妖精伯 真の誕生 ― 光の誓い ― 136
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
途中切れず長めにお話をお楽しみください。
妖精伯誕生の瞬間 ― 光の誓い ―
「さて……国王陛下も、まりあちゃんも、もう見てるのよね」
マルドア校長は静かに息を吐いた。測定室の前で、白い衣の裾を整える。
「やる意味あるのかはわからないけれど、一応、決まりですものね」
軽やかに笑って扉を押し開けると、そこには荘厳な魔力測定ルームが広がっていた。
壁面は古代の文様に覆われ、中央には人の背丈を超える透明な水晶柱が鎮座している。
天井から降りそそぐ光は、魔力を増幅するための転送陣の反射だった。
音もなく動く歯車の列が、科学の精密さと魔法の神秘を同時に伝えてくる。
この国――エルダンカ王国が築き上げた「魔法と科学の融合」そのものの象徴である。
「先生、感知倍率は……一万倍にしておいたほうがいいと思いますわ」
まりあがそっと耳打ちすると、マルドア校長は目を丸くした。
「そんな必要あるかの? 通常は百倍でも十分じゃが……まあ、試してみるか」
校長は静かに設定を切り替えた。
「ゆきな様、準備が整いました」
「何をすればいいのかしら?」
「この水晶に手を添えてくだされば、魔力量と属性が記録されます」
ゆきなはうなずき、透き通るような指先で水晶に触れた。
その瞬間――。
学校が光に飲み込まれた。
測定装置が軋むような音を立て、床の魔方陣が一斉に浮かび上がる。
壁が震え、天井から光の粒が降り注ぎ、測定ルーム全体が白く染まっていく。
魔力の奔流。まるで星が爆ぜたような光の奔流。
「やばい! 機械が耐えられん、離して!」
校長の声が響く。ゆきなはすぐに手を引いた。
ふう、と光が収束する。だが床の紋章はなおも熱を帯びていた。
「……危なかった。最大値にしておいて正解じゃ」
校長は震える声でつぶやく。
「なに、この数値……」
まりあが小声で囁き、先生の横で魔導タブレットを覗き込む。
「計測不能、ですって……」
校長は息を整え、ゆきなを見つめる。
「妖精王の……宿り主か」
再び詠唱を唱えると、宙に淡い魔法陣が展開された。
そこに現れたのは、輝くような精霊の紋章。
幾何学のようでいて、まるで命そのものが脈動している。
「伝承どおりじゃ……。妖精伯になる者は、妖精王を宿す。
その身は老いず、魔力は無限に循環し、世界の均衡を保つ存在となる。
前代の妖精伯は、巨大船の大艦隊の銀河連邦への侵攻の際その命を灯して皆を守り……いまも“流れ”として残っておる」
ゆきなは静かに息をのむ。「……それほどの存在なのね」
「では、ためしてみようか。何ができるかの」
「一つだけ、思いつくわ」
ゆきなは目を閉じ、胸の奥にある感覚を探る。
(――一角、聞こえる?)
