帰り道 今後の想い 72
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
「では、中央都市に寄って……今日は帰りましょうか!」
そう言って、3人はゆっくりと歩き出す。
中央都市の発着場――
いつものように1番の駐機スペースへ宇宙船を停めると、
ゆきなとエレナは白いロングワンピース、おばあちゃんも淡いラベンダーのドレスで、ビシッときめていた。
軽やかな風がスカートをふわりと揺らし、
一瞬、空に吸い込まれそうになるそのシルエットは――
まるで絵画の中のワンシーンのように幻想的だった。
おばあちゃんは、歩ける喜びをかみしめるように、
一歩一歩を丁寧に踏みしめていた。
「……本当に、歩けるっていいわねぇ」
時折立ち止まり、周囲の建物や景色をじっと眺めているその姿に、
エレナもそっと微笑む。
少し歩くと、以前も乗ったあの乗り物が待っていた。
そして前回と同じロボットが、静かにお辞儀をして出迎えてくれる。
「こちらにお乗りください」
そのとき、エレナがふと声をかけてくる。
「お姉様、10分ほどですが、薬品の方――お願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん。任せておいて。あなたは……?」
「はい。私はボディスーツの依頼をしてまいります」
「じゃあ、またここで待ち合わせね?」
「了解です。では――おばあ様、参りましょう」
「うん、ありがとうねぇ」
ゆきながやさしくおばあちゃんの手を取り、2人で乗り物に乗り込む。
「……本当に、綺麗な街ね。でも……」
おばあちゃんの目が、静かに細められる。
「ロボットとアンドロイドばかりなのね。……もったいないわ」
その横顔は、少しだけ寂しそうだった。
* * *
医療施設エリアに到着すると、薬局のカウンターには薬剤師風のロボットが待っていた。
「こちら、ご要望の80個でございます」
並べられた小さなナノプローブのカプセルたち。
一箱はコンパクトにまとめられ、手提げバッグに入れてくれる。
「小さいけど……これが、いざという時の希望になるのよね」
会計は時計をかざすだけで完了した。
「さて、帰りましょうか」
乗り物に揺られながら、ゆきながそっと問いかける。
「二日間……どうだった、おばあちゃん?」
「すごい体験だったわ……ほんとに。また一緒に来たい」
そう言って笑ったおばあちゃんの表情は、
火星の陽射しに照らされて、いっそうやわらかく輝いていた。
* * *
やがて、宇宙船発着場――いつもの帰還ポイントに到着。
ゆきなとおばあちゃんがゆっくりと歩いていると――
「お姉ちゃーんっ!」
後ろから駆け寄ってきたエレナが、軽やかに手を振ってやってきた。
「パワードスーツの資料、心よく受領されました!」
「……良かったわね」
「はいっ!」
笑顔がそろったところで――
「では、帰りましょうか」
「起動します」
宇宙船が静かに起動する。
「3機、同期完了――発進します」
その直後、中央コンピューターからの通信が入った。
『最近、各地に少しずつですが、活気が戻り始めております。
ゆきな様、エレナ様、そしてまき様――皆様のおかげです。
またのお越しをお待ちしております』
「ええ、また来るわ。2週間後の予定ね。短くなるときもあるけど……よろしく」
通信の向こうで、静かに感謝の光が灯る。
未来の空をゆっくりと滑りながら――
宇宙船は、3人を再び地球へと連れ帰っていく。
それぞれの胸に、小さな希望のかけらを乗せて。
地球に帰還すると、タイミングを合わせたかのようにニュースが流れていた。
『CO₂排出融合炉の回収により、2度にわたる宇宙放出が成功。これにより、地球圏内での温暖化が排出量がイーブンになりました。』
『排出方法については機密とされていますが、“クリーンな排出”であることが強調されております』
『現在、排出量と放出量がバランスし、今後逆に削減までもっていきたい考えです。』
『この動きにより、加盟国はさらに増加。連携した技術開発が進み、人同士の交流もかつてないほど盛んになっています』
「……いい傾向ね」
テレビを見ながら、ゆきながひとこと。
エレナがにっこり。隣で、おばあちゃんも嬉しそうに微笑んでいた。
* * *
「着陸いたします」
秘密基地に戻ると、おばあちゃんはすっかり慣れた様子で、迷いなくリビングへ。
「帰るべ〜」
と、手を振りながら――
「シュワン」と転送で消えていく。
* * *
ひいばあちゃんの家では――
すでにおばあちゃんがしっかり立っていた。
「なんか元気になってる……!」
「ゆきなちゃんが、いろいろしてくれたさ〜」
と、照れたように笑うその表情が、なんとも微笑ましい。
* * *
自宅に帰ると、台所ではお父さんがバタバタと書類をかき集めていた。
「お父さん、最近忙しそうだねぇ」
「ああ、4月から新しいのが始まってなー。ごめんな〜。おばあちゃんも行ったんだろ? 今度、俺も連れて行ってくれなー」
「へぇ〜」
(……あ、これ私のせい……?)
ゆきなは心の中で思わずうなだれた。
どうやら、CO₂排出回収装置の影響で、各地で配管の依頼が急増していたらしい。
(がんばれ、お父さん……)
* * *
「よし、エレナ! 部長に個別レッスン受けてるから、今日は部活免除だけど――軽く汗を流しに行こっか」
夕方15時。
2人はテニスウェアのまま、転送で理科部の部室までひとっ飛び。
「あっ、先輩! いいところに!」
「新人のダブルスペア、練習に付き合ってください!」
「OKよ〜!」
がっつり特訓したあと、夕方には基地へ戻る。
お風呂に入っていると――
「お〜、お母さんも常連だね〜」
「もうね、ここ知っちゃうと、他のお風呂入れないのよ」
「入り口に“女子入浴中”って看板つけようか?」
「お父さんだけ入れないからね〜」
「……それはそれで、まあいいかもね〜」
ほかほかの湯気に包まれて、ゆっくり話し込む母娘だった。
歩けるうれしさをかみしめるおばあちゃん次回は・・・
嫌な奴が現れます・・・・・
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