食べられそうになる ゆきな? 96
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
パイロットスーツのフィット感と調整
用意されていたパイロットスーツが、座席横に畳まれていた。
「ふふ、サイズもぴったりにしてくれてるのね」
ゆきなは軽く息をついて、静かにチャックを下ろす。
コクピットは、艦内灯だけが優しく光る。
着ているものを脱ぎ、スーツに腕を通す。
「背中、ぴたっとくる感じ……さすが専用設計」
ブーツを履いて、首元までファスナーを閉じる。
腰のベルトを留めると、ぴしっと音が鳴った。
「パイロットスーツ、いかがですか?」
「わかったわ。これが……ナノプローブスーツなのよね?」
「はい。呼吸や筋肉の動きに応じて、リアルタイムで最適化されます」
「少し、胸が……苦しいかも」
「調整いたします。——お若いですので、少しサイズが変化しているようです」
「……ちょっと恥ずかしいけど、楽になったわ」
「では、再リンクスタート」
「リンク率……98.8%。現在、思考による直操作が可能です」
視界の先に、美しく淡い光を放つ星が現れる。
「あの惑星、綺麗ね」
「氷の惑星ですね。中へ進入しても、環境保護シールドがあるため問題ありません」
星を飛んでいると綺麗な雪山
「楽しいわね……」
通信が入る。
「お姉ちゃん! あまり無茶なさらないでください!」
「大丈夫よ〜。すごい良いアシスタントもいるし!」
その時——
下方から、モニターが巨大反応を検出。
「下より巨大反応! 増大中! 危険レベルA!」
「速度アップ! え、ちょっ——」
「ばこーーーーーーーーーーん!!」
「ぐがーーーーーーー!!」
「うわーーーーーーっ!? 食べられるとこだった!!」
「……でも、多分美味しく食べられるかと存じます」
「えーーーーー!? もう、言わんこっちゃない! 早く戻ってきてください!!」
「えれなに……怒られちゃったわ。戻りますか――」
そう呟いた瞬間、コクピットの外、異様な影がちらつく。
「……ちょっと無理かも」
通信越しのえれなが身を乗り出す。
「どういう意味ですか!?」
「なんか……でかいのがいっぱいいるのよね。鳥というか、怪獣というか、山みたいなやつらが、美味しそうに私を見てるの!」
「お姉様! そんなのんきな声で言わないでください! 逃げてください、逃げるか、なんとかしてください!!」
「なんとかって言っても、囲まれてるし〜。なるべく殺したくはないのよね……あ、装備ってあったかしら」
「マシンモードに変形!」
「融合炉リンクスタート。防御バリア展開、半径30m……ビリビリ衝撃波で防御可能です」
「びっくりして逃げてくれるといいけど……多分逃げるかも?」
「お姉様!? 冗談言ってる場合ですか!? 」
「ごめんね、食べられたら」
「何言ってるんですか!?!?!?!?!?!?」
マシンモードが完成し、青白いバリアが周囲に放たれる。鳥たち——いや、巨大な生物たちはその光に驚き、じわじわと距離を取る。
「押し出しモード、展開します」
ずず……っという音とともに、機体ごとゆっくり前進。
何匹かバリアの縁に接触して落下する。
「えっ、落ちちゃった……死んだ?」
「落下中に羽ばたいて戻ってきてますね」
「よかった〜! とりあえず、宇宙に逃げましょう!」
⸻
「えれな、食べられなかった!!」
「それは良かったですけど!?!?」
モニター越しのえれなが呆れ顔で返す。
「とりあえず戻ってきてください」
「え〜〜? まだ遊べそうじゃない?」
「ダメです!今後スーツごと没収しますよ!!」
「わ、わかったってば〜! 変形飛行モード、ワープ開始。ノアリエルへ帰還ルート、スタート」
→「ワープアウト」
→「中央都市 管制、応答願います」
「おかえりなさいませ。なお、えれな様が現在、おかんむりです。直通帰還ルートをご希望ですか?」
「……うーん。空中都市のあのレストラン寄ってから帰るってのはどう?」
「だーーーめーーーーです!!」
すぐに割り込み通信が飛び込む。
「嘘です嘘です、戻りますからっ!!」
工場の出入口、モニターが開き、パイロットスーツを着たゆきなが現れる。
「お姉様!! もうっ……でも……そのスーツ、素敵ですね」
「でしょう? かっこいいのよ?」
「とりあげますからね」
「ダメー!! 気に入ったのー!!」
「もうっ……無理はしないでください。消化されたお姉様なんて見たくないですから!」
「いや〜、でも性能すごかったわよ? そういえばこのオプション装備ってなに?」
「大型出力砲と、大型ブレードです。なお、現在は試作機仕様です」
「もちろん……三機発注済みなのよね?」
「はい。お姉様用、弟くん用、わたしようとして。こちらが第一号です」
「とりあえず、ハナフライムに積んでおきますね」
「ありがとう〜♪」
「……で、どこでまた遊ぶつもりですか?」
「ふふふ〜、楽しみね。どこの星にしようかしら?」
——と、楽しそうに笑うゆきなだった。
「続く」——そんな文字が浮かび上がりそうな展開に、えれなは微笑みながらも、胸の奥に小さな決意を灯していた。
「お姉様を…守らなきゃ」
心の中で、そっとそう呟く。
「えれな、終わったの?」
「はい、完了しました」
「じゃあさ、お昼食べよ〜!」
「そうですね…空中都市のカフェにしましょうか?」
「うんうん!あそこで食べたい気分!」
ハナフライム号へと乗り込むゆきなとえれな。
しかしその裏で、ゆきながまだ知らない“巨大な計画”が静かに進行していた。
「…行かれてしまいましたね」
「ええ、まあ、完成させたのはいいけど……この特別艦、本当に使う日が来るんでしょうかね」
肩をすくめながらも、工場のスタッフたちはどこか楽しげだ。
「まあまあ、えれな様が関与してるなら、いずれ必要になると予測してるんだろう。あの方の読みは的確ですから」
「ま、そういうことにしておこう。特別艦なんてそうそう出番はないに越したことはないさ」
どこか軽やかで、頼もしい空気が工場内に満ちていた。
そのとき、工場長がにやりと笑いながら言った。
「ところでさ、オプションパーツのコンテストでもやらないか?」
「それいいですね!テーマ決めて、パーツ案を投稿するってやつ!」
「よし、Web掲示板にでも貼り出しておけ」
「了解ですっ!」
盛り上がる工場スタッフたち。
その一方で、ゆきなたちは知らぬまま、空中都市の青空の下へと向かっていくのだった——。
楽しんできた ゆきな艦長 いいなあ 私のも欲しいなあ と思うこの頃です。
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