天の川銀河の輝きの中で 162
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
「では、シールド展開。
256層・多重シールド、展開開始。」
パネルの上で光が走る。
モニターに、層を重ねるように透明な防壁が形成されていく。
緻密な幾何学模様が幾重にも重なり、
艦全体を包み込んだ瞬間――
微細な光粒が流星のように外へ散った。
「シールド展開完了。
外殻温度、上昇率安定。推進システム連動確認。」
「動力、主エンジンへ。通常スラスター30%で稼働。」
ブリッジの外では、星空がゆっくりと動き出した。
地球の青が小さくなっていく。
「早いわね……この速度なら、月までもすぐ着きそう。」
「本当に。通常スラスターだけで、これほどの効率とは。」
ゆきなが微笑んだ。
「せっかくだから、天の川を周回して火星を目指しましょう。」
「了解。スラスター出力を徐々に上げます。」
⸻
加速 ― 天の川の輝きの中で
「スラスター出力、80%まで順次アップ。」
振動が少し強くなり、
ブリッジの外の星が流れるように動き始める。
「めちゃくちゃ早い……!
通常動力で、もうワープに入りそうな勢いだわ。」
「戦闘機ではないのに、この反応速度……驚異的です。」
えれなの手元で、
青いゲージが滑らかに上昇していく。
「ワープエンジン、起動準備完了。次元安定層、開放。」
「……行くわよ。」
ゆきなが静かに告げる。
「ワープ1、侵入成功。
2……3……4……5……6……7……8……9……10……」
「11、12、13……14、15……!」
モニターが白く光り、ブリッジ全体が震えた。
「16、17、18、19、20――!」
星が線となり、
天の川全体が光の輪のように周囲を巡る。
「21、22、23、24、25!
本日予定出力接近、エンジン出力50%突破!」
「今日はここまでね!」
ゆきなが息をつき、えれなが制御を安定化する。
「ワープ解除。速度緩和。小惑星群、目前。」
艦体がゆっくりと減速し、
前方に大小の岩塊が浮かぶ。
⸻
「小惑星群到達。相対速度ゼロ。」
えれなが頷き、
ゆきなは前方スクリーンをタップする。
「主砲、副砲――試射開始。」
艦体下部が変形し、砲口がせり出す。
光の粒が収束し、
次の瞬間、
ドン――ッ!
真空に爆ぜる閃光が、岩塊を粉砕した。
「第一砲台、命中確認。破片散布率、3%。」
「第二砲台、補助照準合わせました。」
「副砲、試射開始!」
立て続けに放たれる光の矢。
無音の宇宙で、ただ振動だけが艦を震わせる。
「後部補助砲、準備完了。」
「後部、発射許可。」
三方向から青い閃光が交錯し、
小惑星の破片が一瞬にして蒸発した。
ブリッジに静寂が戻る。
ゆきなは腕を組み、深く息を吐いた。
「……完璧ね。想像してたより、ずっと静かで――美しい。」
えれなも頷く。
「はい。平和のための船、その証がここにあります。」
ふと窓の外を見ると、
遠くに天の川が流れていた。
まるで祝福するかのように、
光の帯が二人の前を横切っていた。
「火星ゲート、申請完了。ノアリエルに接続します。」
えれなが軽やかに報告する。
通信が開くと、どこか嬉しそうな声が響いた。
『こんにちは、ゆきな艦長。ノアリエル統合管制です。
中継で拝見しておりましたよ。新型艦でのご来訪、
工場の皆さまが心よりお待ちしております。』
「ありがとう。では工場発着場にお願い。」
『了解。工場中央広場をお使いください。』
「了解。着陸モードへ移行。」
ブリッジが淡い赤に染まり、
ハナフライムは静かに火星の薄い大気へと滑り込んだ。
地平線がじりじりと輝き、
森の向こうにノアリエル工場群が姿を現す。
まるで生きて呼吸する巨大な機械都市のように、
パイプの森が光を帯びて脈打っていた。
「姿勢制御、安定。
補助スラスター微調整……接地。」
ドスン、と重い衝撃。
着陸脚が赤い砂を踏み締め、
細かな粒子が陽光にきらめく。
外に出ると――
乾いた風が頬をかすめ、
その向こうに作業員たちが一斉に手を振っていた。
「艦長、ようこそお越しくださいました!」
工場長が駆け寄ってくる。
背後には、整備班や溶接班、研究者たちがずらりと並び、
誰もが誇らしげな顔をしている。
「こちらこそ。すばらしい環境ね。」
「どうぞ、自由に見て触ってください。
これは“共同開発”ですからね。」
ゆきなが笑う。
「パワードスーツの積み込みもお願いできる?」
「もちろんです! ゆきな艦長仕様の強化版と、
副長えれな様の改良型、合わせて4機を搭載いたします。」
「助かるわ。弟にも伝えておくわね。」
「では、その間に――ぜひ食事を。
工場街の皆が腕によりをかけています!」
「今日は何にしようかしら。」
ゆきなが尋ねると、工場長がにっこり笑う。
「今人気なのが“一本釣りの魚を使ったお刺身定食”です。
船に乗って釣った魚を、その場で調理してお出しします。」
「おもしろいわね、それにしましょう。」
「では小型船を用意します。ゆきな艦長!」
艶やかな銀の小艇が静かに滑り出す。
赤い海――火星特有の塩湖を横切ると、
透明なドームの内側で人々が釣り糸を垂らしていた。
「お、釣れてる釣れてる!」
「カツオっぽいわね……青い魚!」
えれなが袖をまくり上げる。
「お姉様、がんばりましょう。夕飯のために!」
「うん、今日の私は本気よ!」
まるで子供のような笑顔で釣竿を握る二人。
ラインが震え、銀色の魚が水面を跳ねた。
火星の重力下でゆらめく水飛沫が、
星の光を反射して虹色に弧を描いた。
アースの試験飛行は順調そのもの。
安定した航行データが次々と送られ、艦内には安心と喜びの空気が広がっていました。
そして途中で立ち寄ったのは――おなじみのノアリエル。
久々の地上でのごはんタイムに、ゆきなもえれなも笑顔が止まりません。
今回のメニューはなんと、釣りたて料理方式!
自分たちで釣った魚をその場で調理してもらえる特別スタイルに、
みんなのテンションは最高潮。
宇宙も、日常も、ぜんぶが冒険。
そんな楽しい時間が、今日も広がっていきます。
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