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崖が崩れたらそこは宇宙ステーション♪  作者: Sukiza Selbi


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平和な星の不思議 137

とある家族の女子高生 と AI

宇宙ステーションの日常を描いた物語

「妖精伯、エルダンカの街へ還る」


ゆきなとエレナ、そしてユニコーンの一角は、ゆっくりと石畳の道を歩いていた。


挿絵(By みてみん)


空には淡く虹色に光る薄雲が広がり、エルダンカの街全体が柔らかな光に包まれていた。白壁の家々、木漏れ日が差し込む街路樹、空に浮かぶ透明な魔導板。すべてが静かに、美しく共鳴していた。


「……すごく綺麗ね」


エレナがぽつりとつぶやいた。


「星って、こんなに優しくなれるんだね。いろんな種族がいて、文化も違うのに、いがみ合ってない。共に暮らしてる……こんな星、はじめてかも」


ゆきなも静かにうなずく。


「うん。なんだか、心が解けていくみたい。優しさって、空気にまで染み込むものなんだね」


エレナの視線が空を泳ぐ。


「校長先生は、妖精族よね? それもかなり長く生きていらっしゃる。あなた――一角はユニコーン族。ケット・シー、エルフ族も見たわ。まだまだ種族はいるのよね?」


一角はゆっくりとうなずいた。


「はい。主要種族だけでも、あと27種は存在します。あまり詳しく話してしまうと、出会ったときの楽しみが減ってしまうので……ですが、皆共に支え合って生きています」


「共生関係なのね」エレナが目を細めた。


「はい。エルフ族は《マザーリース》の守護者として中心におり、ケット・シー族は《時空の裂け目》を感知する種族。時空に乱れが生じれば、彼らが真っ先に知らせてくれます」


「へぇ……」


「ユニコーン族である私は、光の末裔。光の妖精王に仕え、自然の循環と調和を見守る使命があります」


そんな会話が続く中、白くそびえる塔の向こうに、ひときわ立派な屋敷の姿が見えてきた。緑の蔦が絡むアーチの門が、ゆっくりと開かれる。


「ゆきな妖精伯、エレナ伯爵――正式なお迎えを申し上げます」


門番の言葉に、二人は思わず姿勢を正す。扉がゆっくりと開かれると、屋敷の中庭には整列した使用人たちが一列に並んでいた。その光景に、思わずエレナの手がゆきなの袖をつまむ。


「ど、どうしよう。めちゃくちゃ格式高い感じ……」


「うん、さすがにドキドキするわね」


一歩前に出た白髪の老執事が、深く頭を下げた。


挿絵(By みてみん)


「わたくし、モルトと申します。代々王家に仕えてまいりました。公爵家が取り潰された折、無念にも事件の兆候を見抜けず……まりあ様が襲撃されたこと、深くお詫び申し上げます」


ゆきなは慌てて手を振った。


「そんな……モルトさんのせいじゃないわ。気にしないで」


モルトはゆっくりと顔を上げ、真剣な眼差しで続ける。


「事件後、わたくしは責任を取り隠居しておりました。ですが、まりあ様の救出と、伯爵誕生の一報により、王より再び呼び出されました。王はこう仰せでした――“新しい時代の立役者となるであろう若き二人に、ふさわしい宮殿を用意せよ”と」


「立役者……?」ゆきなは目を見開いた。


「はい。魔法と科学の融合、そして連邦との懸け橋となる存在。しかも、まりあ様のお友達であるお二人ならば、心も通うであろうと。ユリア艦長、エリオット副司令からもすでに承認を得ております」


モルトは、ひざまずき、頭を垂れる。


「この新しい屋敷、そしてお二人の歩まれる未来に、わたくしの力を尽くさせていただきたく、侍従長の任をお受けいたしたく……」


その言葉に、ゆきなは驚いた表情で手を伸ばした。


「モルトさん、ひざまずかないで。私はまだまだ、ただの女の子です。年齢も経験もぜんぶ、これからなの。だから――お願い。上下じゃなくて、一緒に歩いてくれる?」


その一言に、周囲の侍女たちから「わあっ」と感嘆の声が上がった。


モルトはゆっくりと立ち上がり、微笑んだ。


「……それでは、人生の先輩として。共に学び、共に歩ませていただきます」


「うん、よろしくお願いします!」


ゆきなとエレナ、そしてモルトが、しっかりと手を握り合った瞬間――ただの屋敷ではなく、“家族”が生まれたかのような、あたたかい風が庭を包んだ。


屋敷の中に入ると、再び整列して出迎える使用人たちがいた。しかし、誰も「妖精伯」などとは口にせず、まるで家に帰ってきた娘を迎えるかのような笑顔と声で言う。


「おかえりなさい!」


挿絵(By みてみん)


その一言に、ゆきなは思わず笑みを浮かべた。


「……わかってるじゃない!」


まるでこの家が、ずっと自分たちの帰りを待っていたかのように感じた。そんな、嬉しくてたまらない午後だった。


扉をくぐり、屋敷の廊下を進んだ先。日差しが柔らかく差し込む執務室へと、ゆきな・エレナ・一角、そしてモルトが入室する。


「ではモルトさん」


ゆきなが椅子に腰かけると、肘を机につきながら言った。


「打ち合わせ、いくつかしたいことがあるの。進めても大丈夫?」


「はい、もちろんでございます」


モルトが丁寧に頭を下げ、備え付けの端末を操作すると、透明な魔導式スクリーンがふわりと空間に浮かび上がった。


「まずひとつめ――ゆりあ様とエリオット様からお聞きしております。お二人は“テニス”という競技をなさっているとか。王からも『伯爵邸にふさわしい娯楽設備を』とのご命令があり、屋敷裏に専用のスペースを確保いたしました。ただし……寸法や仕様について、より詳細なご指示をお願いできればと」


「えれな、出せる?」


「はい、お姉様。すでに屋敷設計フォルダに、私たちの標準仕様図を入れてあります」


エレナが手元の端末を操作すると、スクリーンに再び反応が起き、【テニスコート・地球の標準設計図】が空中に展開された。寸法、材質、照明、保守システムまで、かなり細部にわたる内容が記載されている。


「おお……これはまた。素晴らしく精密な設計……!」


モルトは驚嘆しながらスクリーンに見入った。


「“ナイター対応”……つまり、夜間でも競技が可能……ふむふむ。コートの種類も複数……ハード、クレー、カーペット……グラスコート?」


その言葉に、思わずゆきなが吹き出した。


「グラスコートって……それ、天然芝のことよ。うちの地球でもめったにないのに、ここに作れるの?」


「大丈夫でございます」


モルトが穏やかに微笑んだ。


「実は――このエルダンカには“土の妖精”がおります。芝の維持管理も……わたくし、少々心得がありまして」


「モルトさん……さすがすぎるわ」


「次回までには、完成してご覧にいれますとも!」

他種族国家でありながら、驚くほど平和なエルダンカ。

その穏やかな空気の中で、ゆきなはふと考えます。

――なぜ、地球や銀河連邦の周辺では、いまだに戦いが絶えないのだろう。


答えの見えない問いに小さくため息をつきながらも、

まもなく地球へ帰還し、ふたたび“普通の高校生”としての日常に戻る準備を進めます。


けれど――その帰還の先で待つ出来事を、

ゆきなもエレナも、まだ知る由もありませんでした。


静かな余韻と、新たな嵐の予感。

物語は再び、動き出そうとしています。


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