日曜までの三連休——振替授業の扱いで平日に授業があった分、他の2日も休みになるらしい。
「ユリアさん、綺麗かなぁ……」
「ねえ、お姉様。何着ていくんですか?」
にっこりと微笑んで、ゆきなが答える。
「それはね……えれながすごくいいこと、教えてくれたから♪」
「えっ、わたし? なんですか!?」
「これを見て!」
タブレットに映されたその衣装案を見て、えれなは目を輝かせた。
「わー! すごい! ……えっ、これ作るんですか?」
「そう。もう頼んでできているから、明日、ひいばあちゃんにアドバイスをもらいに行くのよ」
「なるほど……! じゃあ、それをナノプローブで形状記憶加工にすると……」
「その通り!」
「でも……お高いのでは?」
「うん。でもね、ここ最近いろいろと報酬が入ってきてるのわかるでしょう?たまには自分へのご褒美ってことで♪」
「ふふ、確かにそれなら……安心しました。」
「えれなも絶対似合うわよ!」
結局、その衣装の仕上げは——
お母さんとおばあちゃんの、絶妙な手作業とセンスによって完成するのだった。
翌週、職員室のドアが開くやいなや——
「先生、どうでしたあ?」
と、ゆきなの明るい声が響く。
「……何よ、どうって。なんなのよ急に」
浅香先生が照れたようにそっぽを向く。
「順調にお付き合いできてるわよ。いい歳してるのに、ご両親へのご挨拶までしちゃって……『お付き合いさせていただいています』って正式にご報告もして——」
出てくる出てくる、聞いていなかった情報の数々に、ゆきなとえれなは思わず目を見合わせる。
「いい感じですね!」
「……いい感じよっ!」
「ところで、惑星婚前デートはいかがでした?」
「なに言ってんのよ、もう!」
けれど、その言葉とは裏腹に、先生はふわっと笑みを浮かべた。
「あの星、いいところだったわ。またあの人たちに会いたいわね。ふと立ち寄った結婚式場がまたすごくてね……ドレス着せてくれたり、“ぜひこちらでやりませんか?”って勧誘されたりして……」
そう言いながら、結婚式のスタッフが撮ってくれて印刷された写真のドレス姿を見せてくる。
「うわー、笹塚先生も……タキシード……!」
「もう、それそのまんま結婚式じゃないですか」
「ふふ……もしもそんなことになったら、あの場所でやりたいわよね。呼べる人は限られるけど……」
「先生、今までの参加歴がある推薦者3名以上いれば、あの惑星の試験、受けられるらしいですよ?」
「えっ、本当!?」
「ほんとです。ゆきなさんか、わたしが推薦すれば、試験受けられるってことです」
「えぇーっ!? すごい! ……え、ちょっと夢が広がるわ」
先生、完全に目がキラキラしている。
「現実になるといいですねー」
「……ほんとねー」
ぽろっと出てしまう本音に、ゆきなが突っ込む。
「先生、本音が漏れてますよ!」
「あっ! ……これ、誰にも言わないでね!」
「誘導、部長上手いんだからもう〜」
——そう言いながら、ほとんど聞き出してしまったことに満足しつつ、ゆきなは次の話題へと切り替えた。
⸻
「それでですね、夏休み合宿の件なんですが」
「うんうん、何?」
「道徳試験、諸先輩方に受けてもらいたいんです」
「なるほど、そろそろ正式メンバー絞る時期ね……」
「先生、私とえれなで推薦しませんか?」
「わぁ! それは名案!」
「じゃあ、連絡先教えてください」
「送っておくわね」
「先生からも届く旨伝えておいてください」
「わかったわ!」
先生は、いつも通りの元気な調子で頷いた。
「夏休み、楽しみね〜。ゆきなさん、あなた忙しいわよね。三年生なのに理科部、テニス部、JAXA関連、学業も……」
「将来? そこはおいおい説明しますよ〜」
「……まあ否定はしないわ」
「では先生、メールで名簿、お願いしますね〜!」
「わかったわーーーー!」
いつもよりも幸せそうな先生の笑顔に、ゆきなも自然と頬がほころんだ。
テニス部の朝練。理科部の研究日。毎日が慌ただしく過ぎていく。
金曜日は振替休日、三連休だ。
その木曜の夜——
司令室ではモニター越しにえれなが報告する。
「先生から、リスト届きました?」
「はい、届いてます」
「よかった……即日、道徳テスト送信しました」
「ありがとう」
ゆきなはモニターを見つめながら、少しだけ肩の力を抜いた。
「どんな人たちが来るんだろうね、先輩たち……」
「きっと素敵な人たちです。夏休み合宿、楽しみですね」
モニターに映る星空が、そっと輝きを増していた。
ゆきな艦長の進路の話も出てきてまだまだ6月ではあるけれども!
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