綺麗な大浴場計画と大晦日 33
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
しばらく、みんなでのんびりと湯に浸かる。
体も心もゆるゆるとほどけていく時間だった。
「……もし一人だったら、これちょっとシュールかもね……」
と、ゆきながぽつりと呟くと、
「艦長、景観を岩だけでは寂しいので、外窓に宇宙空間を映しますね」
パネルが変わり、視界に広がるのはキラキラと輝く星々。
吸い込まれそうなほどの宇宙の深みが、湯気の中に浮かび上がる。
「……最高ね、エレナ」
「お母さまとお料理も楽しいですが、私も一緒に入りたかったです」
「ふふ、じゃあ提案。あのね、秘密基地の裏山、面してるとこあるじゃない?」
「はい、ありますね」
「あそこに入口作って、ここと繋げるの。湯上がりに秘密基地から直行でここ、どうかしら?」
「また大胆な……ですが、恒常的に接続すると電力負荷が高すぎます。代替案として、扉をくぐった瞬間にこちらへ転送、という方式でよろしいですか?」
「それ最高じゃない! 温泉直通ルートね」
「了解しました。うさぎさん用の入り口も設け、設計に反映いたします」
「ありがとう、えれなっ!」
⸻
「キレイキレイしたー! 次いくのー……でも、そろそろおねむなのー」
うさぎさんたちが眠たげにあくびをする。
「うん、じゃあ戻ろっか。また船のこと、教えてくれる?」
「いつでもおいでなのー!」
ほかほかのまま服を着替えると、うさぎさんたちが手際よく髪の毛を乾かしてくれた。
「ありがとー、また来るねー!」
「またねーーーーー!」
たくさんの手が、わらわらと元気よく振られる。
エレナの声が耳元に届く。
「転送、よろしいですか?」
「よろしく、えれな!」
⸻
シュワン――と軽やかな音とともに転送が完了し、ゆきなは自宅のリビングに戻ってきた。
「ただいま〜!」
「おかえり〜! マグロ丼、もうすぐできるわよー」
「お風呂、入ってきたよー」と笑うと、母が振り向いて、
「早いわね、もう少しよ」
ゆきなはふと、ウィンクを送った。
エレナも内心で微笑んでいるのが、なんとなく伝わってきた。
「ほんと、心休まる……うさぎさんたちだったわねー」
翌日は大晦日。我が家には、風邪をひかないための恒例行事があるのだ。
それは、わざわざ山梨まで行って、甲州名物の「ほうとう」を食べ、富士山を見に行くという行事。
「よーし、しゅっぱーつしんこー! 目標は11時到着よー!」
9時過ぎ、みんなで車に乗り込む。今日はテニスもお休み。年末の家族行事に向けて、気合いも十分。
「わぁ、富士山、今日めっちゃ綺麗だねー!」
車窓に広がる壮大な富士を見て、ゆきなが嬉しそうに声をあげた。
「お姉様、すごい大きいです……。遠くから見ると流線型で美しいですが、近くからだと本当に迫力がありますね」
「でしょ? 日本人はみんな、富士山に心を奪われるのよ。だからエレナももう日本人ね♪」
「俺は興味ないけどな〜」と弟がぽそり。
「お前は宇宙人か!」とツッコミが入る。
「いいなぁ、モビル○ーツ……乗りたいなあ」
「なら夢で終わらせずに、ちゃんと設計コンテ描いて提出しなさい。ここだけは譲れない、っていうこだわりを書きなさい。もしかしたら、叶えてあげられるかもしれないわよ」
「えっ、本当⁉️ 今、JAX○とも共同研究してるし!」
「お姉様が嘘をついたこと、あるかしら?」
「小さいズル以外は……ないかも」
「そこは言わなくてもいいの、弟よ!」
エレナがにこにこと笑いながら、時計に表示された文字がふわりと浮かぶ。
《艦載機ロボット、2機ぐらいなら……。弟様の影響で、あの発想もありかと》
「うん、それいいね。新しい発想だと思う。いつまでに原案くれる?」
「冬休み中に!」
「……その前に、受験生。宿題終わってるの?」
「うっ……終わってない……」
「じゃあ、第一志望に合格しないと、お姉ちゃんは動かないからね」
「まじかーー! 今日の夜から本気出すわ!」
車内が笑いに包まれる。お母さんが堪えきれずに吹き出し、
「ふふっ、やる気が出たなら上出来ね。お姉ちゃんが言うと、説得力あるわ〜」
そんな温かい会話の中、車は目的地に到着。時計は10時55分。
店の前にはすでに行列ができていて、名前を書いたあとは山中湖で少しお散歩。
「湖、凍ってるね〜」
「この砂、溶岩の名残ですね。あれ、お姉ちゃん、真ん中にあるあの船は何ですか?」
「あれはね、ドーム船。ワカサギ釣りができるのよ。暖かい室内で、のんびり釣りができるやつ」
「わあ……いつか、やってみたいですね!」
店に戻ると、ちょうど呼ばれそうなタイミング。列はすでに締め切られ、13時半のラストオーダーまでびっしりのようだった。
「私、豚肉〜」「かぼちゃ〜」「お父さんは……かぼちゃと、馬刺しもずくセット!」
「じゃあ馬刺しともずくはみんなでシェアね!」
鍋が運ばれてくると、その大きさにみんなで目を丸くした。
「でかっ! これ、本当に食べ切れるの⁉️」
「これがね〜、食べられちゃうのよ」
それはもう、絶妙な味で。かぼちゃの甘みと味噌のコクがからんだ、心も体も温まる一杯。
「あー、お腹いっぱい〜」
「うん、満足〜」
「年末に、こうやって富士山見て、美味しいもの食べられて、幸せだねー」
そんな家族の笑い声と、温かな空気に包まれた大晦日の昼だった。
そしてその裏で、弟の夢が、少しずつ現実へと形を取り始めていた――。
今日寝るとお正月~
みんなの反応はいかに! 秘密基地もどんどん楽しみに!
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ゆきなとえれなの ほんわか 日常を楽しんでいただければ幸いです。




