出発前夜と母へ秘密のうちあけ 47
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
翌週。
学期末テストが1週間、ようやく終わったその最終日。
ゆきなが、帰りの教室で立ち上がり、手をひらひら振る。
「みんな〜! 春休みの種子島・屋久島研修旅行の予定プリント、渡すわよ〜!」
教室に軽いざわめき。
生徒たちに配られたのは、先生とゆきなとエレナで作った力作の行程表。
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《春休み JAX⭕️研修旅行スケジュール》
1日目:出発の日!
•8:10 羽田空港 集合!
「心配な子は、高校前駅に7:00集合でもOKよ! 一緒に行きましょう!」
「みんな一緒行くーーーっ!!」
と、元気な声が一斉に上がる。
•7:07発の特急(品川行き)に乗って、京急蒲田で羽田空港行きに乗り換え!
•8:08 羽田空港 到着! → 8:40発 SKY303便で鹿児島へ!
•鹿児島に着いたら、すぐにJAL3763(11:05発)で屋久島へ!
•11:45 種子島 到着予定!
•到着後はJAX⭕️巡回バスに乗って、JAX⭕️の食堂でお昼ごはん!
•お腹を満たしたら、宿泊所へ。荷物を置いたらそのまま午後はロケット発射場の後司令所見学!
もしかすると司令所は翌日
•夜は宿舎の食堂で夕ごはんを食べて、
その後は——天体観測予定!
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2日目:JAX⭕️とロケット発射!?
•午前はJAX⭕️司令所の見学。
•そして夕方には、なんと——
ロケット発射予定!
「……中止になったら、その時はその時よ。しょうがないわ!」
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3日目:屋久島へ移動!
•朝、船で屋久島へ移動。
•お昼からは、屋久島の自然を体感する山登り! トレッキングシューズ忘れずに!
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4日目:帰宅予定日
•午前中の便で帰宅予定。
(天候によって変更の可能性あり)
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「ということで、出発はもう来週!」
「春休みの宿題もあるから、今週末はみんなで部室に集まって準備はやるわよー!」
「せんせーに怒られないようにねっ!」
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教室はワクワクでいっぱい。
ひとりが声を上げる。
「絶対! 夜の天体観測、楽しみすぎる〜!」
「宇宙科学館! 写真撮っていいかな!?」
「荷物……やっぱりリュックがいいかな?」
そんな賑やかな声が飛び交うなか、
ゆきなとエレナは、プリントの束を手に、にこっと笑い合っていた。
「準備は……万端ね」
「はい、お姉ちゃん」
春休み・研修旅行前日。
学期末テストの結果が発表され、理科部のみんなは——
「全員合格! 赤点ゼロ!」
「やったー!」「セーフ〜!」
優秀な理科部員たちに、旅行参加の許可が全員分しっかりと降りることになった。
春休みの宿題は、学校側の配慮で現地レポートを提出すればOKという簡略化措置。
高校・中等部の先生たちの理解により、みんなは心軽く旅の前日を迎えていた。
……とはいえ、ゆきなとエレナはその日、部室にはいなかった。
春の日差しが眩しい午後、ふたりは——
テニス部で汗を流していた。
「ナイスサーブ!」「もう1本いくわよ!」
部活後、フェンス際で水を飲みながら、新部長がちょっぴり笑いながら声をかける。
「ふふっ、2人とも理科部があるとはいえ……わかってらっしゃるのね?」
「えっ、なにが……?」
「春休みに来ないってことよ!」
「す、すみませんっ!」
「ごめんなさいっ!」
ふたりはそろってぺこり。
「まったく……私の相手がいないじゃないのよ〜。そこ!」
「(笑)」「(笑)」
先代の部長(もうすぐ大学生)も来ていて、ラケットをくるくる回しながら言う。
「ま、仕方ないけど。大学行っても、たまにはくるわよー。しごきに。」
「わかりました〜」
「コーチ役、やってもらいますからね!」
笑顔とラケットが交錯する春のコート。
ふたりの胸には、少しだけさみしさと、明日への期待が混ざっていた。
◇ ◇ ◇
その夜、自宅リビング。
「明日から種子島まで合宿ね〜」と、お母さんが言いながら夕飯の片付けをしていた。
「うん、朝早いから……もう準備はばっちりよ」
「**ちゃんと連絡はしてね。心配だから。**写真でも、ひとことでもいいから送って」
「はいっ、わかりました、お母様」
すぐに元気な返事をするエレナに、お母さんは笑顔でうなずく。
「えれなちゃんはちゃんとお返事してくれて……ほんとに嬉しいわ〜」