『もちろんです、妖精伯様。お呼びいただければ、いつでも』
「ありがとう。一度、試験として来てもらっていいかしら?」
『喜んで』
ゆきなは顔の横で、ぱん、ぱんと軽く手を叩いた。
その瞬間――空間が音を失った。
そして、裂けた。
青い閃光が走り、空間の狭間から純白の毛並みをもつユニコーン――**一角**が姿を現す。
その姿は神々しく、まるで光そのものを具現化したようだった。
「すごい…な…召喚魔法、それもユニコーン」
校長の声は震えていた。
『召喚に応じるとき、最初から魔力を分け与えられるのです。とても心地がよいものです』
「ありがとう、一角……」
ゆきなが微笑み、そっとその首を抱いた。
「立派だな……ユニコーンよ」
校長が歩み寄り、目を細める。「ゆきな様の友か?」
『はい。妖精伯様より一角の名を賜り、一族の誉れと存じます』
「よい名じゃ……では、一角。立髪を少しもらってもよいか?」
『どうぞ』
校長がその髪を摘み上げ、魔法陣を描く。
窓の外から風が吹き込み、一本の枝が流れ込んできた。
「この木は、マザーリースの子孫。世界樹の系譜じゃ」
その枝が宙に浮かび、光の糸が髪と絡み合う。
融合の瞬間、教室全体が淡い光に包まれた。
「仕上げに……一角、魔力を」
『承知しました』
青白い光が杖を包み、最後にゆきなへと渡された。
「妖精伯様……胸に手を当て、お祈りを」
ゆきなは膝をつき、杖を胸に抱く。
その瞳は真剣で、やわらかく、どこか寂しさを含んでいた。
「――どうか、この星に、そして銀河に……争いのない未来を。
誰もが笑って過ごせる日々を。平和が訪れますように」
その声に応えるように――
空間に光があふれ、百を超える妖精たちが現れた。
羽音のような鈴の音。その中に光の女王の姿も出現する、願いが微細な魔力の粒子となり舞い、空間全体が星屑の海に変わっていく。
まりあは、胸が熱くなった。
(こんな人に出会えてよかった……)
マルドア校長は、ただ静かに涙をぬぐった。
(これほどの杖を作る場面を見られるとは……)
エレナは、光の中で手を見つめた。
「……私にも見える。感じる。お姉様の“願い”が、ちゃんと伝わってきます」
そして、隣で膝をついた。
「私も祈ります。平和のために」
それに釣られるように、一角も、みるちゃんも、まりあも、皆が膝をつき祈り始めた。
――その光景は、まるで希望の光の集まりだった。
やがて、光は杖に収束し、一本の透明なクリスタルダイヤの杖が浮かび上がる。
「ゆきな妖精伯、どうかお手を」
マルドアが促す。
ゆきなが指先で杖に触れた瞬間、世界が静かに揺れた。
柔らかい風が吹き抜け、学校の外、王都の街、果ては星全体に、あたたかな風が広がっていく。
子どもたちが空を見上げ、エンデは時空の狭間で風を感じて笑った。
「すごいや……新しい風だ……!」
その風は、王のもとへも届いた。王は玉座で静かに目を閉じる。
「光の王が再び、この星に舞い降りたか……」
銀河連邦アザト司令にも風が流れる
「ふふっこれからが楽しみだ……」
ゆきなが手を離すと、杖は静かに消えた。
「……で、一応これで合格なのかしら?」
まりあが苦笑する。「合格どころじゃありません! いきなり生徒会長クラスですよ!」
「勘弁して〜」
ゆきなが頬を赤らめ、皆が笑い合う。
そのとき、エレナの体が柔らかく輝き始めた。
校長が目を見開く。
「なんと……生体アンドロイドの君に、妖精の加護が宿るとは!」
「はい……妖精が見えるんです。さっきから一角とも話せて……」
「前代未聞じゃ! 春からの入学時、ぜひ論文にまとめてくだされ!」
「もう宿題!? まだ入学前なのに〜!」
皆が笑う中、校長は膝をついて深く頭を下げた。
「ゆきな妖精伯、あなたの誕生に心より感謝と祝福を。どうか、この国を導いてください」
「だめです、校長先生。私は“習う側”です。上下なんてなしにしましょう」
ゆきなが手を差し出すと、校長は優しくその手を握った。
「……ああ、そうじゃな。では――春にまた会いましょう」
外の風はまだ、やさしく流れていた。
屋敷へ向かう帰り道、ゆきなとエレナ、そして一角は寄り添いながら歩く。
彼女たちの背に、無数の小さな光が降り注いでいた。
それは、新しい時代のはじまりを祝うように――。
ついに――妖精の祝福と魔法力を司る杖が完成しました。
その杖は、ゆきなたちの思いと努力が結晶となった奇跡の品。
中心には魔力の流れを自在に操る高純度の水晶が輝き、
その周囲を覆うダイヤモンドの光輪が、まるで命を宿したように淡く脈動しています。
ゆきながそっと手を伸ばすと、杖が微かに震え、
空中に光の粒が舞い上がりました。
それはまるで精霊たちが「ようこそ」と囁きながら祝福しているかのよう。
校長先生はその光景を見つめ、静かに涙をこぼしました。
「これが……本当の融合なのですね。」
科学と魔法、知恵と信念――それらすべてがひとつに溶け合う瞬間。
そして、ゆきなの新しい旅が、ここから始まります。
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