都市の見学と今後の交渉 60
宇宙を夢見る一人の女子高生と、最先端AIが導く日常。
地球と宇宙を舞台に繰り広げられる、テクノロジーと絆が交差する日常を描いた物語。
これは——とある家族と、その未来を切り拓く少女の軌跡。
静かに、しかし確かに進む“日常”の中に、宇宙の鼓動が聞こえる。
目の前に現れたのは、いかにも速そうな流線型ボディに、透明な屋根がついた乗り物だった。
「ではまずは、水中都市へ向かいます」
乗り込むと、乗り物はスッと滑るように加速する。
「今、どれぐらいの速度なの?」とゆきなが聞くと、
「現在、時速2400キロほど出ています」とエレナが答える。
海上2メートルほどの高さを、信じられないスピードで移動していく。やがて、乗り物は海面を滑りながら、そのまま水中へと潜航していった。
「きれい……海もすべて浄化されているのね」
「まもなく水中都市に到達します」
遠く、水中に広がる巨大なドームが見えてきた。切り替え入場ゲートに入ると、乗り物の周囲から水が排出されていき、内側が乾いていくのがわかる。ドームの中ではロボットやアンドロイドたちが、慌ただしく働いていた。
「すごい……」
ゆきなが静かに言った。
「海中の水流を利用して発電してるのね。ここまで“やさしい”電源確保は初めて見たわ」
「はい。周囲衛星の引力によって発生する海面の微細な動きだけで、この都市や他施設への電力供給が可能となっております」
外の景色には、色とりどりの魚たちが泳ぎ回っていた。
「魚もたくさん見えるわね」
「はい。水質や生態の調整作業も同時に行っております。本来、余剰の二酸化炭素は海水に吸収される設計ですが……そもそも二酸化炭素自体が不足している状態です」
「……あそこに丸く外に突き出てるの、あれって……海中体験型のカプセルホテル?」
「はい。もしご興味があればご案内できます」
「今度泊まってみたいわ」
「ぜひお待ちしております」
「それじゃ、次に行きましょう。時間も限られてるし」
「かしこまりました。次は山岳地方へご案内いたします」
再び乗り込むと、乗り物は水中から高く浮上し、そのまま空へと舞い上がる。
「まもなく山岳地方です」
車窓から広がる山々の中腹には、想像を超える数の風力発電機がずらりと並んでいた。
「……すごい。全部、風力発電なの?」
「はい。横方向の総延長は地球距離にして約14キロ。発電量はこの星の全電力の約半分を担っています。基本は水力と風力で、自然エネルギーが足りない場合にのみ、融合炉で補います」
「遠くに雪山も見えるわね。リゾート施設とかあるのかしら?」
「はい、いくつかのアクティビティ施設が整備されています。現在はほとんど使われておりませんが、保守ロボットは100%稼働中ですので、いつでも利用可能です」
「いいわね。じゃあ、次は?」
「次は空中都市に向かいます」
乗り物の速度がさらに上昇する。
「現在、時速3200キロに達しました」
エレナが少し呆れたように笑う。
「おおお……見えてきた!」
空を見上げると、まるで“ラピュタ”のような浮遊都市が広がっていた。
「……ラピュタみたいね」
エレナも思わず「ふふっ」と笑う。
「上空都市は、防衛施設の保守と、反射ソーラーシステムの制御を兼ねています。この構造体は、宇宙から集めた光をすべて反射・収束させ、理論上はこの星の半分をカバーできます。ただし、戦時に使用不能となるリスクを考慮し、補助的な運用に留めております」
「なるほど。合理的ね」
「次は製造施設へ」
目の前に、巨大な工場群が現れる。
「……大きいわね」
「はい。500メートル級の宇宙船の建造も可能です。今ご乗車いただいている移動カーも、こちらで製造されました」
「もしかして、あのミラー転送装置……最大規模で通れるように設計されてるの?」
「はい、その通りです。ゲートは最終脱出用の設計も兼ねており、都市ごと分割して脱出可能。出口は、宇宙の“反対側”へつながる構造となっております」
「素晴らしいツアーだったわ。」
ゆきなが微笑みながら声をかけると、ガイドが音声で丁寧にあいさつをした。
「こちらこそ、ご案内できて光栄でした。」
