朝練と、ひそやかな計画――そして「その封書」 141
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
朝練と、ひそやかな計画――そして「その封書」
朝陽が校庭を照らす中、ゆきなとエレナは、テニスラケットを肩にかけて朝練へと向かっていた。今週末に控えた総体予選。校内でもその緊張感が徐々に高まりつつある。
「はい、はいっ、じゃあ次のペアいきましょうー!」
テニス部長の声が響く中、部員たちは汗を流していた。
練習がひと段落した後、理科部のみんなが駆け寄ってきた。
「ゆきなぶちょおお……! 先週の、あれ……怖かったです!!」
「あら、そう? でも……」
「はいっ、楽しかったです!!」
にっこりと笑う彼女。その胸元には、こっそり理科部の校章バッジが光っていた。
「ふふっ……ちゃっかり替えてきたのね。いい感じよ」
副部長に目をやると、「はい、ゆきな部長」と少し緊張した様子。
「ちょっと、こっちに来て。ヒソヒソ話なんだけど……」
「……?」
「ここだけの話よ、内緒ね……浅香先生、プロポーズされたんだって」
「えええええーーーーー!?」
「しっ! 声大きいってば!」
「す、すみません……っ! えぇええ、マジですか!? 来月、決まるんですか?」
「そうなのよ。というわけで――うちら部員も、結婚式、参列決定よ」
「うわぁ、すごいです……あ、せっかくだし、みんなでドレス揃えません?」
「いいアイデア! 意外と私たち、お金あるものね~。まあ、無駄遣いはNGだけど」
ゆきなは軽く微笑んで続けた。
「それとなく、内緒で、今週から“総体だから”って理由で進めておいて。高校生らしく、可愛く、美しく。よろしくね」
「了解しましたっ!」
「それと、8月には理科部卒業生が合宿に来るから。この予定で進めておいてほしいの。直しや指摘があれば、いつでも教えて」
差し出された資料を副部長が受け取る。それは“カゼヒキ作戦”をなぞるように作られた、ハナフライムの出来事をベースにした台本とイメージスケッチだった。ただし、銀河連邦の会議資料をそのまま出すわけにはいかない。重要な箇所だけを削除・加工した“高校用プレゼン資料”だった。
「ちょっと拝見しますね……うわ……まじ、泣ける……」
近くの部員からも、感嘆の声が漏れる。
「先輩方、腰、抜かせますねこれは……」
「私、これ、もし知らなかったら……泣いて失神するかも……」
「ふふ、よかったわ」
「ゆきな先輩、こんなもの……いつ作ったんですか?」
「まあ……妄想に没頭しすぎた結果ってところかしら」
頭をぽりぽり掻くゆきなに、エレナはまっすぐな目で言った。
「私も、負けないように頑張ります!」
副部長が真剣に台本へ書き込みを始める姿を見て、ゆきなは思う。
――楽しみね。どんな風に化けるのかしら。
ふたりは資料を持って夕方の練習へと向かう。
「……あの封書、いつ渡そうかしら」
「簡単ですよ。ヘリウム3を転送するときに箱の中へ……」
「……あああ、そうね、それがいいわ。今週末かしら?」
「そうですね。メール見てみると……あ、今週末からJAX⭕️から搬送要請が来てますね」
「来週……大変なことにならなければいいけど……」
「うーん、でも前代未聞すぎて、もう楽しみになってきました」
ふたりは笑い合いながら、コートに出て、思いっきり汗をかいた。
⸻
そして水曜日。
「お姉様、大変ですっ。油脂類が、車屋さんから大量に秘密基地に届いてます!」
「え? ああ……希望分のやつね。そういえば頼んでおいたわ」
「今の航路なら……地球から20分ってとこでしょうか? 今、すごく早いですからね」
「助かるわ」
「あ、もう一件、お願いがありまして……」
エレナはタブレットを操作しながら続けた。
「今週、ハナフライム1~3号機を一旦改修に入れる予定です」
「了解。で、4号機が例の場所に待機中、5号機がノアリエルと……」
「はい。ノアリエル輸送、および二酸化炭素とヘリウム3の定期輸送が予定されています」
「……じゃあ、あそこで例の手紙を入れるのね」
「はい、タイミング的にもぴったりです」
「あと……日本だけ、今回のヘリウム3、2倍量入れておいてくれる? 気持ちよ」
「了解です!」
「それと……今週、開閉は統括責任者の諸星さんにヘリウム3、直々に受け取り希望の返信お願いできる?」
「ふふっ」
「な、なによ?」
「いえ、地球種子島の件で、1番信頼してるのが……諸星さんなんですね」
「当たり前じゃない。佐々木さんはこっちの本部に集中してるし」
「了解です。ハナフライム1~3号室、改修連絡も完了です」
「では……さくっと、届けに行きますか!」
放課後、部活動が終わったふたりは、大浴場でさっぱりと汗を流す。
湯上がりのゆきなが、タオルを髪に巻いたまま言った。
「えれな、例の荷物、もう積み込み終わってる?」
「はいっ! もちろんです」
「さすが、段取り上手な妹ね」
「ふふふ……お任せあれ」
ゆきなは笑みを浮かべながら、ニャーん族の元へと、配達任務に出発した。
小さな箱の中に、たった一通の手紙を添えて――。
通常のドライアイス回収と、ヘリウム3の納品――
そのいつも通りの作業の中で、ゆきなとえれなはひとつのことを思いつきました。
封書を、納品ルートの中に紛れ込ませるという作戦です。
信頼できる輸送担当の諸星さんに託せば、きっと確実に届けてくれる。
そんな確信のもと、二人は微笑み合いながら計画を進めていきます。
そして次の任務は、ニャーん族への資材運搬。
どんな出会いと出来事が待ち受けているのか――今後の展開が楽しみです。
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