皇居への道と、銀河への招待 149
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
皇居への道と、銀河への招待
車列はやがて皇居外苑へ。
桜田門の前で門兵が敬礼し、門を開く。
金色の装飾が夕暮れの光に反射してきらめいた。
宮内庁の庁舎を左に見ながら、車はゆっくりとカーブを曲がる。
国賓と正月しか開かれないはずの宮殿前広場が、今夜も静かに灯をともしていた。
⸻
エントランスでドアが開く。
「どうぞ。」
降り立った瞬間、目に飛び込んできたのは、深紅のレッドカーペット。
――宮中饗宴の間。
かつて外国の王族を迎える晩餐会が開かれた、その場所だった。
少し後ろから、時間を合わせるようにしてもう一台の車が到着する。
降り立ったのは、お母さんとゆきな。
二人の姿を見つけて、お父さんは小さく微笑んだ。
三人並んで歩くと、正面で待っていた人物が姿を現した。
「お久しぶりですね、ゆきなさん。お父様、お母様。」
文部科学大臣が優しく声をかけてくる。
「二ヶ月ぶりでしょうか。」
「はい……そんな気がします。」
「ではこちらへ。」
案内された先には長いテーブルがあり、中央には総理大臣、防衛大臣、そして統合幕僚長。
さらに奥には、柔らかい笑みを浮かべる殿下の姿があった。
一瞬で空気が和らぐ。
「では、お食事をしながらお話ししましょう。」
重厚な銀の食器、磨かれたグラス、そして白いクロスの上に並ぶ前菜。
まるで映画のような光景。
総理がグラスを手に取り、微笑んだ。
「ご家族の皆様には、この国の平和に大きく貢献していただきました。
特に――融合炉開発、燃料関連の特許、そしてJAX◯での研究支援。
本当に感謝しています。」
ゆきなは背筋を正し、思わず小さく頭を下げた。
「ありがとうございます。」
総理はうなずくと、少し真剣な表情に変わる。
「さて……ここからが本題です。」
場の空気が静まり、ナイフとフォークの音が止まる。
⸻
「実は、銀河連邦より、正式な封書が届いています。」
その言葉に、テーブルの上の空気が一瞬止まった。
「……銀河、連邦?」
ゆきなが小さくつぶやく。
総理は頷き、手元の封筒を開く。
「率直に申し上げます。
ゆきなさん――あなたを、高校卒業後に“銀河連邦の所属国”へ留学させたいという要請です。」
「わ、私を……!?」
お母さんが思わず手を口に当てた。
お父さんも目を見開く。
「銀河連邦の“七年式教育制度”に基づいた正式な留学です。
この制度のもとで学べば、地球上のどの大学でも学業として認定されます。」
文部科学大臣が穏やかに言葉を添える。
「つまり、地球の教育として認定協定のもとでつながっていると思っていただいて結構です。」
ゆきなは息をのんだ。
手の中のフォークが小さく震える。
「行き先は、まずエルダンカ国。
7年制学校に、4年次からの編入という形になります。」
「エルダンカ……」
その名を聞いた瞬間、心の奥で光が弾けた。
あの青い空と白い雲――光の精霊の国。
一度訪れたあの世界の記憶が、胸の中でよみがえる。
「さらに、途中で銀河連邦の本星の学校にも在籍し、技術国家ドルゴン国にも席を置く形になります。
全体で四年間の課程。国際――いや、銀河間留学という扱いになります。」
防衛大臣が穏やかに笑った。
「向こうでは、もう“ゆきなさん”の名が知られているらしいですよ。」
「えっ!?」
思わずまりあの顔が浮かぶ。
総理は、ゆきなの反応に満足そうに微笑んだ。
「この招待は、あなた個人への名誉であると同時に、日本国への信頼の証です。」
沈黙が落ちる。
お母さんの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
お父さんは静かに頷く。
「……光栄です。」
「準備は時間をかけて構いません。
まずは、ご家族でゆっくりとお考えください。」
総理の言葉に、ゆきなは深く息を吸い込み、そして答えた。
「はい。ありがとうございます。」
その声は、少し震えていたけれど、確かに未来へ向かう意志の響きを持っていた。
⸻
食事のあと、廊下に出ると外の風が優しく吹いた。
月明かりが庭園の白砂を照らし、どこか異世界のように静かだった。
「ゆきな。」
お母さんの声。
「すごいことになったわね。」
「うん……でも、行ってみたい。」
「ええ。あなたらしいわ。」
遠く、皇居の堀に光る波がゆらめく。
それはまるで、銀河への道が静かに開かれているようだった。
ゆきなは、テーブルの上のワイングラスのジュースを見つめながら心の中でつぶやいた。
(……アザト司令、やらかしたわね。自分の希望、もりもりじゃない)
微笑を浮かべつつも、内心は苦笑。
横を見ると、両親はまだ驚きが抜けきっていない。
(まあ、私も驚いたふりくらいは、しておこうかな)
そんな中、陛下が穏やかな声で語り始めた。
「この星で、我が国民が第一の推薦者として選ばれる。これほど名誉なことはありません。誇りに思いますよ。」
その声音には、どこか嬉しさと温かさがにじんでいた。
⸻
そのあと、再び総理大臣が口を開く。
「銀河連邦――平和を願う組織です。
彼らは、以前助けた“ステーション危機”を記録として保存しており、今回の招待は、その次のステップと捉えてよいでしょう。」
「移動手段についても、すでに彼らから通達がありました。
宇宙船での往来が自由とのこと。往復四時間ほどですから、週末だけ地球に戻るといった生活も可能です。」
一瞬、場の空気がどよめいた。
「そんなことが……」
「ええ。国としても最大限の支援を行います。
ただし――この件はアメリカ以外の同盟国には伏せています。
あなた方の安全を最優先に考え、ここにいるメンバーとJAX◯の一部関係者のみ、極秘扱いとします。」
ついに明かされた――銀河間留学の真実。
知っていたというか張本人なんだけど
それでも、改めて言葉として聞かされると、その重みはまるで違っていました。
ゆきなの胸の奥に広がるのは、期待でも不安でもなく、
“覚悟”という静かな決意。
これが、自分の選んだ未来。
それでも、地球で過ごした日々の温もりが、ふとよぎります。
次回、入札結果がどう出るのか――どうぞお楽しみに。
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