希望の光 44
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
「船長! 上空に……巨大な質量物体が突如現れました!」
管制室に緊張が走る。
「目視で、全長約40メートル……!」
「ISSがその波動に囚われ、徐々に高度を上げています! しかも速度まで加速して……!」
「なに? ……これは、助けようとしてくれてるのか……?」
その時、モニターに変化が現れた。
「通信信号を受信しました。音声のみです。……現在、翻訳中」
一瞬の静寂。
そして、はっきりとした音声が再生された。
「こんにちは。こちら、調査船ハナフライム艦長です」
艦橋に、未知の存在の声が響く。
「本来、融合炉以前の文明に干渉することは避けるべきと考えております。ですが、皆様の“諦めない心”……そして地球上に2箇所、融合炉に関わるシステムが確認されたため、ギリギリの判断で介入を決定しました」
「技術的な情報漏洩を防ぐため、通信は音声のみとさせていただきます。ご了承ください」
「現在、ISSの落下を防ぐため、我々の牽引波動にて上昇を促し、速度も調整中です。復旧作業が完了するまで、こちらで見守ります。——復旧、よろしくお願いします」
静寂の後、歓声が上がる。
「ハナフライム艦長、ありがとう!」
「よし、みんな! ここからが勝負だ!」
船内の乗組員たちは、希望に満ちた眼差しで再び端末に向かっていく。
そのころ地球上では——
「なんだあれは……!」
「未確認飛翔体か? ファーストコンタクトか!?」
「情報統制を急げ!」
世界中が騒然となっていた。
その頃、ハナフライム艦内では。
「……エレナ。今のところ、平和ね」
「はい。ですが、通信の呼びかけが各国から多数届いています」
「……ふぅ」
ゆきなが、ため息をつく。
「ビビーッ!」
警報音が響いた。
「何!? ロックオン警告です。脅威レベルは低いと思われますが、明確に照準を定めています」
「どこから?」
「地上からです」
ゆきなは一度目を閉じたあと、静かに言った。
「エレナ、拡散モードで主砲、撃てる?」
「可能です。地上200メートルで爆発処理も可能です」
「じゃあ……オープン回線にして。チャージ……発射......綺麗に国の形で降り注ぐ」
ドキューーーン!
音もなく飛んでいった主砲弾は、地上200m上空で見事に散開し、光の輪を作って消えた。
それは――警告だった。
「警告します。現在、ロックオン行為を“敵対行動”とみなしました。次回より威嚇は行いません」
「蒸発すると思ってください」
「この警告は、いかなる国家にも関係ありません。地球全体の意思と理解し、今後はないと信じます」
「通信等を希望される場合、現在確認されている2箇所の融合炉関連拠点による、代表者会談形式のみで対応します」
その言葉の後、地球全体が——静まり返った。
ISS内部。
「……ステーションの皆さん、先ほどは驚かせて申し訳ありません」
ゆきなは、通信を再開し、柔らかく語りかけた。
「いえいえ、こちらこそ。地球の代表として、お詫びします。まだまだ“一枚岩”になれない我々を……どうか、笑ってください」
「いえ、笑うだなんて……」
「このステーションは、世界をひとつに繋ぐ最初の架け橋なんです。だから、ここにいた全員が、地球を代表する“顔”でもあります。——私たちは、まだここにいます。では、復旧作業を続けます」
地球のあちこちでは、騒ぎが続いていた。
「あの角度から撃たれたってことは……どこだ!?」
「どこの国のバカが勝手に照準を!?」
「各国確認急げ! 早くしないと……!」
だが、宇宙では。
ハナフライムは静かに、ISSを守り続けていた。
世界が一つになれるかどうか――今、試されていた。
のんびりとした時間が流れはじめたころ、突如としてダブル通信回線が開かれた。
「こちらNAS⭕️、テクニカルマネージャーのジャックです」
「こちらJAX⭕️、新エンジン開発統括責任者の諸星です」
「……あら、あのおふたりから? まさかのお招きね。招待の経路は明かせないけれど」
通信に応じたゆきなは、静かに答える。
「こんにちは。おふたりが確認している施設と、こちらの判断している拠点が一致しているため、接続をお受けいたしましょう」
姿は見せずに、音声のみで名乗る。
「わたくし、調査船ハナフライムの艦長。そしてこちらは副艦長です」
「お名前を教えていただけますか?」
「申し訳ありませんが、個人名は伏せさせていただきます」
「いえ、こちらこそ……緊急事態におけるご支援、心より感謝申し上げます」
「おふたりの国は、良好な関係のようですね?」
「はい。税制や予算の問題こそあれ、良き友人であり、信頼を築いております」
「それなら……感謝の言葉、ありがたく受け取りましょう。ただし、私は“救助”を行っただけ。これは義務であり、正直、技術的にはとても悩ましい判断でした」
「ですが、地球上において融合炉に関わる施設が2箇所確認されたため、ぎりぎり介入が許容されると判断しました」
「……もし将来的に、融合炉技術が安定し、再び会話の場を持ちたいと思われるならば……副艦長、通信衛星を一基、配置できるかしら?」
「可能です、艦長」
「ではおふたりには、別々の暗号パスワードをお送りします。同時接続のみ許可される形式です。文字通信にてどうぞ」
「その時には、画像通信も許可いたします」
「艦長、通信衛星設置完了しました。ステルス迷彩にて隠蔽済です」
「ありがとう、副艦長。……では、ごきげんよう」
通信が切れる。
「はぁぁ……疲れた……」
「お疲れ様です、お姉様」
「こういうの、エレナに任せたほうがよかったかしら」
「それは無理です。やはりお姉様でないと……」
たわいのない会話が続き、艦内には穏やかな空気が戻った。
「……そういえば、今思ったんだけど、この船って重力あるのね」
「はい。人工重力装置を内蔵しています」
「ということは、宇宙ステーションにも……?」
「0.4G程度には調整可能だと思います」
「それ、いいわね……あ、まさかとは思うけど……ケーキとアップルティーなんて、あったりする?」
「……あります。紅茶シフォンと、水出しアイスティーをご用意しています」
「ふふっ、5人分あったりする?」
「……10人分ございます」
この物語から世界の戦争がなくなり手を取り合える地球を願って
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