団体戦・決戦の午後 145
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
団体戦・決戦の午後
仲間を信じるその目は、きらきらと輝いていた。
***
その頃、学校でも朝の鐘が鳴る前から騒がしかった。
「えっ、全国いったの!?」
「マジで? うちの学校すごくない?」
そんな声が教室や廊下にあふれる中、朝の校内放送が流れた。
《本日はテニス部の団体戦県予選が行われます。シングルス1-2-5、ダブルスでも全国出場を果たしている快挙を受け、団体戦でも順調に勝ち進んだ場合、午後より応援団を編成します》
一瞬静まりかえった校舎に、続けて校長先生の熱い声が響く。
《テニスは紳士のスポーツです。静かに、けれども熱く、みんなで思いを送りましょう。希望者は校内連絡アプリにて申し込み、午後の授業は免除とします》
「免除⁉」「いくしかない!」
あっという間にアプリの申込み欄は埋まり、理科部のメンバーも即座に名を連ねた。
「先輩、がんばってるんだ。応援、しなきゃ!」
ゆきなを慕う後輩たち、いつも一緒に練習してきた仲間たち、そして生徒会の友人たち――
「……あのとき、生徒会に入ってくれてたらな......」
心のどこかで思っていたことが、今、別の形で花開こうとしていた。テニス部、理科部、生徒会――すべての思いが交差する中で、応援希望者は50人を超え、大型バスの座席は満席に。乗れなかった生徒たちは、電車での現地集合を選んだ。
学校の風も、街の空気も、すべてが一つの方向に向かっていた。
全国へ――。
そして、ゆきなたちの戦いの火蓋は、いよいよ切って落とされようとしていた。
お昼になり、応援団のバス組と電車組が次々に出発していった。
アーケードの入口では、のぼりと垂れ幕がいっせいに風に揺れている。
「わああああああああああああ! 高校テニス部、インターハイ出場おめでとうーっ!」
商店街のスピーカーから元気な声が響き渡り、歩いていた先生が思わず涙ぐむ。
「ほんと、みんなの日頃の行いねぇ……」
「まだ勝ってるんですか?」
「勝ってますよ! 今、みんなで応援に行くところです!」
役員たちが顔を見合わせ、のれんをパッと上げた。
「よし、行くぞ! 俺たちも後から追いかける!」
「商店街も全力応援だー!」
アーケード中がざわめきと笑顔に包まれた。
魚屋のおじさんも、八百屋のおばちゃんも、まるで自分の娘を送り出すような表情だった。
地域がひとつになって、若者たちを後押ししていた。
⸻
その熱狂を、まだ知らないテニス部員たちは――。
静かに、しかし着実に、勝ち上がっていた。
団体戦。
シングルス2は、毎試合ごとに出場メンバーを変えて挑戦している。
負けることもある。だが、必ず誰かが勝って戻ってくる。
「せ、先輩……勝ちましたぁぁ……!」
涙をぽろぽろこぼしながら報告してきた一年生。
「手汗がすごかったです! でも、でも、楽しかった……! 来年はレギュラー目指します!」
ゆきなと部長は笑いながら、その子の頭をやさしくなでた。
「よく頑張ったわね」
「ゆきな先輩……部長……。私、推薦断って地元に残ってよかったです!」
「ふふっ、まだまだこれからよ。次は本気でいくわよ」
無名の高校が、ここまで勝ち進むとは誰も思っていなかった。
四回戦の相手は、まさかの常連強豪校。
部員たちは昼食の弁当を囲みながらも、空気が少し張り詰めていた。
「言わなくていいわ、任せなさい」
部長は笑って、コートに歩いていく。
その背中には、もう立派な“キャプテンの貫禄”が漂っていた。
⸻
準決勝が始まる。
相手は徹底的にこちらを研究してきていた。
「かなりあなたの分析をしてきたわね」
「こちらも、そう簡単には負けないわ」
部長の携帯端末に、エレナから届いていたデータがあった。
サービス角度、ストローク軌道、リターン傾向。
完璧な分析表。
「……これ、すごい!」
頭脳派の部長も驚くほどの内容だった。
試合が始まると、次第にギャラリーが増えていく。
「……あれ?」
観客席の端に、見覚えのある姿。
エレナが軽く手を振っている。
隣にはみすずちゃん、浅香先生、そして――校長先生まで!
