気合の入部説明会 62
宇宙を夢見る一人の女子高生と、最先端AIが導く日常。
地球と宇宙を舞台に繰り広げられる、テクノロジーと絆が交差する日常を描いた物語。
これは——とある家族と、その未来を切り拓く少女の軌跡。
静かに、しかし確かに進む“日常”の中に、宇宙の鼓動が聞こえる。
入学式を終えて部室に戻ると、机の上にきれいに並べられた数冊の冊子が目に入った。
「……ん? これは……?」
表紙には《理科部紹介 20X X》の文字。そしてその中には、過去1年の写真と活動内容、さらには後輩たちが書き込んだ手描きの感想まで――いわば、理科部の小さな写真集になっていた。
「おお、すごいじゃん。後輩諸君、よくやったわね」
そう言うと、後輩たちは顔をほころばせながら「えへへ……」と照れ笑い。
「じゃあ明日の部活紹介では、みんな前に出て、この冊子を希望者に配ってね。印刷は間に合いそう?」
「はい、30部刷りました!」
「ナイスね。じゃあ、明日はJAX⭕️スーツで揃えるわよ!」
「えーーーーー!? 部長もーーー!?」
「えっ、なんか恥ずかしい……」「だめですか〜〜!」
「だーめ。部長も着るの! わかった?」
「……はいはい、わかったわよ……(笑)」
ゆきなが笑いながら部室の鍵を取り出す。
「じゃ、あとは任せたわ。はい、鍵。終わったら閉めて、先生に返してね」
「えっ、ゆきな部長、どこ行くんですかー?」
「テニス部。向こうは向こうでやってる頃でしょ? 一応副部長だし」
「はーい、18時までには帰ることー!」
「了解です!」
部室に残った後輩たちが、にこにこしながら冊子を整理していくのを見届けてから、ゆきなは体育館の裏手、テニスコートの方へ向かった。
*
テニス部のコートには、動きやすいジャージやスコート姿の部員たちが活発に打ち合いをしていた。春の夕暮れ、まだ少し肌寒い風の中でも、皆の顔は生き生きしていた。
「あ、ゆきな先輩!」
「お疲れさまですー!」
「……ここはここで、やっぱり良いわねぇ」
一人ごちたその直後、部員の一人がパンフレットを手に走ってくる。
「先輩、見てください! 今年の目標、“全国”って書いたパンフ、できました!」
「って、なんで私とエレナが表紙なのよ!!」
「だって〜。私たちじゃ恥ずかしいし……ほら、もう学校の顔じゃないですか!」
「違うわっ! ……まあ、いいわ。発表は頑張ってね。横に立っててあげるから」
すると、別の部員が資料を持ってきて言った。
「あ、先輩、M地区・春の大会のお知らせが届いてます!」
「来たか……最初の公式戦ね。ここ2年は団体で2連覇中。カップは返せないわね」
「負ける気はしないですよ!」と、部員たちは気合い充分。
「それと、新入部員の新人戦エントリー、忘れないようにね。エレナもよ?」
「はい! 出場資格、ですよね?」
「そう、登録しないと総体に出られないから。大事なのよ、これ」
エレナはまじめにうなずき、データ端末にメモを取り始めていた。
「……ふふ、なんだかんだ、今年も楽しみだわ」
「部長、まずはオーダーよりも……明日、いい子がたくさん来てくれるといいですね!」
「ほんとそれ!」
ゆきなは、夕焼けに染まりはじめたコートを見渡しながら、理科部とテニス部――
どちらの「後輩たち」も、とびきりの一年になりますように、と密かに願うのだった
そんなこんなで一日の活動が終わり、部活帰りにふと「理科部の部室、ちゃんと閉まってるかな」と思ったゆきなは、いつもの廊下を歩いていた。
もう夕方近く、校舎の空気も少し落ち着いている。
曲がり角の手前まで来ると、向こうから楽しそうな声が聞こえてきた。
「楽しくできたね〜!」
「ここまでやって、部長に怒られないかな……」
「大丈夫だよ! 発表のとき、ドキッとしてもらおうよ!」
――ああ、後輩たち、ちゃんとやってくれてるんだ。
そっと顔を出そうとしたが、ゆきなは笑ってやめた。
「大丈夫そうだね、そのまま任せておこう」
隣を歩いていたエレナも、くすっと笑っている。
「エレナは、どんなの作ったかもう知ってるんでしょう?」
「はい!」
「じゃあ、私は明日まで楽しみにしておくわ」
そして、ふとつぶやいた。
「再来年は……あなたか、みすずちゃんが部長ね。たぶん」
エレナは首をかしげながら、少し照れたように答えた。
「願わくば、みすずちゃんに託して……私は副部長でいいかな、って思ってます」
「なるほど。テニス部の方も、どうなるか分からないものね」
「はい。どっちも、ちゃんとバトン渡せたらいいなって思ってます」
「みすずちゃんの成長も、楽しみね」
*
家に帰ってきたゆきなとエレナは、玄関で靴を脱ぎながら声を上げる。
「お風呂行ってくるー!」
お父さんがずるいなあとぼやく
2人で仲良くタオルを持って、大浴場の方へ。
扉を開けると、湯気の向こうに誰かがいた。
「……あれ? 誰かいる?」
「あら、おばあちゃん!」
「おやおや、あんたたちも来たかい」
ひいばあちゃんが、のんびりと肩までお湯に浸かっていた。
「おばあちゃん、常連だよねぇ」
「そりゃもう。ここが一番いいのよ。風呂上がりにソファーでゴロゴロするのが極楽なの」
「テレビも声でつけられるしねー」
「そうそう、昔はこういうの嫌いだったけど……音声操作、意外と楽でね。エアコンも照明も、全部声で済むんだもん。もう戻れないよ〜」
「……さすが最新設備(笑)」
湯船でしばらくのんびりしたあと、エレナがふと思い出したように話す。
「おばあちゃん、この前の研究ノート、確か216ページに”火星に何かが見える”って書いてありました。写真も、ぼやけてはいますが……確かに写ってましたよ」
「見に行ったの?」
「はい。すごかったです……今度、ご一緒しましょう」
「そうかいそうかい……おじいも、なんだかんだでがんばってたんだねぇ……」
やさしい声と、ぽこぽこと静かな湯の音。
その夜は、ゆきなもエレナも、ぐっすりと眠ることができた。
*
そして翌日――
「掲示板お願いしまーす!」
理科部メンバーが手分けして、理科部募集のポスターを校内にぺたぺた貼っていく。
午前中は一年生向けの説明会、2・3年は授業。
午後はいよいよ、全クラブによる部活紹介が始まる。
まずは運動部の発表から。
「テニス部です!」
体育館の壇上、スポットライトの下に立つと、スクリーンに昨年度の実績が映し出された。
ゆきなとエレナが優勝カップを掲げている写真、練習風景、試合のスローモーションリプレイ。
最後に「今年度目標:全国大会出場」の文字が大きく表示され、《強化指定部》と書かれた立派なテニスコートの映像が映し出される。
「興味のある方は、テニス部ユニフォームを着た部員からパンフレットを受け取ってください!」
プレゼンが終わると、数分後には10人ほどの一年生たちがパンフレットを手にしていた。
「よしっ……なかなか好感触じゃない?」
エレナが小声で言うと、ゆきなもニヤリ。
「さて、次は理科部のターンね。後輩たち、仕込んだムービー、魅せてくれるかしら」
静かに、でも楽しげに、次のステージへと移っていくのだった。
次回理科部発表 新規の新入部員ははいるのでしょうか!
たのしみです!
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モチベアップのためにぜひ・ほしい・