その隣で、ゆきなはやや視線を外してもぐもぐ。
「……誰かさんは、返事もしてくれないものねぇ〜?」
「わかってますってーーーーー!」
「ほら〜、もう。素直じゃないんだから〜」
わいわいといつも通りのやりとりが終わると、時計はもう夜遅く。
「では、おやすみなさ〜い」
「はい。おやすみなさい」
エレナもにこりと笑って、
「おやすみなさいませ」
部屋の灯りが落ちていく中、明日の旅の準備は万端。
あとは目覚ましがちゃんと鳴ってくれるのを信じて、
ふたりは静かに眠りについたのだった。
朝。
ふと目が覚めた。まだ家の中はしんと静まり返っていて、時計は5時を少し回ったところ。
カーテンの隙間から朝の光がわずかに差し込み、鳥の声がかすかに聞こえる。
ゆきなはスリッパを履き、静かに階段を下りた。
リビングには誰の気配もない。けれど、そこにはどこか温かい空気が流れていた。
テーブルに紅茶を用意して、ひとりで湯気の立つカップを手に取る。
「……ここ、一年でずいぶん変わったなぁ……」
ぼんやりと天井を見つめながら、ゆきなは思う。
宇宙ステーション、えれなの存在、JAX⭕️やNAS⭕️とのつながり。
日常の裏側で、少しずつ確実に世界は動いている。
自分の行動が、知らない誰かに影響を与えているかもしれない。
ほんの小さな種でも、どこかで芽を出しているかもしれない——。
「地球が一つに、って……何年かかるかはわからないけど、進んでるって信じたいな……」
そんな時だった。
ふわりとキッチンのドアが開いて、お母さんがやってきた。
「……あら、女同士ね」
「ふふっ、なんとなくお母さん、来るんじゃないかと思ってた」
「私も……なんとなく、ゆきながいる気がしたのよ」
椅子に座るお母さん。紅茶のカップを手に取りながら、ゆきなを見る。
「話があるのね?」
「うん……そうだと思ってた?」
「ええ。ずっと感じてたのよ、あんた、何か大きなことに関わってるって」
少しだけため息をついて、ゆきなは最初からの出来事を順を追って話し出す。
オブラートに包みながらも、嘘はつかないように。
調査船、エレナ、秘密基地、JAX⭕️との協力、そして宇宙の出来事——。
お母さんは、静かに最後まで聞いてくれた。
「……あらまぁ、そんなことになってたのね。でも、すごいじゃない」
「うん……びっくりするよね」
「お父さんの研究員の肩書きもあるし、特許のお金もちゃんと入ってきてるし、家も建てられたし——いいじゃないの、あんたらしくて」
「……うん」
「地球が一つに……平和になったら、ほんと素敵よね」
「うん、ほんとに」
すると——ふいに、ゆきなが声をかける。
「ねえ、お母さん。エレナ、聞いてる?」
「聞いてますよっ」
間髪入れず、声が返ってきた。
「バッチをちょうだい。転送で」
その瞬間、テーブルの上にふわっと光が現れ、かわいらしい桜のマークが入った通信バッチが現れた。
「……わお。かわいいわね!」
「私がデザインしました。これでいつでも通信できます、お母様」
「……やるわね、エレナちゃん」
しばし微笑み合う静かな空気のあと、ゆきなが提案する。
「ねえ、お母さん。朝風呂でも行かない?」
「……えっ、ふたりで?」
「ううん、**下着とタオルだけ持ってきて。きっとね、ひいばあちゃんも誘えば来てくれると思うの」
「えっ……おばあちゃんも!?」
エレナがバッチを操作する。
「おばあちゃん、聞こえますか? お母さんも行くって言ってるけど、来られます?」
「行くよ〜!」
即答で返事が入った。
「さすが……知ってるんだ、おばあちゃん」
「では、転送します♪」
シュインッ!
ゆきな、エレナ、お母さん、そしてひいばあちゃんの3世代+1名は、山の秘密倉庫リビングに転送される。
「あら、かわいいわね〜」
うさぎさんロボが、そっとおばあちゃんの手を支えている。
「ここなのね……お母さん、この扉を開けてみて」
がしゃっ——
開かれた先は、宇宙空間が映し出される大浴場。
「……いい場所じゃろ?」
ひいばあちゃんが胸を張る。
「最近はここで毎日入っとる。わしは死ぬまで、これを内緒で持ってくって決めとるからの! えっへん!」
ゆきなも、エレナも、お母さんも思わず笑ってしまった。
広い湯船に、3世代4人がゆったりと肩を並べて浸かる。
この瞬間だけは、世界の重さも未来の使命も、全部ひとまず横に置いて。
「女性だけの、静かな朝会」
誰にも嘘をつかず、誰にも隠すことなく——
心の奥のもやもやが、湯気と一緒にふわりと消えていくようだった。
そして今日。
このあと、ゆきなたちは——種子島へ向けて、出発するのだった。
今回途中で切りたくなくて3500文字ほどとなっています。
いつまでも元気で親子3世代仲良くいてほしいものです。
ブックマーク! 評価! よろしくお願い申し上げます。
ゆきなの寝っ転がった絵が可愛くてえれなも作ったんですが使い所がなく可愛いのにもったいないなあと思っています。 何かいい案あれば!
ゆきなとえれなの ほんわか 日常を楽しんでいただければ幸いです。