「えっ、うちの学校から何人来てるの!?」
「パン屋のおじちゃんもいる……!」
「商店街の会長さんまで!?」
驚くゆきな。
だが部長は試合に集中していて、それに気づかない。
スコアボードは――3-0。
「えっ……これ、シングルスより速いじゃない!?」
圧倒的だった。
部長のストロークは相手を翻弄し、最終的に6-1で勝利。
「わーーーーっ!!」
涙ぐみながら勝った喜びで飛び跳ねている部長は輝いていた!
歓声とともに、仲間たちが抱き合う。
向こうのコーチは悔しさで声を荒げていたが、副大臣コーチは静かに微笑んだ。
「何も言うことはないわ。勝者がすべて――正義よ」
その言葉と同時に、コーチもその輪の中に加わり、勝利の歓喜がひとつになった。
⸻
次は、ダブルス1。
ゆきなとエレナの出番だ。
「行ってきます!」
「ゆきなさん、エレナちゃん、最初っから飛ばしなさい。相手はがむしゃらにくるわよ。ペースを取られないように!」
「はい、ありがとうございます!」
的確な指示に、思わず胸が熱くなる。
「……勝ちたいね、エレナ」
「はい、お姉様。絶対に!」
エレナが携帯を見せる。
「相手のペア、分析しておきました。同級生同士で、どちらが引っ張るか決まっていないタイプです」
「なるほど……真ん中を制す、ね」
「ええ、そこを取りましょう」
「わかったわ。サービス、私ね」
ボールを受け取ったゆきなは、深く息を吸い込む。
エレナは、姉の努力を誰よりも知っていた。
夜遅くまで練習してきたジャンピングサービス――
まだ完成度は六割。だが、今日、その瞬間が来た。
「えれな、見てて」
「はい!」
審判がコールを告げる。
「プレイ!」
スパン――!
乾いた音がコートに響いた。
ボールが一閃の光となって弾ける。
「えっ!?」
相手の表情が驚きに変わる。
フィフティ・ラブ。
「ボール、ちょっと光ってない!?」
観客席がざわめく。
まるで思いがこもったような、力強い一撃。
次のサーブも――スパン!
今度は真ん中、ドンピシャ。
「うわあああっ!」
歓声が爆発する。
返してきたボールを、エレナがすかさず決めた。
ストレートが閃光のように走る。
「お姉様、スライス系、外へ逃がします!」
「オッケー!」
息ぴったり。
誰もが見惚れるほどの連携。
二人は互いを信じ、全力で走る。
気づけば、1ゲームも落とさない圧倒的展開。
校長先生も、応援団も、言葉を失って見守っていた。
「ゲームウォンバイ、ゆきな・エレナ!」
アナウンスと同時に、拍手と歓声が渦を巻く。
涙ぐむ観客、中学生のジュニア選手、保護者たち――
誰もが心の中で思った。
――来年は、あそこの高校でテニスに立ちたい。
その願いが、風に乗ってコートを包んだ。
「よし、よくやった!」
副大臣コーチが笑顔で二人の肩を叩く。
「これで、全国の舞台は確実ね」
夕方の光が傾き始め、二人の影が長く伸びていた。
歓声の中で、ゆきなは空を見上げる。
(みんなで、ここまで来たんだ……)
その瞳は、もう次の試合――全国の空を見ていた。
普段はあまり大げさに喜ばない部長が、
もう全身で「やったー!」と喜びを弾けさせたその瞬間――
仲間たちの心も大きく揺さぶられました。
笑顔、涙、抱きしめ合う手。
そのすべてが、「全国へ行く」という夢を確かに感じさせてくれます。
そして次は――団体全国。
あともうひと踏ん張り。
さらに、入札結果も控えていて、ワクワクが止まりません。
青春はまだ加速中!
どうぞ次回もお楽しみに!
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