ゆきなの大胆なおねがい! 132
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
真の妖精伯誕生まであと4話 お楽しみに!
エルダンカ王国中継会議記録 〜銀星の姉妹と未来の贈り物〜
荘厳な蔦と光の精霊が編んだ天井の下、エルダンカ王国の中継会議室には、魔法と科学の調和が静かに息づいていた。クリスタルの壁面には光のルーンが浮かび、ゆきなとえれなが並んで座る椅子の背もたれには、銀河連邦の紋章と精霊紋が重ねて刻まれている。
「ゆきな様、えれな様。実は、ひとつお願いがございまして。」
柔らかくも芯のある声で、エルダンカの王室補佐官が慎重に口を開いた。
「はい、なんでしょうか?」
ゆきなが背筋を伸ばし、えれながタブレットを閉じて顔を上げる。
「ハナフライム艦を……お譲りとは申しません。ですが、可能であれば数隻、貸与していただけないでしょうか。」
その瞬間、会議室の空気が少し張り詰めた。傍らに控える技術国の代表も、銀河連邦総司令アザトも黙してその返答を待っていた。
「何台を希望するの?」
「総司令用、大統領用、技術国用……そしてエルダンカ国用に、計4隻を希望しております。」
ゆきなは軽く顎に手を添え、深くうなずいた。
「わかったわ。ただし、あの主砲は……国を一つ滅ぼせるほどの力。危険すぎるわ。だから、戦闘システムはアザト総司令の許可を得た者しか操作できないようにロックするわ。それで問題ないかしら?」
「了承いたします。安全対策を徹底して使用いたします。」
「それと、**整備用にもう1隻貸し出すわ。計5隻。**1隻は予備として、年に一度、AIに自動航行させて銀河整備センターへ送って整備してもらってちょうだい。」
「はい。すべての条件を了承いたします。レンタル費用については、こちらからベストの金額を提示させていただきます。」
「そちらも了承したわ。」
ゆきなが柔らかく微笑む。
「ただし――」
と、えれなが続けた。
「内装の改修はご自由にどうぞ。でも、搭載してあるAIや技術への詮索はしないでね。うちのサポートAI、とても賢いから……すぐに感知すると思うわ。」
「誓って行いません。」
アザト総司令が重々しく頭を下げる。
「じゃあ……えれな、お願いできる?」
「はいはい、お姉様のご命令とあらば。」
えれなが指先を弾くと、会議室の水晶盤に転送指令が送られた。
「……実は、お姉様のご予測通り、すでに建造には取り掛かっておりました。」
会議室にどよめきが広がる。
「頼まれなくても、無駄になるものではありませんから。」
ゆきなも笑顔で答えた。
「さて、こちらからもひとつ要望を出してもいいかしら?」
「もちろんです。どんなことでもお聞きいたします。」
「……あのね、少し変なお願いに聞こえるかもしれないけど……私たち、まだ学生なの。」
会議室が一瞬静まり返る。
「高校3年生。あと10ヶ月で卒業なの。」
「私は、あと2年10ヶ月あります。」と、えれなが補足する。
画面に学生の映像がでてしまうとゆりあ艦長が
「かわいいっ!」
ちょっと恥ずかしがりながらゆきなが続ける。
「まだ大学を決めてなかったの。でもね――エルダンカ魔法大学に、私を留学させてもらえないかしら。」
えれなの目が見開かれる。
「ほんと、お姉様は……大胆なんですから。」
「いいじゃない。魔法適性、あるんでしょう?」
「試験はまだ行っておりませんが……ゆきな様であれば、特別待遇で合格は確実かと。」
エルフ大臣がやんわりと答えた。
「では、どうかしら、アザト総司令?」
アザトは少しだけ目を丸くしてから、声を整える。
「……わかりました。これでもかというくらいの推薦動画と封書を、銀河連邦国家印付きでお届けいたしましょう。」
「合成郵便でお送りしますね。」
「押印に時間がかかるので三日ほどお時間いただけますかな。」
「ありがとう、アザト総司令。」
「いえいえ、これだけの艦を貸していただくのですから、それくらい当然です。」
「……まぁ、まだ少し先の話だけどね。地球での受験は……もう終わったわ。」
ゆきながいたずらっぽく笑うと、えれなが口をとがらせた。
「**お姉様、ずるいです!**でも……羨ましいです。」
2人のやり取りに、会議室には優しい笑いが広がった。
「では、会議を終了いたしましょう。」
アザトが手を挙げると、光の柱が収束し、「オフライン」の文字が浮かび上がる。
会議が終わった瞬間、ゆきなが伸びをしながら立ち上がる。
「ねぇ、今日……大学の入試、もう受けちゃえるかしら?」
「今、王宮に問い合わせ中です。お昼の時間に国王かマリア姫にお願いすれば、確実かと。」
「マリア姫もいいですね。ほんわかして、緊張しなさそう。」
そして――
「よし、キノコリゾットだーーー!」
「わぁ、私もーーー!」
小さな声でお腹が鳴る音に、ふたりはくすくすと笑い合いながら会議室を飛び出していく。
その姿を見送った参列者たちは、それぞれの胸にひとつの思いを抱く。
「なんて平和な光景だろう。」
これほどの危機を救い、銀河の未来を動かした少女たちが、キノコリゾットに心を弾ませている。
それが、どんなに美しいことか。
誰ともなく――
「この国に来てくれて、ありがとう。」
その言葉が、心の中でゆっくりと花開いた。
「まりあ姫の私室に参ります。」
そっと扉をノックすると、中から微かに布擦れの音が返ってきた。
「ごめんなさい、今お着替え中なの。もう少しだけ……」
「大丈夫よ、待っているから。」
扉越しに声をかけると、奥でさらさらと髪を整える気配が聞こえる。
ほどなく、銀河連邦正装に身を包んだまりあ姫が姿を現した。
「では、まりあ。王様へのお願い、よろしくね。」
「はい。予約は12時40分に取れておりますわ。」
「了解、私たちは宇宙船で着替えて向かうわ。」
会話は手馴れていた。すでにゆきなとまりあ姫の間には、王族貴族同士というよりも“お友達”に近い信頼が築かれている。
総司令からのお願いは、ゆきなにとってある程度予想していたものでした。
けれど――ゆきなからの“お願い”は、まったく予想外のものでした。
父親のような想いで彼女たちを見守ってきた総司令は、
思わず苦笑しながらも「仕方ないな」と軽く引き受けてしまいます。
その姿に周囲のみんなも自然と協力の輪を広げ、
やがてそれは、これまでのゆきなの行動に対する感謝の形となっていきました。
信頼と絆が静かに深まる瞬間――。
このあとの展開にも、どうぞご期待ください。
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