河岸のテラスにて 〜精霊と笑いと魔法の午後〜 134
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
真の妖精伯誕生まであと2話 お楽しみに!
河岸のテラスにて 〜精霊と笑いと魔法の午後〜
「食べちゃった……」
ぺろりとお皿を平らげたのは、ゆきなだけではなかった。王様も、第一王子も、妃殿下も、まりあ姫も、もちろんエレナも。そして銀河連邦の制服を着た随行員たちも、口々に
「美味しい…」「香りが…」「忘れられない」
と、夢見心地の表情を浮かべていた。
店長が満足そうに厨房から出てくる。
「はいよっ、締めのデザート!」
と運ばれてきたのは、透き通るような妖精ゼリー。ふんわりと光を放ち、口に運ぶと淡い甘みと微かな果実の香りが広がる。香ばしいハーブティーとともに、まるで時間が止まったようなひとときを味わっていると――
「もわもわも……」
突然、テーブルの真上に淡い光が集まり始めた。ぽしょんっ――と、まるで空間が弾けたように、もふもふの生き物が現れる。猫のようで、狸のようでもある、不思議な姿。その小さな生き物はテーブルの上に二本足で立ち、川の方をじっと見つめている。
「……えっ?」
全員が固まった。もぐもぐとゼリーを咀嚼していたエレナも、飲みかけのティーカップを持ったまりあ姫も、王様ですら一瞬動きを止めた。
「ゴニョゴニョ……ここんとこ、時空のうねりに巻き込まれてたから……全部の妖精の光がここに見えるんだよなああ〜」
ゆきなが吹き出した。
「ぷっ……」
王様が、眉をひそめつつも目を細めて声をかける。
「おや……ケット・シー族のエンデではないか? 久しいのう」
「あっああああっ、王様!? なにしてんのこんなとこにっ! あっ、まりあ姫にお妃様まで……今日も美しゅうございます!」
ピシッとお辞儀するエンデ。そして第一王子にも「ご謙遜で……」と畳み掛けたその先に、ゆきなとエレナを見る。
「ん? 君たちは……だーれ?」
「こらエンデ、お前なあ」
王様が少し呆れた声で言う。
「そこにおられるのは、天の川銀河代表、ハナフライム号艦長にして銀河連邦司令、そしてエルダンカ王国から妖精伯の称号を賜った――」
「――ゆきな様と、えれな様であるぞ」
「うぉあ!?」
エンデが目を見開く。すかさず、ゆきながデザートのゼリーをスプーンでグチュッと口元に押し付ける。
「甘いのいっときなさい、ね?」
「……あめぇな……でもごっそさんだぜ……」
ふにゃあと笑うエンデに、王族たちも大笑い。テラスには柔らかく、あたたかな笑いが満ちていた。
「エンデさん、こちらが妖精伯のゆきな様と、伯爵のえれな様ですわ」
まりあが紹介を加えると、2人は立ち上がって礼をした。
「ゆきなです。天の川銀河、ハナフライム号艦長兼、銀河連邦司令、そして妖精伯を拝命しております」
「同じく、えれなと申します。伯爵の称号をいただきました」
お辞儀する2人を、エンデが虫眼鏡のような動きで魔法を構築魔力の流れを覗き込む。
「……おおおっ、マジかあ、こりゃ本物だあ!」
テラスの光が揺らめき、その向こうには光の妖精王がくつろいでいた。
「ほんとうに中にいやがる……」
「よろしく頼むぞ、ゆきな! えれな! もう名前覚えたからなっ」
「じゃあせっかくだから……」
ゆきながにっこり微笑む。
「さっきのリゾット、美味しかったのよ! 奢ってあげるわ」
「マジかっ!!」
エンデが飛び跳ねて喜ぶ。首にかけた小さな鈴がチリンと鳴り、
「店主ーー! もう一つ、きのこリゾットお願いっ!」
「はいな!」
店主の声が小気味よく響いた。
「エンデって、ケット・シー族の王子なんでしょ?」
まりあが目を細めて言うと、
「そうだぜー、えらいんだからなあ!」
とキリッと胸を張る。誰よりも小柄なのに、誰よりも大きな声で笑うその姿に、皆が微笑んだ。
「今度、王国を見せてくれる?」
ゆきなが問うと、エンデは顎に手を当てて考えた。
「まあ……そうだなあ、人間くるとビビるやつも多いからよ……変身の術、覚えたら考えてやるわ!」
「え〜、じゃあ大学に行けば覚えられるかしら?」
「大学ってのは知らねえが、まりあの通ってる学校なら習えるんじゃねえか?」
「じゃあ、がんばって留学しなきゃ♪」
ゆきなとまりあが目を合わせて笑い合う。
「しょがねーなー。飯のお返しに、これやるわ」
エンデが取り出したのは、輝く2つの指輪だった。1つは深い青、もう1つはやわらかな光の金色。
「なんか困ったことがあれば……願いを込めて指輪に助けを求めろ。2回くらいなら……俺の力でなんとかしてやる!」
そう言ってエンデはウインク。
「じゃ、あばよ!」
パチン、と指を鳴らすと、もやもやと煙を残して消えていった。
「もう……あんなに可愛いと、ぎゅっとしたくなるのよねえ」
ゆきなが頬を赤らめるように言うと、王様が笑う。
「一応、王子なんだから、ほどほどにな」
優しく穏やかな空気が流れる。
「まりあ、学校ってどこにあるの?」
「ちょうどいいですわね。これが終わったら、私がご案内しますわ」
「学内は問題ありませんが、門までは護衛をつけてくださいね」
衛兵の注意に、「わかったわよ」と笑うまりあ姫。
お会計をサクッと済ませる。「店主! あと十個、リゾット大丈夫?」
「えっ、十個!?」
皆がずるっとなる中、ゆきなは続ける。
「焼かなくていいの。うちの宇宙船そこにあるでしょ? 着いたらトントンとしたら開けるから中に置いてくれないかしら。即冷凍して、お土産にしたいのよ」
「またお姉様、爆発してますね……」
えれなが呆れ顔で言う。
「じゃあ全部私のにするわ!」
「ちょっと待ってください! 入ります、私も食べたいです!」
「正直でよろしい!」
笑いと共に、幻想の国に微笑みが咲く。
空には淡く、妖精たちの光がきらきらと舞っていた。
ケット・シー族のえんでが突如わいて出てきて、
どうやらゆきなと仲良くなれそうな予感――。
ちゃっかりお土産までお願いしてしまうあたり、
ゆきなのマイペースさは相変わらずです。
そして次に向かうのは、ついに“魔法学校”。
いったいどんな場所が待っているのでしょうか。
胸を弾ませるゆきなの笑顔が、今日も輝いています。
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