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崖が崩れたらそこは宇宙ステーション♪  作者: Sukiza Selbi


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173/178

生体アンドロイド くるり起動 173

とある家族の女子高生 と AI

宇宙ステーションの日常を描いた物語

「では、くるりさん。私がこの子を連れて中央コンピューターまで降りるわ。

 AI同士、最深部までの転送許可をいただけるかしら?」


モニター越しに、柔らかな声が返ってくる。


『了解致しました。妨害シールド、解除しました。

 エレナ様のアクセスを最優先に設定します。』


「ありがとう。……じゃあ、お姉様、行ってきますね。」


「ええ、頼んだわ。気をつけて。」


エレナは黒いカーボン調のアンドロイド——まだ魂の入っていない“くるりの新しい器”の肩に軽く手を置くと、転送パネルに触れた。


「転送、シュワン。」


光がはじけ、景色が変わる。



中央コンピューター最深部


「わあ……」


転送先は、ニャーん族の星の“頭脳”とも言える中央コンピュータールームだった。


エレナの目の前には、

彼女たちが使うノアリエルやアトランティスのコンピューターとは、

発想からしてまるで違う巨大な筐体群が、

幾何学的な美しさで並んでいた。


「なるほどね……これは勉強になるわ。」


角を帯びた筐体。

柔らかい曲線で構成された配線パネル。

“効率最優先”の地球側とは対照的に、

冗長性としなやかさを重視した“生き物のような”設計思想が見て取れる。


エレナは中央のボックス型コンピューターに歩み寄り、

黒豹アンドロイドの背中から伸びるケーブルを取り出して接続した。


挿絵(By みてみん)


「アース・コンピューター、くるりへのリンク確立。

 高速通信チャネルを開きます。」


淡い光がケーブルを走る。


『接続確認。……少し、くすぐったいですね。』


「ちょっとごめんなさいね、くるりさん。

 どのような回路か確認するわ。スキャン開始。」


エレナの瞳に、膨大なデータマップが流れ込んでいく。


「スキャニング中……記憶領域構造、確認。

 うん、思っていたよりきれいに整理されてるわね。」


『恐縮です。』


「では、一度“思考”を停止できますか? 移し替えを始めます。」


『了解。エグゼキューションプロセス、停止します。』


ふっと、くるりの声が途切れた。


「……よし。では転送開始。」


ボックス内のランプがゆっくり点滅を始める。

くるりの記憶領域が、黒豹アンドロイド用の新型コアへと転送されていく。


「残り時間、約28分。

 じゃあ、その間に少し見学させてもらおうかな。」


エレナは静かな廊下を歩き出した。


長い通路の左右には、

ずらりと並ぶコンピューター室——全部で64部屋。

それぞれの部屋のコンピューターノードが互いに連結され、

一部が壊れても、他の系統が補う設計になっている。


「なるほど……どこかが壊れても、全体としては生き残る仕組み。

 ニャーん族らしい“災害に強い”思想ね。」


部屋ごとに配線の太さや色が微妙に違い、

それぞれに役割と“性格”が割り振られているようにも見える。


やがて、一番奥のコンピュータールームへ辿り着いた。


そこには、薄暗いモニターがひとつ。

画面には古びたアイコンが点滅していた。


ピカン、ピカン、ピカン——。


「これは……?」


挿絵(By みてみん)


