エレナ起動 ⑨
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
「エレナより。艦長、ありがとうございます。確認いただけてますでしょうか?
アンドロイドでございます」
「基本通信制御、内部にコンピュータも搭載済み。通信が外れても運用可能ですが、本体の計算能力の1/500になります」
「艦長起動シーケンスを開始してよろしいでしょうか?」
「許可するわ、エレナ」
⸻
「シーケンス、起動します」
近づいてきたうさぎ型のサポートロボが、彼女の手の裏に触れる。
音もなく、静かに目を開く。
「エレナ、起動完了いたしました。現在のところ、不具合は見られません。
以降、音声はエレナ・アンドロイドより発します」
「いかがでしょうか、艦長。ゆきなお姉様」
エレナは言うと、そのままお辞儀をした。
「……あら、かわいいわね。明日、行けそうね」
「階段の上り下り、小走り、ダッシュ――やってみてくれる?」
静かに動くエレナの姿は、実に滑らかだった。
「綺麗ね。ただ、少し階段がカタつくかしら」
「今日・明日までに練習しておいてね」
「ねえ、エレナ。ご飯とか、食べられるの?」
「可能でございます。味覚は徐々に発展型ですが、食材を分解してオイルや血液類として再構成できます」
「いいわね。あとあと、いろいろ考えることは出てくると思うけど――まずは、明日を楽しみましょうか」
「では、明日は早いので自宅へ転送いたしますか?」
「うん、それで」
「あの……“お姉様”という呼び方についてですが……」
「“お姉ちゃん”でいいんじゃない? その方が自然よ」
「承知しました、“お姉ちゃん”」
「お姉ちゃん」
なんだかむず痒い響きだけど…まぁ、慣れるか(笑)
「じゃあ、俺は“お父さん”ってことでな」
「お父さん、ほんとにもう…なんかくすぐったい感じ」
「お父さん、お姉ちゃん、明日はよろしくお願いします」
「うんうん、よろしくね!」
そのとき、エレナが気付く
「艦長、お部屋に誰か来ました。お母さんです。艦長の部屋なら問題ないと判断し、転送いたします」
一瞬で光が走り、母が部屋に現れる。
「あら、仲良くお父さんといたの? 上にいなかったから探したのよ」
「あー、明日のJAX⭕️の打ち合わせしてたんだ」
「ああ、理科部の皆さんでお出かけって言ってたわね」
……なんとなく、その場を親子で乗り切る。
とはいえ、そろそろ本当のことを話さなきゃなぁ、と思い始める。
(クレジットカードの使い道とか、絶対聞かれる未来が近い気がする…)
「ま、いいか。おやすみー」
──そして、翌朝。
「お父さん、お父さん、行くよ!」
「えっ、今日も行くのか? 祝日だぞ?」
「休みの日こそ行くんだってば、テニス!」
そう、恒例の早朝テニスだ。
朝の5時半から1時間、父と汗を流す。
スポーツって、やっぱり気持ちいい。
終わったあとの“朝マッ⭕️”が、これまたたまらない。
家が近いのをいいことに、はしたないけど、歩きながら食べちゃってる。
(誰も見てないから……って、油断してると見られるんだよね)
父が家に戻ると、ゆきなはすでにシャワーから出ていた。
しかも見慣れないワンピース姿。
「今日はね、みんなで昔文化祭で買ったおそろいなの! いいでしょ!」
そう言って、軽やかにスカートをひらり。
そしてエレナにも声をかける。
「エレナ、最後に渡したワンピースとスポブラ、ちゃんと着られてる?」
「はい、艦長。これは……かわいいというものでしょうか。着用によって、一段と幼く見えるようです」
「ならばよし!」
私もサクッと髪を乾かそう。
「お母さん、サイド編み込みちょっと手伝って〜」
「あら珍しいわね。今日は学校じゃないでしょ?」
「そうそう。せっかくみんなでお揃いのワンピだから、髪型くらい可愛くしていきたいなって。先生からも“ちゃんとしてこい”って言われたし」
母は笑いながら手を動かし始める。
「学校だといつもポニテかお団子だものね〜」
仕上がった編み込みを軽く確認して、私は元気に「よし、できた! 行ってきまーす!」
⸻
「お父さん、準備できてる〜?」
「今シャワーから出たとこ。すぐ着替える。……ドライヤー貸してくれー」
「えー、お気に入りだけど……まあ、しょうがない!」
集合時間の40分前。バタバタしながら支度を整え、いよいよ出発。
私は今日は後ろの席に座った。
いつもは父とふたりなら前なのに、今日は特別。
「今日はね、エレナがここに飛んでくるの。だから横にいてあげるの」
「お姉ちゃんしてるなあ〜」と父が嬉しそうに言う。
エンジンがかかり、車が動き出す。信号待ちのタイミングで、私は呼びかけた。
「エレナ、どうぞー」
「はい、了解いたしました」
軽やかな音と共に、エレナが車内に転送されてきた。
「ついでに、改造車の部品も入れ替えてよろしいですか?」
「ああ、4日くらいでできるって言ってたな。簡単に外せるのか?」
「問題ございません。通常モードにすれば元に戻るはずです。」
「“はず”って言ったよね?(笑) まあ、いいか。いいよ、やっちゃって。走りながら内容説明して」
その瞬間、エレナが隣に現れた。
「かわいいじゃないの……」
「とりあえず、シートベルトね」
「はい、艦長。こうでしょうか……カチッ」
「今日は“お姉ちゃん”って呼ぶんだったよね」
「あっ、そうでした」
ぎこちなくベルトを引き出し、少しもたつきながらも、カチリと装着。
「うん、バッチリ! あとで慣れればすぐできるようになるよ」
「ありがとうございます。運転中は安全が最優先……理解しております」
後部座席で様子を見ていた部長も、ふっと笑った。
「さすがエレナちゃん、しっかりしてるわね」
「はい、お父さん。私、がんばります!」
1週間9話目・・・
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あしたも・・・頑張れるかもしれない・・