川沿いの午後と、魔法学院への訪問 135
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
真の妖精伯誕生まであと1話 お楽しみに!
川沿いの午後と、魔法学院への訪問
「では、店主。テイクアウト分も多めにお願いしますね」
にっこりと笑って、ゆきなは銀河連邦指令の身分証明書を預けた。王族の推薦状と妖精伯の名を持つ者に、店主も恐縮しながらも「ありがたく頂戴いたします」と深々と頭を下げ会計をする。
「さてと、食後の運動がてら歩こうかしら」
ゆきなが立ち上がると、まりあもエレナもすっと並ぶ。
「お供しますわ」
「私も、お姉様と一緒に歩きたいです」
三人はゆっくりと川沿いの石畳を歩き始めた。木漏れ日が水面を照らし、妖精の粒子のような光がちらちらと舞う。
「今日は楽しかったなぁ……。でも今週あんまり運動できてないから、帰ったら特訓ね、エレナ」
「はい、お姉様。スピン強化、あと持久力もですね……」
くすっと笑い合いながら歩くその背後には、テイクアウト用のリゾット鍋が、店の魔導宅配サービスでそっとゆきなの船へ向かっていた。
しばらく歩くと、視線の先に高い塔と緑に包まれた美しい校舎が見えてくる。異世界とは思えぬほど整った、しかし魔法の気配が濃厚に漂う施設。
「えっ……あれ、学校?」
「そうですよっ」
まりあが胸を張って答える。「私が通っている、魔法と科学の調和教育を行うエルダンカ魔法学院です」
その時――
「おーい! まりあー!」
耳の先がぴょこっと動くケット・シー族の少女が、芝の坂道から手を振って駆け寄ってくる。
「みるちゃん!」
まりあが手を振り返す。
「今日はどうしたの? 学校に来れるなんて珍しいわね」
「うん、来年この学院に編入したい子がいるから、先生に話をしに来たのよ」
「へぇ、編入ってできるんだ」
みるちゃんが感心していると、みるちゃんがぴょんっと跳ねてこちらを見つめる。
「ん……? その人族の子たち、もしかして見学者?」
「うふふ。紹介するわ」
まりあが楽しげに言った。
「こちら、天の川銀河代表、ハナフライム号艦長であり妖精伯のゆきな様。そして妹のえれな様は伯爵ですのよ」
「おおおっ! すごいじゃないの!」
ぱっと目を輝かせるみるちゃん。
「王様推薦って聞いたよ! 今日試験を受けるの?」
「ええ、マルドア校長先生にお会いしに行くところなの」
「じゃあ、私も一緒に行くー! どうせ暇だし!」
「ほんと? 嬉しいわ」
ゆきなが笑顔で言うと、みるはふと何かを思い出したように言った。
「あ、そういえばさ……さっき、あなたの将来の旦那に会ったわよ」
「……えっ、エンデがここに!?」
みるちゃんが目を丸くする。「なんで寄っていかないのよ! 暇してたって言ってたのに!」
「相変わらず気が利かない王子だなあ」
「いや、来たら来たで面倒くさいからいいよ……」
その場に吹き出す笑い声が広がる。ゆきなも思わず噴き出し、
「大変そうね、みるさん」
と微笑む。
「でも、来年編入したら、ゆきな先輩ですね。よろしくお願いします!」
「前代未聞の編入、楽しみにしてるわ」
エレナも嬉しそうにうなずいた。
「さあ、行きましょー!」
「えいえいおー!」
てくてくと、魔法の学院への坂道を登っていく。
「みるちゃん、可愛いですね」
エレナがぽつりと言う。
「いい子なんですよ、なんだかんだでエンデのことが好きなのに、照れちゃって……」
「こらっ! 私のこと暴露しない!」
みるが赤面して抗議すると、ゆきなもまりあも大笑い。
「マルドア校長、今どこにいるの?」
「そりゃまあ、たぶん“時読みの塔”にいるんじゃないかな」
そうこう話しているうちに、一行は校舎の奥、ひときわ高くそびえる石の塔の前にたどり着いた。門の扉をノックしようとしたとき、ギィィィ、と自動で開く。
「おお、みるじゃない。……おや、まりあ姫もごきげんよう」
現れたのは、灰銀の羽がでかく年配の女性。深い青のローブには魔力を封じ込める複雑な紋様が刻まれている。
「校長先生、お久しぶりです」
まりあが笑顔で頭を下げる。
「……見知らぬお嬢さんが二人おるな。ふむ、一人は……やばいね」
「わかります?」
まりあが目を丸くする。
「うむ。噂の……妖精伯であろう?」
「はい。ゆきなと申します。本日はご挨拶に参りました」
「お目にかかれて光栄です。わしはこの学院の校長、マルドアと申す」
マルドアは深く一礼をし、少し目を潤ませながら続けた。
「まりあ姫がご無事で何より……。私は本当に、あの時、エルダンカの希望が消えたと、心から悲しんでおったのです」
「でも、“時読み様は必ず戻る”と占いに出て……わしはそれを信じ、ただひたすら待っておっただけでした」
そう語る校長の目は、優しさと深い信念で満ちていた。
ゆきなは、学院の空気を胸いっぱいに吸い込む。
目の前に広がる緑の中庭、空へ伸びる塔、そして魔法の光に包まれた校舎の匂い――
ここなら、きっとたくさんの学びと出会いがある。そう感じさせてくれる、あたたかな午後だった。
ついに、ゆきなたちは魔法学院へと到着しました。
学院を率いる校長先生も、なんと長寿の妖精族。
その穏やかな笑みの奥に、深い知恵と魔力を感じさせます。
そして――次回、ゆきなの「開放」が始まります。
彼女にどんな変化が訪れるのか、どうぞお楽しみに!
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