緊急事態発生 救助への思い 42
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
――その時、地球の裏側では、誰も予想しなかった異変が起きていた。
「太陽活動が異常活発です。これは……コロナ質量放出(CME)です」
NAS⭕️内のモニタールームで、観測データの異常を検出した研究員が声を上げる。
グラフィック上に描かれる太陽からの放射物。それは、まるで地球を目掛けるかのように直進していた。
「このままだと、ちょうど“太陽に最も近づく軌道上”にいる……国際宇宙ステーションが直撃コースです」
「回避は?」
「不可能です。現在の太陽風圧によって、ステーションの軌道が若干低下しており、影響時間は8時間以内。予定では18時間かけて復旧可能なレベルですが、今回は8時間で大気圏の危険領域へ突入する恐れがあります」
「現在、ISSには何名だ?」
「10名。…うち、脱出船は通常4名仕様。無理をすれば最大7名搭乗可能とされています」
「つまり、3名は残らなければならない…」
沈黙が流れる。
「スペースドラゴ⭕️は?」
「発射準備だけで6時間以上、到達までに更にかかります。到着は間に合いません。
某国の船も戦時中で今回は無理です。」
緊急通信が宇宙へ向けて発信された。
『ヒューストンよりISS。緊急事態発生。脱出船の準備を開始してください。
船内に残る人員は、自由意志による選択とします。30分以内に連絡を。チャット形式で構いません。
残留を希望する者は名乗り出てください』
しばしの沈黙の後――宇宙から、静かに返信が届き始める。
「……残ります」「私もです」「……最後まで責任を持たせてください」
残留を望む者、5名。その顔ぶれを見た地上のスタッフたちは、一様に固唾を呑む。
「ヒューストン。脱出船、5名搭乗完了。シーケンス開始」
その時だった。ステーションの映像に、異常な光が走る。
「ブースターが点火……脱出船が、ISSを引っ張っている!?」
「何をしてるんだ!? あれは脱出用の推進燃料だぞ!」
「少しでも、ステーションの軌道を押し上げようとしてるんだ……!」
その無謀とも言える選択に、誰もが言葉を失う。
自らの安全航路を縮めてまで、残る仲間に“時間”を与えようとしていた。
「……これじゃ、彼らの帰還も危うくなる」
「……わかってる」
その瞬間、脱出船からの通信が入った。
『帰還クルーよりISSへ。……さようならは言いません。また、会いましょう』
スクリーンに映る船員たちが、全員でカメラに向かって微笑みながら手を振っていた。
「あいつらギリギリまで使っていきやがって」
船長が口ずさむ
「切り替えるぞ」
船長の声がブリッジに響く。仲間たちの努力で状況は少し変わったが、それでも成功確率は4パーセントにまでしか上がっていない。まだ“無理”の範囲だ。
「ヒューストン、次のロケットブースターの準備はどうなってる? ここまで届くのに、あと何時間かかる?」
「現在の進捗と準備を含めて……最短で8時間で打ち上げです。ただし、今の軌道では到達は困難。実際には、18時間必要です」
「わかった。太陽風が通り過ぎたタイミングで即発射してくれ。間に合うかはわからないが、次の一手は備えておきたい」
「了解。準備を進めます」
ふと、船長が眉をひそめた。
「おい、そういえば……天⭕️には通告したのか?」
一瞬、通信室が静まり返る。
「……してません」
「なにやってる! 同じ人間だぞ。たまたま影響が小さい場所にあるだけかもしれない。隣国なんだから、せめて通告くらいはしておけ!」
「……わかりました。すぐ通告します」
「できるだけ早く動くぞ。無駄なシステムは全部止めろ。最低限の運用に切り替える。システム復旧を最優先だ。再インストールデバイスは保護箱に入れて、バックアップも3つ準備しろ」
船長は続けた。
「我々も中央保護区画に避難する。放射線の影響をできるだけ避けるんだ。居住区の水や、鉄で囲まれた分厚い壁のある場所に集まれ。反射も利用して凌ぐ。そこで宇宙服を装着してやり過ごすぞ」
“CME(コロナ質量放出)”の影響まで、残り5分。
全員が迅速に指示を実行する。宇宙服を装着し、背中を向けて待機。やがて——
ぎぎぎぎぎ……
ステーション全体が軋むような振動を始めた。過負荷が全体にのしかかり、警告アラームが鳴り響く。
「エラーコード、次々と出ています!」
「現在、影響下にあります。あと20分続きます」
長い20分が過ぎ、静寂が訪れる。
「……終わった。よし、復旧シーケンス開始だ!」
「降下まで何時間ありますか?」
「わかりません! 通信の復旧を最優先します!」
「よし。予定通りの配置で始めるぞ!」
「船長! 再インストール用デバイスのうち、2本が破損しています。残り1本を修復中ですが、2時間かかりそうです!」
「……しょうがない。すべてを失うよりマシだ。続けろ!」
その頃——
日本の緊急ニュースが全国に流れていた。
「速報です。国際宇宙ステーションが現在、落下の危機に直面しています。日本人を含む5名が、全力で復旧作業を行っています。落下まで残り10時間。奇跡の復旧が待たれます」
秘密基地のモニターでそれを見ていたのは、ゆきなとエレナだった。
2人はほぼ同時に振り返り、顔を見合わせる。
「……行くしかないね」
その目に、覚悟の光が宿っていた。
・・・・さて次回ゆきなたちはどのような登場をするのか・・・
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ゆきなとえれなの ほんわか 日常を楽しんでいただければ幸いです




