妖精と技術が編む銀の糸 130
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
真の妖精伯誕生まであと6話 お楽しみに!
精霊と技術が編む銀の糸
小さな服屋の店奥で、仕立て屋のおばちゃんが穏やかに笑っている。手には古びた針箱を持ち、指には長年の仕事を物語る細かな針傷の跡が見える。
「第二の故郷みたいに、ゆっくりしていってね」
お店から出ててきたどこかのお母さんが話す。
その声は、まるで母のように優しく温かかった。
「この国が銀河連邦に加入してから、もう数世紀。いいこともいっぱいあったわよ。科学も豊かになったし、教育も、医療も……でも、それでも妖精様との暮らしは、やっぱりいいものね」
店内には、他に魔法繊維で織られた服が並び、そよ風のような魔力が柔らかく漂っていた。
「出会いがあらんことを――」
そう言って、おばちゃんは両手を合わせて小さく祈ってくれた。その指先には、どこか見えない“祝福”が宿っているようだった。
「一角、話の途中待っててくれてありがとう」
白く輝くユニコーン――“一角”が静かに話が終わるのを待っていた。えれなとゆきなが近づくと、彼はゆるやかに頭を下げた。
「いいですね……」と一角。
「ドレスは確かに綺麗ですが、今のお姿もとても素敵です」
「まあ、お世辞が上手ね」
ゆきなが笑いながら、その背に軽やかに乗った。えれなも、慣れた様子で隣に跨がる。
「ゆきな様――少し、お力をお借りしてもよろしいですか?」
「いいわよ。使えるものは好きなだけどうぞ」
その瞬間、ゆきなの体に、じんわりとした温かさが流れ込んできた。心地よく、やわらかく、でも確かに芯のある力。魔法というにはあまりに優しく、呼吸のように自然な“存在の結合”だった。
一角の角が静かに光を放つ。
足元から広がる光の道。空間がふわりと揺れ、空を舞うように浮かび上がる。
空中を滑るように進むその体は、まるで音を吸い込むように静かだった。川面を走れば水が波紋を描き、森を越えれば木々が軽やかに揺れる。
そして王城の上空を越え、静かな庭園の芝にすぅっと着地した。
「まあまあ……」
出迎えた侍女たちは、微笑みながら見守っていた。
「素晴らしい能力ですね」
年配の侍女がそっと膝を折る。
「後ほど、王宮の図書局より“魔法理論と精霊交感”のデータタブレットをお持ちいたします。ご興味があればぜひ……」
「うん、ぜひ見てみたいわ」
ゆきなはにっこりと頷いた。心のどこかで、もうこの国の一部になり始めている自分を感じていた。
⸻
通信室へ向かうと、銀河連邦の技術班が準備に追われていた。
床には光の魔法陣と回路を組み合わせたような紋が描かれ、空中には無数の結晶型中継体が浮かんでいた。
「……もしかして、この通信って……魔法と科学の融合なのね?」
ゆきなが何気なく尋ねると、そばにいた銀河連邦の大使がにこやかにうなずいた。
「その通りです。もともとこの距離では、通常の電波通信は不可能でした」
大使はタブレットを操作し、浮かび上がる構造図を指差す。
「我々は“次元裂”と呼ばれる微細な空間の亀裂を、魔力によって一時的に開きます。その幅はわずか数ミクロン。そこへ、超高圧圧縮された光波通信を通すことで、実質的な“無距離通信”を成立させています」
ゆきなとえれなの目が丸くなった。
「このシステムは、銀河連邦全体で296の惑星・ステーションを接続しています。技術員たちは、1時間に1回ネットワークを更新し、全てのデータと手紙、通信を巡回させているんですよ」
「……まるで、星々が手をつないでいるみたい」
「ええ、まさにその通りです」
スクリーンには、宇宙空間を縫うように繋がれた回線のイメージが描かれていた。無数の惑星、ステーション、研究拠点……そのひとつひとつが、光の糸で結ばれている。
魔法は祈りであり、科学は知性の積層である。
エルダンカでは、その両方が数百年をかけて手を取り合い、“精霊回路”と“量子座標マッピング”を融合させたネットワークを築いた。
それはまるで、見えない天の川をもう一つ、地上に再現したようだった。
⸻
「……まだ30分ぐらいありますね」
「ええ、ゆきな様」
技術班の女性が、手渡すようにタブレットを差し出した。
「こちらは、王宮に保管されている“魔法史”“精霊分類理論”“科学融合技術”などをまとめたライブラリーです。オフラインで閲覧可能ですので、ご自由にどうぞ」
「ありがとう。楽しみ……」
ゆきなは椅子に腰を下ろし、画面を開く。
そこには、精霊の分類、属性別の共鳴条件、科学的な観測による魔力の周波数一覧、惑星の核構造と精霊循環の相関図など、信じられないような知識が溢れていた。
「ねええれな……これ、すごい……!」
「ええ、本当に……。こんな融合、地球じゃ考えられない」
二人はタブレットを囲んで、興奮と好奇心に満ちた目で画面を覗き込んでいた。
外では朝の光が差し込み、魔法塔のクリスタルが虹色にきらめいている。
空には白い鳥が舞い、地上では精霊の粒子が花の上に降りて遊んでいた。
精霊と科学の織りなす、エルダンカの朝。
まもなく、連邦の全銀河に向けて発せられる“言葉”が、ここから――紡がれようとしていた。
ユニコーンの力とともに、ゆきなの魔力の使い方も少しずつ洗練されていきます。
そして銀河連邦の中継には、今やエルダンカの“魔法力”が欠かせない存在となっていました。
科学技術と魔法――その二つが手を取り合い、
銀河全体を包み込むように融合し、ひとつの大きな力となっていく。
まるで、新しい時代の誕生を見ているようです。
そんな中で、ゆきなとえれなもまた、
少しずつ、少しずつ、大人への階段を上っていきます。
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