ゆきなの秘密基地計画 18
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
「でも、バレてはダメだから……地下施設はこちらで作るとして――」
ホワイトボードの前で、私はマーカーをくるくる回していた。
「上はガレージと休憩施設、うさぎさんが乗り込むロボットで荷受けをするわよ」
「艦長、材料が足りなくなると推測されます」
即座にエレナの冷静な報告。
「甘いわね、エレナ」
私はウインクしながらホワイトボードをぱん、と叩く。
「今はネットで、電話で、なんでも買える時代なの。まずは小ロットでガンガン頼んで。必要なものから揃えていけば、そのうち営業が挨拶に来るはずよ。そうしたら――前金200万渡して登録すれば何トンでもいけるわ」
「了解いたしました。」
「ただし、残高には注意よ」
「今、日本円で2億ちょっとあるけど、増やすとバレるリスクがあるからやめておくわ」
「余剰資材はヤフオクなどで売る際、確認をお願いします」
「それは許可するわ」
「あと、上の建物は地元の建築会社に頼む。色々あとで面倒なことにならないようにね」
私は描いていたメモのスケッチを二人に見せる。下手くそな図なのに、えれなもお父さんもキラキラした目でじっと見ている。
「艦長、中型級の宇宙船も見受けられます」
「そうよ。せっかくだからエレナの“故郷”……調べましょう。まだ先にはなると思うけど」
「……ご配慮、感謝します」
「この絵をもとに、イメージ図および設計図を作成します」
「お願い。そういえば――中型級なら、戦闘・防衛重視でもいけるって計算出る?」
「はい。40m級ですとワープ、戦闘、防衛を兼ねた設計が可能です。イメージ図にも反映いたします」
「最高じゃない!」
がらんどうの木造倉庫で、私たちはわいわいと「秘密基地会議」を開いていた。
「こちらに投影機を転送します。許可願います」
「許可するわ」
倉庫の壁に青白く浮かび上がる、立体ホログラム――
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プロジェクト・ベース「秘密基地施設計画」仕様
■ 地上セクション:
•外観:コンクリ製倉庫(シャッターAつき)
•サイズ:幅10m × 奥行20m × 高さ10m
•ガレージ:右側、スロープつき
•屋根:通信アンテナ & 天体観測ドーム(開閉可)
•居住区:倉庫横の2階建て部屋(遠隔モニター完備)
■ 地下セクション:
•メイン:地下ドック(長さ60m × 幅20m)
•リフト:シャッターA直下から宇宙船昇降
•地下3階相当:核融合炉・整備エリア・リフト格納庫
•秘密通路:倉庫と居住区を地下で繋ぐ
•セキュリティ:顔認証、遠隔監視、パスコード式ゲート
•サポート:ミニロボット(うさぎさん型)による荷受け対応
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「エレナ、完璧よ……! でも、なんで私がこの中に? あとさあのパラボラ大きすぎるからドーム型にしよう!」
「それは、艦長が必要だからです」
にっこり微笑むエレナ。嬉しそうで、どこか誇らしげだ。
その様子を見ながら、父とエレナは顔を見合わせた。
ぼそっと、同時に言う。
「……お姉ちゃんどれだけのことをやれば気が済むんだ」
でもその目には――
“ただ引っ張られながらついていくのも、悪くない。こんなワクワクが、まだ味わえるんだな”
――そんな、あたたかい笑いがにじんでいた。
私たちは頷き合う。
「本当に……想像力豊かで、すごいです」
エレナ、父の言葉に、私はちょっとだけ照れた。
「エレナ、そういえば――あの時の宇宙船、もう再資源化は完了してる?」
私がふと思い出して聞くと、すぐに応答が返ってくる。
「はい、艦長。完了しております」
「現在、金属類は全て揃っていると見られます」
「よかった。じゃあ次は……石や砂ね」
私は地面に目をやる。
「せっかくだし、この場所に埋もれているのをまず再資源化できないか検討してみて。足りないものは発注で。2~3日で仮小屋を建てて、その後――」
「はい、3日程度で、うさぎ型内蔵人型ロボットの作成も完了予定です」
「では……この倉庫も含めて、再資源化開始」
一瞬、視線が倉庫に向かう。
ボロボロだけど、大好きだった祖父の手が残る場所。
でも――
「……あっ、待って」
私は中に走り込んで、古びた棚から一冊の分厚いノートを手に取った。
「このおじいちゃんの研究ノートだけは、私が受け継ぐわ」
ギュッと胸に抱きしめて、しばらく目を閉じる。
「ゆきなは……ほんと、おじいちゃんっ子だな」
お父さんがぽつりとつぶやいた。
そう――
まさか遺言に、あの言葉が書かれていたとは。
「兄弟姉妹、誰も欲しがらなさそうな山の倉庫の場所は、ゆきなに託す」
「お前らはあの場所に来たこともないだろう。素直に渡すように」
変なものばかり作ってたおじいちゃんだったけど、私はこの場所でたくさんのことを学んだ。
ほんとに、秘密基地みたいだった。
「エレナ、追加でお願い。新しい建物には――このノートを中央に、大切に飾れる場所を作って」
「承知いたしました」
エレナは一礼し、手をかざしてデータを登録していく。
「では――再資源化、開始します」
静かに光が走り、瞬く間に――
ボロ倉庫が、草が、石が、ふわりと消えていく。
更地が広がり、見たこともないくらいの空が広がった。
「すごいわね……」
私は唇を小さく開いて見入っていた。
「こんな使い方、私も初めてです」
エレナも少し驚いたように言う。
「もしかしたら、テラフォーミングも、こんな感じだったのかもしれないわね」
私はふと、遠い星々を思った。
「じゃあ――自動作業に任せて、帰りましょうか」
「朝からテニスして、ベトベトよ」
「はい。お母様と夕食は、角煮のようなお料理を作るご予定だとお聞きしました」
「角煮!? それは嬉しいわね!」
「……はい。味覚ができてから、こんなに複雑な味わいがあるなんて、今までわかりませんでした」
「宇宙みたいです」
エレナは照れたように笑って言った。
「……うん。お母さん、ほんと優しいよね」
私も笑顔を返す。
帰り道、スーパーでお母さんの買い物リストをチェックして、いくつかの品を買っていく。
車の中にほんのり広がる甘い匂いと、温かい車内。
今日も、よく動いた――
それでも、心はとても軽かった。
秘密基地計画が始まりました。
わくわくです!
また今後合宿のはちゃめちゃが始まる予定です。
合宿が終わるまで毎日投稿すると決心しました。
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ほんわか 日常を楽しんでいただければ幸いです。