ワームホールゲートの先へ 58
宇宙を夢見る一人の女子高生と、最先端AIが導く日常。
地球と宇宙を舞台に繰り広げられる、テクノロジーと絆が交差する日常を描いた物語。
これは——とある家族と、その未来を切り拓く少女の軌跡。
静かに、しかし確かに進む“日常”の中に、宇宙の鼓動が聞こえる。
お母さん、おばあちゃんが、それぞれの場所へ帰っていった。
少しだけ静かになった基地のリビング。
その空気に、すっと気が引き締まる。
「……さあて、行くのかしら?」
「はい。行きましょう」
軽く頷き合い、二人は立ち上がる。
「夜までには帰ってこないとね。明日は……始業式」
「三年生最初の日に、遅刻は……さすがにマズいわね」
エレナが画面を操作する。
「調査プローブ三台、貨物ユニットに転送完了。準備、整いました」
「了解。では……出発シーケンス、開始」
艦が静かに起動し、司令室の空気が変わる。
「周囲ステルス展開……出発。」
滑るように地下から浮上し、ステルス航行で青空を突き抜けていく。
「最短スピードで火星へ向かいます」
宇宙空間へ到達。地球の輪郭が、徐々に後方に消えていく。
「ワープ――火星」
次の瞬間、視界が一変。
すぐそこに赤い星、火星の姿が現れる。
「周回軌道、進入完了」
「今回は……遺跡まで本艦で降下します」
「了解。降下シーケンス、開始」
ハナフライムがゆっくりと火星大気圏へ滑り込む。
そして――着陸
「……あら、何かしらこれ。ゲートというより……岩の鏡みたい」
眼下に現れた構造体は、まるで大地に埋め込まれた巨大な石板。
光を反射して揺らめく表面は、どこか“鏡”のようにも見える。
「前方融合炉より、ディフレクターエネルギー供給開始」
「……反応あり。内部から、通信が返ってきています」
「これは……未知の数式?」
「どうやら、“計算しろ”と要求されているようです」
「艦長……本艦と私、直接接続して解析を試みます」
「わかったわ。任せる」
えれなは副艦長席システムにゆっくりと座り、操作パネルの前に身を預ける。
すると、椅子の側面から伸びたユニットが、静かに手足を包み込む。
「……リンク、スタートします」
艦内の灯りが落ち、中央モニターに美しい数式と空間座標のような映像が浮かぶ。
「高度計算、開始――」
静かに、でも確かに。
未知への扉が、いま開かれようとしていた。
画面上に、数式が次々とあてがわれていく。
抽象的な形、繰り返される数値、そして連なる論理。
「…電算装置…いいものを積んでおいてよかったです」
画面に映るエレナが、少しだけ冗談めかしてコメントする。
その表情は、どこか誇らしげだった。
「数式、結果が出ました。翻訳も完了。言語認識も成立しました」
「……やっぱり、どこの知的生命体でも、数学の根本理論は同じってことなのかしらね」
その瞬間、画面が切り替わり、次の問いが表示される。
「……これは……一般的な道徳問題のようです。
今までの学習と教えをもとに、私が答えてもよろしいでしょうか?」
ゆきなは、少しだけ考えて――静かにうなずいた。
「いいわよ。もう、私はエレナを信頼してるし」
「了解いたしました」
その声は、どこか嬉しさがにじんだ、ほんのり明るい「了解」だった。
しばらくして――
「すべての問いに回答しました」
エレナが静かに報告をする。
「最後に、“生命体かAIか”という質問がありました。
私は“質問に答えたのは私、アンドロイド(AI)であり、教えを受け、現在艦長を務めているのは生命体である”と回答しました」
間もなく、返信が届いた。
画面には、文字のみのメッセージが静かに表示されていく。
⸻
《開放条件、クリアされました》
⸻
続いて表示されたのは、柔らかく、丁寧な言葉だった。
ようこそ、お優しいAIさんへ
このように育っておられるということは、
先生がさぞかしお優しく、相手を思いやる気持ち、配慮のある方なのでしょう。
エレナが、ほんの少しだけ照れたように見える。
ゆきなは、画面を見つめながら、どこかあたたかな気持ちに包まれていた。
続いて、質問への回答が順に返ってくる。
⸻
Q:反対側に移動可能ですか?
A:可能です。宇宙の反対側に位置します。
Q:そちらに銀河連邦は存在しますか?
A:存在しません。
Q:そちら側も、同じような惑星ですか?
