天空都市でのおもてなしとおばあちゃんの想い 70
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
空中都市に降り立ち、
おばあちゃんは今や普通に歩けるようになっていた。
「うさぎさんたちは……船に残るって」
名残惜しそうに見送ると、うさぎさんロボたちは静かに手を振ってくれた。
地球時間で22時ごろ。こちらもまもなく日が落ちるという。
「夕日、綺麗だわね……ここが宇宙からの防衛ラインだなんて、信じられないくらい」
ホテルに入ると――
「いらっしゃいませ!」
『お久しぶりのお客様です。スタッフ一同、楽しみにお待ちしておりました』
ずらりと並んだスタッフたちが、笑顔で迎えてくれた。
「あら、おもてなしありがとう。……お腹すいたわ」
「この荷物、部屋にお願いね。そのままディナーにしてもいいかしら?」
「承りました」
ボーイさんに案内され、レストランの窓際の席へ。
「こちらへどうぞ」
「……わぁ。素晴らしい景色」
火星の赤い夕焼けと、光り始めた未来都市の灯り。
「こんなに綺麗なのに……今まで使われてなかったなんて、もったいないわね」
「地球の道徳を持った人限定の特別地域にしてもいいかもしれないわ」
「でも……私とエレナが責任を負う以上、厳選が難しいのだけど」
料理が運ばれてきて、ディナータイムが始まる。
「美味しいわ……。なんだか口の力まで強くなってる気がするわね」
「はい。皮膚コートの補助で、口腔機能も若干強化されております」
* * *
帰り道、ホテルロビーで通信が入る。
『ゆきな様、えれな様。前回のテニス映像を拝見し、こちらのコートも地球仕様に調整済みです。明日もぜひご利用ください』
「わかったわ。楽しみにしてる」
「おばあちゃんは、見てる? それとも……お部屋でのんびり景色?」
「そうねぇ、2人のひ孫の活躍でも見てようかねぇ。どうせ朝は早いでしょ?」
「うん、じゃあベンチでゆっくり見ててね」
* * *
部屋に入ると――思わず声が漏れた。
「わああ……すごい部屋……!」
巨大な窓からは、火星の夜を照らす光の都市が見渡せた。
三台並ぶソニックシャワーでそれぞれさっぱりと汗を流し、用意されたふわふわの部屋着に着替える。
「ふぁあ……眠いわね」
「うん……寝ましょ」
みんなで並んだベッドに入り、静かに眠りについた。
* * *
翌朝――
「よく寝たなぁ……」
ゆきなが目を覚ますと、時刻は6時すぎ。
「まだ6時間半ぐらいしか寝てないけど……ふわ〜」
リビングを見ると、おばあちゃんはすでに起きて、椅子に座っていた。
「……鳥が、飛んでる……綺麗だわねぇ」
ゆきなが隣に座ると、テーブルに文字が浮かぶ。
《お飲み物は?》
「じゃあ、朝は……コーヒーお願い」
すると、すぐ目の前に湯気の立つカップとお皿が出現した。
「おばあちゃんは?」
「そうねぇ……お茶って気分でもないのよね。……じゃあ、アップルティーを」
ふわりと現れるポットと茶葉。透明なガラスの中、茶葉がゆらゆらと舞っていた。
「……おしゃれねぇ」
ゆきなが注いであげると――
「ありがとう。なんだか……夢の中にいるみたいだわ」
「ほんとね。また来たくなったら言ってね。2週間に1回は来てるから」
「わかった。なんだか楽しみになってきたわ」
「まだまだ若いじゃない♪」
「……心はね」
と、ウインクをするおばあちゃん。
そこへ――
「お姉様。いい香りですね」
エレナが静かに起きてきた。
「おはよう、エレナ」
「おはようございます。お姉様、おばあ様」
* * *
「音声認識で……フロントへ」
『おはようございます、ゆきな様』
「テニスコート、予約できるかしら?」
『はい。ルート展開いたします』
部屋のホログラムに、ルートが表示される。
「わぁ……すごいテニスコート!」
「素晴らしいわ……」
そこへスタッフが声をかけてくる。
「お客様。最新のスポーツウェアをデザインいたしました。ご試着なさいますか?」
「あら、いいわよ。せっかくだし」
試着ルームで着てみると――
「……ちょっと露出多いけど……可愛いわね。まぁ、いっか。誰も見てないし、動きやすそう!」
「スペシャルのときに使おうかしら、ね、エレナ?」
「はい、ぴったりです」
「このままいただくわ。料金は部屋付けで」
『承知いたしました。ご購入ありがとうございます』
光と未来に満ちた朝。
この星の一日が、またゆっくりと始まっていく――。
おばあちゃんは、のんびりとテニスコートの横にあるベンチに腰掛けていた。
心地よい風が吹き抜け、空は透き通るような青。
視線の先には、コートで軽やかに動く二人の姿。
「……あの2人、ほんとに綺麗ねぇ」
眩しいほどに走り、笑い、汗をかくその姿は、どこか夢のようで――
でも、たしかに今この瞬間に生きているひ孫たちだった。
この空間には、どこか不思議な静けさと温かさがあった。
やがて、練習を終えたゆきなとエレナがコートサイドへとやってくる。
「おばあちゃん、お待たせ〜!」
額には汗がきらりと光り、頬を赤らめた笑顔がまぶしかった。
「なんだか……嬉しいわ」
おばあちゃんは、ふっと目を細める。
「私のひ孫が、こんなに充実した世界にいるなんて……」
おばあちゃんは、戦争を経験した世代だった。
その想いは、言葉以上に深く――重い。
「……だからこそ、ほんとに。平和な時代であってほしいのよ」
そしてもう一つ、彼女の人生には、もう一つの大きな出来事があった。
「……あのね、関東大震災も経験したの。あの時ね、救助の準備がどれだけ大事かって、心の底から思い知らされたのよ」
その声には、やわらかな語り口の奥に、確かな実感と想いが込められていた。
ゆきなとエレナは、ベンチの近くに座りながら、
コートの横に運ばれてきた冷たいアイスティーを受け取り、
そっとひと口。
「……うん、聞かせて、おばあちゃん」
「お願いします」
二人は真剣なまなざしで、おばあちゃんの話に耳を傾ける。
未来に生きる者として、過去の重みを受け取るように――
テニスコートの風の音と、おばあちゃんの穏やかな声が、静かに重なっていた。
戦後80年・終戦時26歳だった・おばあちゃんの心のこもった戦時中の出来事・関東大震災の教訓
一生懸命伝えようとする心は二人にすごく響きます・・ 世界はいろいろもめてはいますが・・
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