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崖が崩れたらそこは宇宙ステーション♪  作者: Sukiza Selbi


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169/178

グレート・グレズ本星への警告 169

とある家族の女子高生 と AI

宇宙ステーションの日常を描いた物語

 「お姉様、残り三十分で本星です」


 「もうそんなに? ……意外と話し込んでたのね」


 ゆきなは伸びをして、手元のカップを手に取った。


挿絵(By みてみん)


 「帰りはシャワー浴びたいわね」


 「本当ですね。なんだか今日は長い一日です」


 二人の軽いやり取りの裏で、艦内の空調が静かに唸り、冷たい空気が頬を撫でた。


 「飲みかけのコーヒー、冷めちゃったわね」


 ゆきながカップを傾け、最後の一口を飲み干す。


 「星の真ん中に現れた瞬間……攻撃されたらどうする?」


 「それでしたら、その国はもう終わりです」


 エレナの声は落ち着いていたが、わずかに鋭さが混じっていた。


 やがて、航行モニターが警告音を放つ。


 「本星、惑星上空です」


 「了解。戦闘体制に移行。ステルス復旧できるよう準備して」


 「了解しました。シールド系統、警戒レベルへ」


 艦の外では、巨大な惑星がゆっくりと姿を現す。


 その軌道上には、数えきれないほどの円盤型大型艦が、まるで蜂の巣のように配置されていた。


 「すごいわね……あんなに巨大な円盤が、あちこちに」


 「艦長、包囲網、形成されつつあります」


 「想定通り。ステルス解除——」


挿絵(By みてみん)


 艦体を覆っていた光学迷彩が解け、アースが宙に姿を現した瞬間——

 惑星全体がざわめいた。

 軌道防衛艦群が一斉に動き出し、交信チャネルが錯綜する。


 「向こう、大混乱ね。慌てて包囲を展開してる」


 「ええ。でも、撃つ気配はありません」


 「なら、丁寧にいきましょう。上品にね」


 ゆきながゆっくりと姿勢を正し、声を艦内通信へ乗せた。


 「こちら天の川銀河防衛軍アース艦長、ゆきな。星の代表司令との通信を希望します。攻撃の意思はありません。平和的通信を望みます」


 沈黙——数秒の後、通信チャネルが開く。


 『こちらグレート・グレズ本星管制。惑星外周にて確認。どのような用向きでしょうか?』


 「先日、グレート・グレズ辺境防衛軍・クジモ艦長率いる大型艦から攻撃を受けました。


  こちらは防衛行動として最小限の反撃を行い、艦を掌握しています。

  現在、捕虜及び生存者は安全に輸送中です」


 エレナが補足するようにデータを操作した。


 「えれな、データログを」


 「はい。通信経由で転送開始」


 艦橋の空間に、戦闘記録の映像が淡く浮かび上がる。


 「向こう側、受信確認。確認時間は十分。十分後、再通信します」


 十分後——通信が再び繋がった。


 『アース艦長、記録は確認した。……しかし、偽造の可能性もある。これが本当に真実かは断定できない』


 ゆきなは薄く笑った。


 「まあ、そう言うと思った。信じるかどうかはあなたたちの勝手。でもね、一隻の艦は確かにこちらが預かっているわ」


 艦橋の照明がわずかに落ちる。ゆきなの声だけが空気を震わせた。


 「ご提案です。映像を見ればわかると思いますが、制御掌握まで三分とかかりませんでした。この境界線を越えてきた場合——警告なしで掌握拿捕します。覚えておいて」


 『な、何を言っている!』


 「これは最大限の譲歩よ。それでも異議があるなら、銀河連邦のアザト総司令に仲裁を依頼して。彼に話は通してあるわ。正式な経路でどうぞ」


 わずかな沈黙——そして。


 「では、ごきげんよう」


 通信が切れた瞬間、センサーが反応した。


 「お姉様、熱反応上昇中——!」


 「発射前ね。全シールド全開、ステルス即時展開!」


 次の瞬間、アースの艦体が光に溶けるように消えた。

 敵艦の放ったビームは空を切り、何もない虚空を灼きながら霧散していく。


 「……ふぅ。危なかったわね」


 「相変わらず、話の通じない方々ですね」


 「まあ、あれで本星も少しは考えるでしょう。さて——帰りは本当にシャワーね」


 「了解。温度はお姉様仕様にしておきます」


 二人の笑い声が響くブリッジで、アースは音もなく再び星の影へと消えていった。

 その航跡は、平和を望む者たちの祈りのように、銀河の闇の中で淡く光を残していた。


 「おいっ! また消えたぞ!」


 怒号が響く。指令室中の警告灯が赤く点滅し、無数の操作パネルが激しく明滅していた。


 「なにをしている! 何としてもとらえろ!」


 「ビーム砲、全弾命中コース——貫通……!?」


 「貫通だと? この出力でか!? ありえん!」


 巨大モニターには、空間を引き裂くように放たれた光線の軌跡が残る。しかし、その先にはもう何もなかった。


 「艦影消失! レーダー反応、ゼロ!」


 「そんな馬鹿な! 周波数を変えて探せ! 可視・赤外・重力波すべてだ!」


 「全部綺麗さっぱり——写りません!」


 「なんだと……!?」


 本星指令官の額に汗が滲む。


 「全方位、レーザー観測網を展開! 360度で撃ち続けろ!」


 「命令実行中! しかし……反応なし!」


 「あり得ん……もういなくなったというのか?」


 副官が恐る恐る呟く。


 「ですが、司令……実際、発見できません」


 「……!」


 室内に、静寂が訪れた。

 誰もが、今起きたことを理解できずにいた。

 ——目の前で撃ち込んだはずの敵艦が、影も形もなく消えたのだ。


 「報告!」


 「はい、クジモ司令の乗る輸送船と通信が繋がりました!」


 「回線を開け!」


 「繋ぎます!」


 雑音まじりの通信が入る。


 『……こちら、クジモ。全乗員無事だ。』


 「クジモ司令! 一体何があったのです!」


 『……あれは……我々の想像を超えていた。何もできん……完全に掌握された……三分だ。たった三分で……』


 その言葉に、作戦室全体が凍りつく。


 「三分……? たったそれだけで、艦を……!?」


 「ワープ速度の計測は?」


 「……二〇を超えていた。現在の理論値を十倍以上も上回っています」


 「二〇だと……?」


 指令官の誰もが息を呑んだ。

 それは、グレートグレズの科学者たちが「神話の域」と呼ぶ速度だった。

挿絵(By みてみん)


ついに、ゆきなは敵の本星に向けて警告を発しました。

その声は揺るぎなく、しかしどこまでも優しく、

平和への道を最後まで諦めない強さに満ちていました。


暴力ではなく対話を。

支配ではなく共存を。


その願いは、銀河を越えて広がっていく。

けれど――相手がその手を取るかどうかは、まだわかりません。


平和な道を選べるのか。

それとも、避けられない衝突へ進んでしまうのか。


もしこの物語を気に入っていただけましたら、

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