静かな夜、タオルワンピースのぬくもり 85
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
静かな夜、タオルワンピースのぬくもり
「えれな〜、とりあえず……あと4時間は寝られそうよね?」
「はい、問題ありません」
すでにタオル地のラフウェアに着替えたゆきなは、ブリッジ横の畳スペースにふわりと布団を敷く。
「……えれなも、来る?」
「もちろん、ご一緒しても?」
「うん。一緒に寝ましょ」
明かりが柔らかく落ち、静かに2人は横になった。
気づけば外では、銀河連邦内で奇妙な噂が囁かれていた。
「なんかすごいのが通るらしいぞ……」「3隻編隊で光の尾を引いて……」
——各地の観測艦が、その通過ルートをひそかに遠くから覗いていたとか、いなかったとか。
⸻
到着55分前:目覚めと再始動
シュワァァ……ワープ航行の揺らぎの中、ゆきながふと目を覚ます。
「ん……えれな、おはよう」
「おはようございます」
すでに制服姿でモニター前に座るえれなが、笑顔で振り返った。
「……ごめん、寝過ごしちゃった?」
「いえ、5分ですよ。とてもいい寝顔でしたので、起こすのがもったいなくて」
「……ふふっ、ありがと。なんだかスッキリしたわ。6時間も寝たのね」
「はい、ワープ中でもしっかり休息は重要ですから」
「じゃあ、私下に降りてくるわ。ブリッジ、お願いね」
「了解です」
エレベーターで降りたゆきなは、救助者たちの待つ広場に姿を見せる。
「皆さま、お疲れ様です。あと1時間ほどで、第12宇宙基地に到着予定です」
声に力を込めると、多くの人たちがこちらを見上げた。
疲れた表情もあれば、安心の顔もあった。
「本当に……本当にお疲れ様でした。まだご自宅には遠いかとは思いますが、ここで出会えたこと、その奇跡に——皆様の無事の帰宅をお祈りいたします。」
深々とお辞儀をすると、場には静かな感動が広がった。
ぽろぽろと涙をこぼす者、手を握り合う者、黙って天井を仰ぐ者。
「ゆきな艦長……あと1時間、ですか?」
「はい。予定では、23〜24時間ほどかかると予測されていたかもしれませんが……まあ、それは“極秘事項”ということで」
小さくウィンクしながら、ゆきなは付け加える。
「とにかく……今は、到着に備えて準備をお願いします」
その声に、集まった人々が一斉に頷いた。
——いよいよ、帰還の時は近づいている。
第12宇宙基地への到着
「到着30分前、通信きました」
えれながゆきなに報告する。
「こちら第12宇宙基地。調査船で間違いないか?」
「はい。トランスポンダー記載の通り、天の川銀河所属、調査船——1番艦、2番艦、3番艦、いずれも間違いありません」
『了解した。歓迎する。宇宙ゲート中央、7番・8番・9番へ停泊せよ』
「承知いたしました。ただし、2番艦と3番艦はリンク航行中のため、1隻ぶんのスペース——7番ゲートのみで構いません」
「また、2隻分の睡眠装置については、エリオン艦長から詳細が伝えられているかと思いますが、電源区画および転送場所の提供をお願いします」
『承知した。準備する。では、また会おう』
通信が終わり、ゆきなはほっと息をつく。
「基地責任者……准将、感じの良い方ね」
「ええ。本当にしっかり即決ですね。」
「——間もなくです。ワープアウト」
シュウゥゥン——
ハナフライムを中心に、三隻の艦が銀河の波間から滑り出るようにワープを解いた。
「転送位置、区画届きました。睡眠装置90名、順次高速転送中——完了まで5分……完了しました」
「では2隻は外で待機。準戦闘体制に移行して」
「完了しました」
「では、《ハナフライム》接岸します」
シュウゥン……微振動の中、静かにハナフライムは宇宙ステーションへと接舷。