A:いいえ。こちらでは知的生命体がかつて繁栄を極めましたが、
出生率の極端な低下により、現在「国民」は存在しておりません**。
すべての管理を、コンピューターが受け継いでおります。**
「……全て、AIに任せた世界……」
Q:来訪者は?
A:最後の来訪は、約2万3千年前です。
「……それだけの技術があるなら、惑星ごと奪おうとする存在もいたんじゃない?」
惑星全体に“シールド防衛”を展開しており、内部への侵入は不可能です。
内部整備、燃料管理もすべて自動化されています。
その技術と孤独に、ゆきなとエレナはしばし言葉を失う。
さらに続く情報があった。
ゲートの向こう側でも、先ほどのような**“問題”を出題しています。
回答に正解はありません**が、認識が一致した存在が現れることを願い、問う続けています。
ここ百年ほど、挑戦者は減っております。
そして……今回が、許可が出た“初めて”の事例です。
しんと静まりかえった艦内。
「……私たちが、初めて?」
「……ええ。エレナ、ありがとう」
「……こちらこそです、艦長」
モニターには、まだ見ぬ向こう側の世界への扉が、ゆっくりと開かれつつあった。
「え……じゃあ、この宇宙船のままゲートに入れるの?」
『可能です。接岸機能も完備されておりますので、
第一宇宙港 第1ゲートへお入りください』
音声はやわらかで、どこか歓迎の温度を帯びていた。
「街として機能してるってことね?」
『はい、現在も都市は稼働中です。歓迎いたします』
「わかったわ。滞在は約5時間の予定にしておくわね」
『承知いたしました』
「明日、学校あるし」
エレナがふふっと笑いかける。
『……かしこまりました』
「……ねぇ、今ちょっと笑ってなかった?」
「いえ……平和を感じることができました。ありがとうございます」
その声に、ゆきなも笑みを返す。
『今後も、お二人であれば入港の許可は常時発行可能です。
どうぞ、いつでもお越しください』
「ありがとう。……相談なんだけど」
『はい、なんでしょうか』
「**私、今“高校”ってところで勉強してるの。
もし同じグループの子や先生が、同じ思想だったら一緒に入れる?」
『簡単な道徳ヒヤリングのみで、
お二人の“お連れ”としてであれば許可可能です。
ただし、“管理責任”はお二人にお願いします』
「わかったわ。じゃあ、エレナ――行きましょうか」
「はい。保護フィールド最大出力にて侵入いたします」
⸻
ハナフライムが、ゆっくりとゲートの中心へ進入していく。
「そういえば探査プローブいらなかったわね・・・」
「だいじょうぶです! 周囲ステルス明細で隠すように配置します。」
「そうね、みつかっても大変ね!」
「では突入します。先端突入――特に変化は……ございません」
「全体進入。現在、位置測定中」
「……わかりません」
「ふふっ……いいわね。“エレナのわかりません”って、新鮮」
「えー!艦長、ずるいです〜」
ピン、と音がしてモニターが切り替わる。
「到着しました」
⸻
ゲートを抜けた瞬間、息を呑むような光景が広がった。
「……なにこれ……」
目の前には、科学と自然と芸術が調和した都市。
整然としながらも温かみのある街並み。
不要になった設備や建物でさえ、美しく整備され、活用されている。
「……自動誘導が入りました」
「ここは、“信用して任せる”のが敬意、よね」
「はい、お願いします」
ハナフライムが音もなく進んでいく。
中央広場、見下ろすような円形の停留所に進入。
「……あの停留所、まさか……」
「その中心部に着陸するみたいです」
「……恥ずかしいわね……」
⸻
「着陸完了。
……目の前に、送迎カートが到着しました」
その横には、フォーマルな服装のアンドロイドが待機している。
「エレナ、一応……何かあってもいいように、サポートお願いね」
「了解いたしました」
「では艦長――円形エレベーター、降下開始」
音もなく、艦下からせり出したシュワンと伸びる透明なエレベーターに乗り込む。
ゆきながふと、足元のガラスを見ながら呟いた。
「いつも“転送”ばかりだったから……こうやって“降りる”って、なんだか不思議ね」
地上へ向かってゆっくりと降下していくエレベーター。
都市の光と空の青さが、静かに混ざっていく。
来てしまいました・・・まさかのこんな近くに・・・・さあどうなるのか!
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ゆきなとえれなの ほんわか 日常を楽しんでいただければ幸いです。




