地下施設の秘密と某国の介入 49
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
諸星さんのあとに続いて歩くと、厳重なセキュリティを2回突破。
その先のエレベーターに乗ると、“地下30F”の表示が浮かび上がる。
(……本気だ)
と、心の中で呟く。
最深部で待ち構えていたのは、ずしりと重い鉛の扉。
圧倒的な存在感と、まるで“封印”のような空気。
けれど、ゆきなが手にしている職員パスで、扉は静かに解錠された。
「……このパスで通れるなんて……」
「さすがですね。あなたは“特例中の特例”ですから」
ギィィ……と扉が開くと、中はひんやりとしていた。
広い地下実験室。だが、中央には青白く光る機械が静かに存在していた。
「……これが……?」
「はい。小型実験炉です。まだ不安定ですが、現在このロケット発射場全体を単独で賄える電力が出ています」
「すごい……! 実験成功してるんですか?」
「いえ、まだまだこれから。ですが——あなたからいただいたもののおかげで、大きく進展しました」
「……“あれ”が、そんなに……?」
「はい。非常に高濃度で、純度も高く、安定性がありました。まさに“理想的な触媒”でした」
諸星さんの目が嬉しそうに細められる。
「——ですが、今回はこの件で来ていただいたわけではありません」
「?」
案内されたもう一つの部屋に入ると、壁一面に見覚えのある図面や予測図、航行ログの写真が貼られていた。
「……これ……!?」
「そう。国際宇宙ステーションを救ってくれた、宇宙船の記録です」
「……っ……」
図面の細かさ、航跡の残骸、波動シミュレーション……
そのどれもが、あの日のミッションの証だった。
「乗員たちが語る姿勢制御の丁寧さ、搭乗者たちの労りまで、レポートに残っています。とても紳士的な振る舞いだったと」
「……それは……」
「この先10年かかるかもしれませんが、こうして今、地球外との交流に向けて動き始めているのは、あなたのおかげです」
ゆきなが、戸惑いながら口を開く。
「でも……私、ただの女子高生ですよ……?」
「またまた〜」
と、冗談交じりに笑う諸星さん。
「でもね、実際に未来を動かした一人です。燃料、実験炉、その通信権、そして“話す権利”を与えられたのは、日本ともう一国だけ。これはすべて、あなたに“信頼された”結果です」
「……」
「私も一職員として、これからも何かあれば、よろしくお願いします」
深く、丁寧に頭を下げる。
ゆきなも、姿勢を正して静かにうなずいた。
「……はい。お願いします」
「今ね、おじいちゃんの実験ノート、私も読み返しているところです。とても興味深いですよ」
扉の外、地上へ戻る廊下には、まっすぐな照明のラインが続いていた。
——世界が少しずつ、
でも確かに、未来へ向けて繋がっていくのを感じながら。
地上に戻り、ゆきながみんなと合流すると——
「おかえり〜、どこ行ってたのー?」
と、後輩たちがわらわらと集まってくる。
ゆきなは、にこっと微笑んでさらりと答える。
「一応、関係各所にお礼だけしてきたのよ〜」
「さっすが先輩〜!」
そんなやり取りをしながら、再び宿泊所へ戻ると、
エレナがそっと隣に来て、耳打ちしてきた。
「……お姉ちゃん。やっぱり、地下施設はほぼ完璧に隠されています。でも、北側にあるかなり離れた一帯に——おそらくわざとですが、吸排気を通す施設が確認されました」
「……ああ、なるほど。おとりとして見せてるのね」
「はい。意図的に目立たせているように思います」
ゆきなが静かにうなずくと、ふたりは何もなかったようにみんなの輪に戻っていく。
◇ ◇ ◇
その夜、食堂では和やかな夕食タイム。
「今日、ほんと充実してた〜」「ロケットカレーもう一回食べたい」
楽しい声が飛び交うなか、夜の満天の星空が広がっていた。
「すっごい……本当に空ってこんなに広かったんだ……」
理科部に貸し出された望遠鏡を囲んで、みんなが夜空を見上げる。
その中で、それぞれが星に願いを重ねる。
——と、そのとき。
「……お姉様。異常事態です」
急にエレナの声が低くなり、ゆきなの表情が引き締まる。
「北側施設の沖合約10キロ。ステルス潜水艦を確認しました」
「……!」
「現在、ゴムボートで24名が向かっていると推測されます」
「この基地は……気づいてるの?」
「いいえ。まだ警戒反応は起きていません」
「……防衛施設に反応させることはできる?」
「可能です」
ゆきなが静かにため息をついた。
「……もしかして、ハナフライム、上空に待機させてる?」
「はいっ。お姉様保護のため、そして試験運転も兼ねて、現在自動モードで上空待機中です」
「……まったく、あなたって子は……」
しかし、表情にはすでに迷いはなかった。
「では——お願い。海上警報、発令して」
「了解。警報展開します」
直後、種子島周辺の海域に防衛網が自動展開。
自衛隊・防衛部隊の緊急展開が始まった。
◇ ◇ ◇
そのころ、ゴムボート上の潜入部隊。
「……早ぇな……くそ、バレてたか」
「潜入予定だったが、仕方ねえ。せめて確証だけでも……持ち帰るぞ」
海中のステルス潜水艦が潜航を開始。
モニター越しに、その機体が映る。
「これ、どこの国?」
「前回、攻撃レーザーを照射してきた国です」
「……あっそ。なら——遠慮はいらないわね」
ゆきなが振り返る。
「エレナ。レーザーじゃなくて、実弾で。」
「損傷だけに抑えて、捕獲可能な状態にできる?」
「承知いたしました。 実弾であれば、最近の検証で迷彩を破らず、機体をわずかに揺らす程度の制御が可能とわかりました」
「よし。一発だけで、後方スクリューを動作不能にして」
「ターゲットロック完了……発射します」
静かに放たれた誘導弾は、音もなく海面へ向かい——
数秒後、水柱がボンと小さく上がる。
「命中。機体迷彩維持のまま、スクリュー破損を確認。沈没リスクはなし。進行不可です」
「……お見事」
「ありがとうございます、お姉様」
◇ ◇ ◇
その頃、防衛省の通信室では——
「不審潜水艦、行動不能を確認」「無人警備ドローンによる照射追跡継続中なぜ行動不能かは不明」
「やられたな……このタイミングで……」
現場に残されたゴムボート部隊は、追跡中のドローンにより全員が拘束・確保されていく。
ゆきなは、静かに星空を見上げる。
エレナが隣に立つ。
「また……ひとつ、未来を守りましたね」
「……うん。でも、なんだろ。全部、すべてが終わってから、やっと“守れた”って言える気がするのよ」
「はい。それでも、いま目の前にいる人たちを守れたことは、確かです」
ゆきなは、そっと目を閉じた。
満天の星が、何も知らない理科部員たちの目に優しく輝いている。
この穏やかな夜を、誰にも壊させはしない。
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ゆきなとえれなの ほんわか 日常を楽しんでいただければ幸いです。




