陛下とのお食事と入札結果 150
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
ゆきなは姿勢を正した。
そして静かに口を開く。
「わかりました。とても興味があります。家族で話し合って決めたいと思います。」
ゆきなが考えたふうに
「では、留学にあたって何かご要望はありますか?」
文部科学大臣が答える
「ひとつだけ。レポートを月に一度、お送りして欲しい。
風景写真と、その月に学んだことを一枚にまとめた簡単な報告を。」
その控えめな願いに、陛下が笑みを浮かべた。
「まるで旅の絵日記のようだな。良い考えです。」
⸻
文部科学大臣が続ける。
「ご家族で現地の下見など、行かれますか?」
「もしも許されるのであれば、それは素晴らしいことですな。」
陛下の視線が、副大臣コーチ――佐々◯氏へ向かう。
「佐々◯副大臣、同姓でもありますし、同行いただけますかな?」
「ええ、もちろん。ゆきなさんは私の教え子のようなものですから。」
副大臣が笑うと、会場全体の空気が和らいだ。
「そのように進めましょう。」
総理の一言で場がまとまる。
ゆきなは深くうなずき、言葉を添えた。
「私の高校の後輩たちも、将来こうした交流の機会を持てるようになればと思います。」
「いい考えだ!」
防衛大臣が声を上げた。
「銀河と地球の若者が学び合う――これぞ平和の象徴だな。」
「ノアリエルの守秘義務もありますから、外交上の問題もありません。」
統合幕僚長が静かに付け加えると、全員が納得したようにうなずいた。
「では、正式な回答を――佐々◯副大臣経由でお知らせください。」
「わかりました。より良い返答を出したいと思います。」
⸻
緊張がほどけ、総理が笑顔で言った。
「では、せっかくの晩餐です。楽しみましょう。」
合図とともに運ばれてくる料理。
彩り豊かな前菜、国産和牛のロースト、銀河をイメージしたデザートプレート。
会場は柔らかな笑い声に包まれ、さきほどまでの張り詰めた空気が嘘のように消えていった。
政治家たちの会話の端々から、ゆきなは多くを学んだ。
技術、国際、教育、そして――未来。
まるで吸収されるように、そのすべてを心に刻んでいく。
⸻
夜も更け、最後のデザートプレートが下げられる。
陛下が席を立ち、優しく告げた。
「では――今宵はここまでにいたしましょう。」
「ありがとうございました。」
列席者たちが一斉に立ち上がり、深く頭を下げる。
外には、再び整然と並ぶ専用車の列。
親子三人は一台に乗り込み、白バイ二台の先導のもと、ゆっくりと皇居を後にした。
車窓の外、月光が桜田門の石垣を照らしていた。
ゆきなは静かに窓の外を見つめる。
(……何か、感じる)
言葉にならない感覚。
それは精霊でも、妖精でもない――もっと古い、静かな“何か”。
「ゆきな、どうかした?」
「ううん……なんでもない。でも……不思議なの。」
母も、少しだけ外を見つめていた。
「……この国にはね、昔からたくさんの神さまがいるのよ。」
「うん。なんだか、守られてる気がする。」
車は夜の街を抜け、家路へと向かう。
月明かりに照らされた道路の先に、どこか神聖な気配が漂っていた。
⸻
その頃、宮殿に戻った陛下は、窓際で一人、夜空を見上げていた。
「……不思議なものだな。
あの娘には、何か“暖かい光”が宿っている気がする。」
それが天照に通じるのか、それとも別の何かか。
答えは誰にも分からない。
ただ、確かに“何か”が、あの夜、静かに動き始めていた。
神奈川代表になってからというもの、ゆきなたちの毎日はまるで旋風のように過ぎていった。
東京都代表、静岡代表、千葉代表、埼玉代表――。
各県の代表チームとの練習試合が連日のように続き、土日もスケジュールがびっしり。
「この前の東京戦、ラリー続きすぎて腕パンパンだよ!」
「でもさ、仲良しの東京代表、強いけどお友達もいいね!」
試合後には自然と握手やハイタッチが交わされ、ライバルでありながらも信頼の輪が広がっていく。
東京都代表とは特に親交が深く、学校帰りにお互い半分ずつ行き来して練習試合を重ねる日々。
そんな熱のある環境の中で、後輩たちも確実に力を伸ばしていた。
ある日。
「うわ、初めて負けた……」
三年の中村さんが、ラケットを持ったまま笑った。
相手は一年生。
その瞬間、部員全員が“新しい風”を感じた。
「中村さんが負けた!?」
「いや、マジで強くなってるね、あの一年!」
「次は負けないわよ」
と中村さんが冗談めかして言う。
勝ち負けを超えて、チーム全体に心地よい刺激が走っていた。
ダブルスも絶好調だった。
来年も含めて練習している部長とえれな
部長とエレナの呼吸は、まるで一体のよう。
「ナイスサーブ、エレナ!」
「お姉様・一年生チームもつよいです!」
息ぴったりのコンビネーションに、観客席からも拍手が湧く。
試合後、部長はふと空を見上げた。
(来年以降も、この子たちなら大丈夫ね……)
そんな安堵と、ほんの少しの寂しさが胸をかすめた。
⸻
火曜日。
ゆきなのもとに、一通の封書が届いた。
封筒には「横須賀市 入札結果通知」とある。
「……きたわね。」
手に持つ指先が少し震えた。
「多分、大丈夫だと思ってても、開けるの怖いわね」
静かに封を切る。
そこには――
「第一入札者 決定通知」 の文字。
「やった……! やりましたね!」
エレナが両手を挙げて喜ぶ。
「ふふっ、やっぱり取れたわね!」
日本の長い歴史に触れ、人々の優しさと温かさを肌で感じたゆきな。
その経験は、彼女の中でひとつの確信へと変わっていきます。
――“過去の知恵があるから、未来を築ける。”
そしてついに、入札が正式に通過。
壮大なプロジェクト、宇宙ステーション開発ドックの建設が本格的に始まります。
地球の技術、銀河の知識、そして人の心。
すべてが融合していくその瞬間――
新しい時代の幕が、静かに上がろうとしていました。
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