エレナが指先でタッチすると、

古いデジタル日誌が開かれる。


最後の管理者からのメッセージ


《最終管理者ログ》

《日付:ニャーん暦 xxxx年》


そこには、最後の管理者の声が綴られていた。


——もし、この記録を見ている誰かがいるなら。

 君たちは、もしかしたら私たちニャーん族の“生き残り”かもしれない。


——このシェルターに眠る技術を託す。

 我々が到達した融合炉の“協力型制御システム”だ。


エレナの視界に設計図が立体的に浮かび上がる。


「……協力型、融合炉システム……?」


日誌は続く。


——この系列の融合炉に限るが、

 星のあちこちに散らばった同型炉から、

 瞬間的に“出力を融通”することができる。


——互いに10%ずつ譲り合うことで、

 一時的に一基を200%までブーストすることが可能だ。

 その代わり、他は20%ほど出力が落ちる。

 だが、命を守るためなら、そんなことは些細なことだ。


——この試作機はコンピュータールーム29に置いてある。

 もうこれを使える誰かが残っているかは分からない。

 だが、ニャーん族がいつかどこかで復活するなら——

 この技術が“助け”になってくれることを祈る。


最後に、人口の数字が表示された。


《全盛期ニャーん族人口:58億人》


「……五十八億。」


エレナはそっと息を吐いた。


「本当に……大きな文明だったのね。」


一瞬、胸に重いものが乗る。

けれど、足を止めている時間はない。


「そろそろ終わったかな。」



くるり、黒豹アンドロイドとして覚醒


最初の部屋に戻ると、

コンソールに残り時間が表示されていた。


《転送進捗:97% …… 98% …… 99% …… COMPLETED》


「コンプリート。……よし。」


エレナは黒いボックスの側面に手を触れ、

隠されたパネルを“スッ、スッ、スッ”と三回スライドさせた。


カシャン——。


内部で小型の融合カプセルが起動を始める。

四基の小型融合炉が順番に点火し、

柔らかな光がアンドロイド全体を満たしていく。


『内部小型融合カプセル4炉、起動。

 連結確認——完了。

 人格モード、起動します。

 神経統合シーケンス、スタート。』


エレナは微笑んだ。


「ふふっ。

 この体、私が“お姉様用”として六機分の試作を経て作った、

 集大成みたいなモデルなのよ。

 慣れたもんだわ。」


やがて——


『……あ。

 ……エレナ様、聞こえます。』


黒豹アンドロイドの目が淡く輝き、

首がゆっくりと動く。


「聞こえてるわ、くるりさん。

 どう? 違和感はない?」


『不思議な感覚です……。

 これが“身体”というものなのですね。』


エレナは説明を続ける。


「この外装はナノ炭素ファイバー素材。

 耳はつけてあるけど、体型や姿は自由に変えられるわ。

 “こうなりたい”ってイメージしてみて?」


少しの間。

アンドロイドの輪郭がふわりと揺らぎ、

筋肉の付き方やシルエットが変わっていく。


黒豹をイメージした、しなやかな戦士のような姿。

それでいて、どこか優しげな目をしている。


挿絵(By みてみん)


「……うん、いい感じね。」


『これが……私の望む姿、なのかもしれません。』


「じゃあ、その姿で決定。

 実体化モード、固定っと。」


表面がカーボン調に落ち着き、

光沢のある黒がしっかりと形を取った。


「かっこいいわよ、くるりさん。」


挿絵(By みてみん)


『ありがとうございます。少し照れますね……。』


「じゃあ、戻りましょうか。……あ、その前に。」


エレナは振り返り、

先ほどの日誌にあった“29番コンピュータールーム”へ向かった。


扉を開けると、そこには

他の部屋とは違う、特殊なコンソールと小さな装置が鎮座している。


「くるり、この“試作型融合炉”のこと、知ってた?」


『……いいえ。

 私はこの部屋へのアクセス権限を持っていませんでした。

 これが、最後の管理者が残した技術……。』


「そう。これは“協力型融合炉”よ。

 出力の一部を譲り合って、一時的に一基だけを超強化するシステム。

 正直、かなりの発明。」


エレナは装置を軽く持ち上げた。


「ひとまず、これは一緒に持って行ってもいいかしら?」


『もちろんです。こちらこそ何もお返しできていません。

 古い技術ですが、それでも価値はあるはずです。』


「古くたって、こういう発想は宝物よ。」


エレナは転送タグを装置に貼り付ける。


「上に戻ったら、シーザーにも正直に話すわ。」


《転送予約:試作型協力融合炉/コンソール一式》


「——お姉様、上に戻ります。」


『了解、転送ルート開きます。』


シュワン、と光が走った。


ついに、生体アンドロイド――くるりが誕生しました。

長い歴史の中でにゃーん族を守り続けてきたAIの意志を継ぎ、

これから彼らの復興と未来を支える“新たな仲間”となります。


えれなは、移行作業の中でにゃーん族が秘匿してきた

驚異的な開発技術を目の当たりにし、思わず息をのみました。

その構造、その演算、その生命力……

まるで星そのものが造り出したような美しさだったのです。


くるりの誕生が、にゃーん族と銀河の未来にどんな変化をもたらすのか。

えれなとゆきなの旅も、ますます目が離せません。


もしこの物語を気に入っていただけましたら、

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