地球のしあわせのかたち 57
宇宙を夢見る一人の女子高生と、最先端AIが導く日常。
地球と宇宙を舞台に繰り広げられる、テクノロジーと絆が交差する日常を描いた物語。
これは——とある家族と、その未来を切り拓く少女の軌跡。
静かに、しかし確かに進む“日常”の中に、宇宙の鼓動が聞こえる。
「……綺麗ね……」
ゆきなが、しばらく言葉を失って、目の前の光の帯を見つめる。
「やっぱり……こうして自分の目で見る景色って、写真やデータとは全然違うわ」
「はい。この中に、どれだけの“星”があるのか──」
ゆきなは、ゆっくりと語り出す。
「地球のある望遠鏡の観測によるとね、太陽みたいな恒星の20〜50%が地球型惑星を持っていることがわかってきたの」
「それは……かなり高い確率ですね」
「銀河系には約2000億個の恒星があるから……
地球に似た環境の惑星も、数百億個あると考えられてるの」
「……その中に、知的生命体が?」
「ええ。ざっくりだけど、“1000個の地球型惑星に1つ”の割合で、
知的生命体が存在するかもしれない、って言ってる学者もいるのよ」
「……あくまで仮説だけどね」
「それでも、とても楽しみじゃない?」
静かに頷くエレナ。
ゆきなは、広がる星の海を見つめながらふと尋ねる。
「そういえば……昔、あの世界で戦っていたのはどのあたりだったの?」
「……かなり、遠いです」
エレナが少しだけ言葉を選ぶように間を置く。
「おそらく、20銀河ほど超えた先。
現在の観測では、詳細な座標は特定されていません」
「ふぅん……。じゃあ、今度見に行きましょうね」
「……はい。必ずご案内いたします、艦長」
星の海を背景に、ゆきなとエレナの旅はまた一歩、宇宙の深淵へと踏み出していた――。
「……あと、あのゲートの存在も気になりますね」
エレナが、火星での解析データを改めて確認しながら言った。
「試験用の調査プローブ、すぐに制作に取り掛かります」
「“すぐ”って……明日とか?」
「正解です♪」
「……呆れるしかないわね……」
苦笑するゆきななのであった。
⸻
その後の帰還ルート中、エレナから新たな報告が入る。
「艦長。帰り道、行きのレーダー観測中に資源惑星をひとつ発見しました」
「資源惑星?」
「はい。30分ほど寄り道になりますが……立ち寄ってもよろしいでしょうか?」
「もちろん。どんな惑星なの?」
「鉱物資源が豊富で、宇宙船用の資材として活用できそうです」
「わかったわ。ワープ開始」
⸻
ワープ解除からおよそ1分――
視界が開けると、そこには美しくきらめく鉱石の惑星が広がっていた。
「……わあ……綺麗な結晶体……」
「はい。非常に珍しいです。
いろいろな鉱物が手付かずのまま結晶化し、地表にそのまま露出しています」
「あんなに大きな水晶、見たことないわ」
「測定します……全長143メートル。天然のものとしては、桁外れです」
「……本当に桁が違うわね」
「下層の救助用倉庫に、資材を転送完了いたしました」
「では──戻りましょうか」
「はい♪」
エレナはどこか嬉しそうに笑っていた。
──ゆきなはまだ知らない。
エレナが**内緒で進めている“ある制作計画”**の存在を。
⸻
そして、地球へ帰還。
「戻ってきたわね……やっぱり地球って綺麗。青くて、本当に宝石みたい」
「えれな、もっといろんな綺麗な星があるのよね?」
「はい。生命体がいる星は、多くが似た色合いを持っています。
逆に、**完全に陸地のない“海だけの星”**も確認されています」
「……海だけの星? それも見てみたいなぁ」
「はい。とても楽しみですね」
「では、着艦しましょう」
「了解です。着艦シーケンス開始」
ステルス起動。周囲に人の気配なし。
音もなく、ハナフライムは静かに着陸した。
⸻
「おとーさーん!」
「なんだー?」
「今日は、こっちでバーベキューしない〜〜?」
「おっ、いいねぇ!」
食材はあらかじめ冷蔵冷凍庫に入れてあるので、
「ご飯だけ炊くねー!」