融合炉4基は20%でアイドリング状態、ロック完了。環境連結も確認。
「よし……えれな、行きましょう」
「はい、お姉様」
⸻
銀河連邦基地にて
ゆきながマイクを握り、全体に伝える。
「皆さま、第12宇宙基地に到着いたしました。順次、検疫を受けることになりますが、どうぞお先に」
救助者は次々と艦を降りていく。その表情には、長い苦難の旅の終わりと、新しい希望の光が見て取れた。
「嬉しそう……で、よかったわね」
「はい、艦長」
その後、最後に銀河連邦の士官10名と共に艦を降りると、少し年配の女性が近づいてきた。
「ユリア艦長……!」
見覚えのあるその顔に、ゆきなは笑顔で歩み寄り、熱く握手を交わした。
「よくぞ、ここまで……」
ユリアが隣に立つ軍服姿の男性を紹介する。
「第12宇宙基地・司令官、アザト准将です」
「ゆきな艦長。あなたには、550名近い連邦国民と艦をお守りいただいた。銀河連邦を代表して、感謝申し上げます」
「恐縮です。睡眠装置の解除作業は?」
「順調に進行中です。問題はありません。……しかし、お二人ともお若い。年齢は……聞かないでおきましょう」
「配慮に感謝します」
ゆきなが微笑んだ。
「では、こちらへ——会議室へお通しします」
円卓に集まる一同。中央には、立体投影の銀河地図。
「包み隠さずお話しします」
アザト准将が地図を指し示す。
「この100年、銀河連邦は徐々に数で押されてきました。特に周縁部から——小さな穴が、徐々に広がるように」
「大型艦の主砲、あれは確かに……強力ですよね」
「だが、聞いています。あなた方の《ハナフライム》は中型艦でありながら、主砲の直撃を耐え抜いたと」
「ええ、事実よ。……映像、投影しても?」
「もちろん。こちらの端末をどうぞ」
「えれな、お願い」
「了解しました。ネットワーク接続、投影開始」
アザト准将は映像を見ながら、ぽつりと呟く。
「副艦長は……アンドロイド、か?」
「そうよ。生体テクノロジーアンドロイド。成長もするし、自己発展型」
「……驚くな。古い文献にはあるが、技術はとうに失われたものとばかり」
投影される映像には、7隻の大型艦。
最初の2隻から主砲が発射され、ハナフライムに直撃。
その後、残る5隻が同時に主砲を撃ち込む映像が映し出される。
「この後、2番艦・3番艦が防衛陣形を展開。同時に数千隻の艦隊を広域拡散主砲で無力化」
「……見事だ」
「映像は差し上げてもいいわ。研究に使いたければ、拿捕した艦を1隻、提供してもよろしくてよ」
「本当か! それはありがたい……!」
「一つ貸しにしておいて。とはいえ、友人としての贈り物よ」
「……借りばかりで怖くなりますな」
アザトが冗談混じりに笑う。
⸻
貴賓室へ、夜の静寂に包まれて
「えれな、例の艦……動かせるかしら?」
「はい、ワープ0.2であれば可能です」
「では、辺境防衛隊へ向かわせて。受け渡しはそちらで」
「了解いたしました」
アザト准将が、ゆきなへ頭を下げる。
「なお、現在本国では協議が続いております。本日はこれでお開きとし、明日また会議をお願いしたい」
「もちろん。……お部屋、お借りします」
「どうぞ、ご自由に。宇宙ステーション内も、制限区域以外であればご見学いただいて構いません」
「ありがたいわ。では、えれな——」
2人は、渡された情報端末を受け取り、静かに貴賓室へと向かっていった。
高鳴っていた胸の鼓動が、次第に落ち着いていく。
外には、星々のきらめきが、平和の訪れを祝福するかのように静かに瞬いていた——
さあ 宇宙基地です。
今後が楽しみです。
皆様にお願い モチベーションアップにもなります。
評価・ブックマーク・アクションをお願いします!