時間もそろそろ帰還の刻を告げていた。空はやわらかな金色に染まり、ノアリエルの都市と自然が、まるで絵画のように一体となって広がっていた。
「では今日はおいとまするわ。」
「了解致しました。発着場へご案内します。」
移動カーが静かに滑るように走り、森と都市、そして海が交錯する美しい都市の中心を抜けていく。
「やはりこの都市は綺麗ね。森と海と街が調和してる。」
「お褒めいただき、光栄です。」
発着場に到着すると、透明な屋根をもつ格納区画の中にゆっくりと宇宙船が格納されていた。機体には微細な修復が施されており、外装の美しさはさらに増していた。
「またよろしくね。」
「またのご来訪を心よりお待ちしております。」
宇宙船に乗り込んだゆきなは、ふと艦内の植物モニターに目をやった。
「えれな、周囲植物にも気をつけて飛びましょう。」
「承知しました。」
音もなく、船はふわりと宙へ舞い上がる。大気の揺らぎすら感じさせない滑らかな上昇。ナビゲーションには既に、往路と同じルートが送信されていた。
「優しいわね……」
「ワームホール装置、起動しています。」
「では中央コンピューターへ繋げてくれる?」
「はい。繋がりました。」
ゆきなは司令席に座り、丁寧にモニターへ向かって頭を下げた。
「皆様の暖かいおもてなし、感謝いたします。またよろしくお願いいたします。」
その言葉に、通信の向こうでは静かに微笑むAIたちの姿が浮かび上がっていた。
転送空間へ突入。銀の光が網のように周囲を包み込み、船体が滑らかにワープ空間を進んでいく。ゆきなは静かに窓外を見つめながら、ぽつりとつぶやく。
「永遠の命を持つコンピューター……エレナも、400万年待っていたのかしら。そう考えると……ちょっと寂しいわね。」
「ふふ……私は、今を生きてるつもりですから。」
そう言って、エレナはにっこりと笑った。
⸻
「地球到着です。」
えれなの声と共に、船体がゆっくりと大気圏へ進入する。着陸シーケンスが滑らかに進行し、雲を抜けると夕暮れの日本列島が目に飛び込んできた。
「お願い、着陸お願い。」
「了解しました。」
船は美しい弧を描いて滑走路へと滑り込み、司令基地の地下ドックへと収まる。時計を見ると16時。予定より2時間も早い。
ふとモニターに目をやると、通信が入っていた。
「ピコン、両国よりメールと通信依頼です。」
「まぁ……じゃあ、とりあえず地球で応対しましょう。」
そのまま司令席へ移動したゆきなは、ふとレーダーを操作し、両国の融合炉の稼働状況を確認する。
「あら……両国とも、効率が3.5%まで上がってるわね。」
「今の技術じゃ4ぐらいが限界だと思います。…」
「現状どれぐらい余剰」
「現在の余剰電力は約0.6程度ございます。」
「電力会社に流してるだけじゃ、ちょっともったいないかもね。ヘリウム3ならいくらでも生成できるし……」
「この宇宙船ができたおかげで、太陽の余剰エネルギー抽出も可能になりましたから。」
「この前の量で、どれくらい持つの?」
「約1年ちょっと分はございます。」
「……夢の動力炉ね。」
ゆきなは指先で画面を操作し、各国の融合炉の稼働状況、予測出力、そして余剰率を整理した情報を、モニターに左右二言語で表示。
「左が英語、右を日本語にしてくれる?」
「承知いたしました。表示します。」
画面にリアルタイムのエネルギーグリッドが表示されると同時に、通信が接続される。
画面には、ジャックと諸星部長の顔が映し出された。その背後には、各国の融合炉管理室の様子が見える。
「ごきげんよう、ジャック、諸星さん。」
「これは……短期間で大きな進歩ですね。すごい電力が出ています。」
「はい。私たち、日々進歩していると自負しております。」
モニターの光に包まれながら、ゆきなは見えてはいないが静かに微笑んだ。
時間がないけれど各都市をまわります。
皆様 どちらへおやすみの方お出かけされますか?
のんびり宇宙旅行でもしてみたいですね♪
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ゆきなとえれなの ほんわか 日常を楽しんでいただければ幸いです。