「わかった〜!」
5人の家族が、庭のテーブルを囲む。
炭火の上で焼かれていく焼肉の匂いが、ふわっと広がる。
そのとき――
「お姉ちゃん……志望校、受かったよ!」
弟の声に、みんなの手が止まる。
「おめでと〜〜!!」
「すごいじゃない!」
「でね……」
弟がカバンから何かを取り出す。
「**基本フレームをベースに、オプションで“陸上仕様・空仕様・宇宙空間仕様”**に切り替える構想を立ててみたんだ」
ゆきなが、出された立案図に目を通す。
「ふむふむ……でも、今の技術じゃ燃料もフレーム重量も難しいわね」
「……やっぱ無理だよね」
「……1年ちょうだい。その間に“学年30位以内”に入ってたら、実現可能な案を出させてもらうわ」
「……えっ、本当!?」
「“絶対無理”なんて言わないの。
“考えること”は、正義よ。 あなたも頑張りなさい。部活もね!」
「……うんっ……がんばる!」
「えれな、いけそう?」
「はい。意外となんとかなりそうです。ご一緒に設計いたします」
「宇宙船の事例もありますから、応用できるかと」
未来を語りながらの、にぎやかなバーベキュー。
空には、優しく月と星が輝いていた。
この夜、家族はリビングのソファーや寝室で、ゆったりと眠りについた。
⸻
朝。
大浴場の扉を開けると、湯けむりの中から元気な声が。
「やっほ〜〜! ここのお風呂、もう日課よ〜!」
ひいばあちゃんが、うさぎさんロボットと一緒にやってきた。
「ほんとここ……長生きできそうだわ〜!」
そこへお母さんも入ってくる。
「いやあ……本当、ここのお風呂いいわね。家のお風呂、入りたくなくなっちゃう」
「うふふ……わかる〜〜!」
女性4人。
いつものメンバーが、大浴槽でのんびりと湯に浸かっていた。
「お母さん〜」
「なーに、ゆきな?」
「朝、何食べよっか……」
しばし沈黙。そして――
「……何もないや(笑)」
エレナがくすっと笑う。
「じゃあ、3人でパン屋さんでも転送してもらう?」
「いいね、それ!」
「……わしゃ、おいてきぼりかい?」
ひいばあちゃんが、ふてくされたようにぼやく。
「じゃあ、私とエレナで支えるから、一緒に行こう!」
「おばあちゃん、ほんとなんでも食べるよね〜」
「チーズも好きじゃわい」
元気な3世代女子で、朝の支度は完了。
着替え終えた4人――
ゆきな、エレナ、お母さん、そしてひいばあちゃんは、
街中にあるパン屋さん近くの公衆便所に、こっそり転送。
(※早朝で誰もいないのを確認済み)
光がふっと弾けて現れると――
「おじちゃーん!おばちゃーん!おはよー!」
「あらまぁ!こんな朝早く……それも3世代でご来店なんて、珍しいわねぇ〜」
「おばあちゃん、お久しぶりですね〜」
「お元気そうでなにより!」
「いっしっしっしっ」
ひいばあちゃんは、ゆきなとエレナに腕を取られながら、
ちょっと誇らしげな顔で笑っていた。
「この子たちに引っ張られておるわい」
なんだか嬉しそう。
店内には焼きたてのパンの香りが広がり、
4人は、あれこれとトレイに乗せていく。
焼きたてのチーズパン、クロワッサン、サンドウィッチに季節限定のフルーツデニッシュまで。
買い物を終えると、おばあちゃんは自宅へ直帰。
「ほいじゃあ、またの〜〜」と手を振って、嬉しそうに袋を抱えていった。
その頃、ゆきな・エレナ・お母さんの3人は、
再びこっそり転送で基地リビングへ帰還。
「おばあちゃん、どうしたのそのパン?」
「いいじゃろ!焼きたてじゃぞ!」
「え〜、ちょっとだけ分けてよ〜〜」
「あげないからの!!」
わははと笑いながら、パンの香りとともに、また今日という1日が始まっていく。
朝の静けさの中に、小さな幸せとエネルギーが満ちていた。
探査装置の完成は明日!
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ゆきなとえれなの ほんわか 日常を楽しんでいただければ幸いです。




