新技術とおじいちゃんの発見 56
宇宙を夢見る一人の女子高生と、最先端AIが導く日常。
地球と宇宙を舞台に繰り広げられる、テクノロジーと絆が交差する日常を描いた物語。
これは——とある家族と、その未来を切り拓く少女の軌跡。
静かに、しかし確かに進む“日常”の中に、宇宙の鼓動が聞こえる。
「はい、私も今回、実際に運用してみて……正直、びっくりしました」
火星の赤い表面を背景に、ハナフライムの観測モードが静かに動作している。
「4炉の完全同期運転。そもそも、これまでの宇宙船では“想定外”でした。」
「通常は、メイン炉+予備炉の二系統でバリアも1炉に一つ。切り替えによって運用を続ける方式が主流でしたから、4炉が同時稼働という構想自体が、これまでに存在しませんでした」
「でも、今のハナフライムではそれが“可能”になっている」
えれなが、スクリーンに表示されたエネルギーフローを見ながら続ける。
「特に印象的だったのは、保護フィールド。あの16層のクロス構造が……想像以上に効いているのがはっきりと分かる」
「はい。物理的な防御ではなく、“流れそのものを整える”ことで、出力効率を保ちつつ損耗を抑える構造。これは新しい発想です」
「周囲の粒子の流れがスムーズに制御されていて……内部の負荷を逆に外側に逃がしている。だからこそ、安定して高速航行が可能になるのね」
モニターには、過去の航行記録と現在の比較が並ぶ。
「これは……400万年前の航行速度との比較だけど、あの時代を完全に上回ってる」
「航行距離、出力、空間跳躍回数……どの点でも、かつての記録を越えていますね」
ゆきなは一息ついて、カップの紅茶を口に運ぶ。
「本来、こんな発想……安全及び生き残ることを優先しない限り浮かばないような領域だった」
「それだけに、これは**技術の飛躍というより“躍進”**と呼ぶべき現象なのかもしれません」
静かに火星の光景がスクリーンに映る。
人類がかつて“夢”と呼んだ赤い星のまわりを、
静かに、そして確かに、ハナフライムが周回していた。
「……そういえば艦長、なぜ最後が火星だったんですか?」
火星軌道を周回する静かな艦内。
エレナがふと、不思議そうに尋ねた。
ゆきなは少し笑って、窓の外に広がる赤い大地を見ながら言った。
「…おばあちゃんの話…覚えてる?おじいちゃんの研究ノート」
「はい。飾ってありますね、司令室の本棚に」
「……あれを見返したの。
そしたらね、“火星での天体観測中、たまに機械的なものが見える”って書いてあったの」
「機械的な……?」
「うん。それでね、前回の火星のイメージ写真も見返してみたの。そしたら、確かに何か写ってるのよ」
「……えっ……」
エレナが顔を上げ、すぐに記録ファイルを検索する。
「……あ……。ほんとだ。前回、アトランティスに戻った直後の画像にも……小さく何かが映っています」
「でしょ?」
「では、火星の上空をフルスキャンしてみましょう」
「お願い」
エレナの指が走る。
艦内がスキャンモードに切り替わると、数秒後に警告音が鳴った。
「反応あり……しかも、返信まで来ました」
「……えっ?」
「びっくりですが、解析完了しました。
これは以前、こちらの星系に緊急退避した際に、周囲把握のため展開された偵察衛星です」
「つまり……この火星のことを、“私に”詳細に報告していたってことになります。」
「また重力が小さく、大気が比較的安定していたため、衛星に故障がなかったものと推定されます」
「……」
エレナがさらにモニターに目を凝らす。
「さらに解析が進んでいます。
……詳細は不明ですが、火星表面に**“未知のゲート”**があると、衛星からの報告が来ています」
「未知のゲート……?」
「はい。かなり古いもののようですが、今も機能は維持されているみたいです」
「私たちの技術には該当なし?」
「はい。設計理論も構造も、こちらの技術体系とは一致しません」
「……接続、試してみて」
「了解。接続……完了しました。意外と、簡単につながりました」
数秒後、エレナの目がわずかに見開かれる。
「解析結果、出ました。
これは……ワームホール発生装置です」
「ワームホール……?」
「はい。どことどこを結んでいるかはまだ不明ですが、エネルギー供給があれば使用可能とのことです」
「……ってことは、向こう側が稼働していれば……繋がるかもしれないのね」
「はい。まずは調査装置を送り込む必要がありますが……」
「わかった。それは今度にしましょう」
ゆきなは、ふぅっと息を吐いたあと、空を見上げる。
「……ひいじいちゃんひいばあちゃん、様々ね」
「え?」
「ほら、“ちゃんと全部見ていた”ってこと。
……私たちよりも先に、“火星の違和感”に気づいてたのよ」
エレナがそっと微笑んだ。
「はい。やっぱり、好奇心の目ってすごいですね」
「うん。今度帰ったら、お風呂でお礼言わなきゃ」
火星の静寂の中に、小さな“答え”がひとつ見つかった。
それは、曾祖父とひいばあちゃん、そして過去から続く小さな観測の結晶だった。
「ワープ性能テスト、完全に完了しました」
エレナの報告が艦内に響く。
火星からの帰還後、すべてのシステムは安定して動作を続けていた。
「惑星を観察していた時間を引いたら……移動時間、実質10分くらいよね」
ゆきながモニターを見ながら、素直に驚く。
「すごいわね……」
「はい。とんでもない性能です」
「せっかくだし……時間もあるし。天の川銀河を外から見るくらい、行ってみようかしら?」
「了解いたしました。
実験も兼ねて、今回は4炉中4基を使用、本来の40%出力にてワープを実施します」
「全炉で40%で向かうのね、80%で実際の速度ね♪」
「はい。準備完了、ワープ開始します」
艦体が光の粒に包まれ、空間の中をすべるように加速していく。
窓の外の星々が線となり、後方へ流れていく――
「……綺麗ね。暗いけれど、光の帯が走ってるみたい」
「はい。全ての恒星軌道を、後ろに置いていっています。
予測到着時刻──2分です」
「……えっ、2分!?」
「はい。計算上は、ちょうど2分で完了予定です」
「……呆れるしかないわね……」
ゆきなが苦笑しながら、シートに背を預ける。
「でも、あのね……いきなり宇宙船と戦闘とか、前みたいなのはちょっと嫌よ?」
「ご安心ください。スキャン範囲内に、異常な航行物体、戦闘用艦影ともに検出されていません」
「なら、よかった」
「まもなくワープ出ます」
ふっと、光が消える。
前方のスクリーンには、天の川銀河が、弓なりに広がるように美しく浮かんでいた。
ワームホールゲートの発見その先には何があるのか!
わくわくどきどきです!
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ゆきなとえれなの ほんわか 日常を楽しんでいただければ幸いです。




