妖精伯と伯爵 129 感謝40000pv記念
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
本日感謝を込めて2話投稿します。
「ゆきな閣下。どうか、“妖精伯”の地位をお受け取りいただけませんか。――1300年ぶりの任命となります」
「ゆきな閣下、えれな閣下には、伯爵として。何を強いるつもりもございません。第二の故郷として、ただそう感じていただければ……」
「王様、頭をお上げください」
ゆきなはそっと微笑んだ。
「“上下の関係ではない”とおっしゃったのは、あなた様です」
一瞬の沈黙のあと、王はふっと笑みを浮かべた。
「……もう、“返す”とは言わせませんぞ」
「ええ。謹んで、お受けいたしましょう」
「それは良かった!」
すると、マリアが嬉しそうに拍手をし、えれなが照れながら肩をすくめる。
「じゃあ、今度からは伯爵様って呼ばなきゃですね」
「やめてよー」と笑いながら、朝の祝福に包まれた食卓は、再び明るい笑い声に満ちていくのだった。
妖精伯、きのこリゾットを所望す
「えれな、どうしようねえ……」
ゆきなはふと、朝食の終盤に手を止めてぽつりとつぶやいた。
「え、何がですか?」とえれな。
「ほら、あの別荘。あそこが正式に“わたしたちの”ってことになっちゃったわけじゃない?」
「……まあ、いいんじゃないですか。別荘があるのも悪くないですし」
「そうよねえ……お父さん、お母さん、なんて言うかな」
「たぶん、また“やらかした”って言われますよ」
えれながくすっと笑うと、ゆきなも苦笑を浮かべた。
その時、マリアが優雅に口元を拭きながら尋ねた。
「王様、連邦会議の時間は何時からでしたっけ?」
「10時30分。今日はこの城の通信室で行う予定だ」
「……では、王様」
ゆきながゆっくりと席を立ち、姿勢を正した。
「お願いがございます」
「おお? 改まって……なんですか、妖精伯」
「もう! いきなり“妖精伯”扱い……!」
テーブルを囲む皆が吹き出す。
「まあいいわ。お願いっていうのは……その、会議が終わったあとなんだけど」
「うんうん」とマリアがうなずく。
「この城の前の橋の下に、“きのこリゾット”の名店があると……お伺いしました」
「ああ! あそこね! チーズときのこが絶妙で、美味しいのよぉ〜!」
マリアが声を弾ませる。
「お昼に、予約をお願いしたいのですが……」
「うーむ、それぐらい、わしも行きたいのう!」
王が嬉しそうに笑い、チラッ……と横目で関白を見る。
関白はすかさず咳払いをして立ち上がった。
「わ、わかりましたよ! 許可します。ただし――今日一日は貸し切りとさせていただきます!」
「だめよっ!!」
ゆきながきっぱりと首を振った。
「みんなの笑顔を奪ったら、私が恨まれちゃう。食べ物の恨みって怖いのよ?」
その場の空気が一瞬にして明るくなり、笑いが広がった。
「……嫌われたくないのよね。皆さんと同じように、一般のお客さんの中で食べたいの」
「となると、お忍びという形に……?」
「うん、じゃあ“銀河連邦の制服”で行きましょうよ」
ゆきながにっこり笑って提案した。
「銃の携帯も許されるし、警護の格好にも見えるし――完璧じゃない?」
「な、なるほど……!」
関白も思わず頷いた。
「わあ、うれしいな……!」
マリアが目を輝かせた。
「あそこの窓際の席で、いつか食べたいと思ってたのよね。いつも安全考慮で、奥の席にされてたし……」
⸻
「じゃあ、会議室に向かう前に……ドレスのままはちょっと」
歩きながらゆきなは横にいた侍女に尋ねる。
「ねえ、みんなが着てるような服ってあるかしら?」
「もちろんでございます。城の周囲には服屋もございますし、ご自分でお選びいただくことも可能です」
「……いいわね! ショッピング、最高〜!」
侍女たちをそのまま残し、ゆきなは手を挙げると、目の前にひょこっと現れたのは――
「一角……」
彼女のユニコーンだった。
「私に乗っていけって? でも……ちょっと目立ちたくないのよねえ」
えれなに視線を送ると、彼女も気づいてうなずいた。
「二人で乗っていいですか?」
「もちろんです。お二人は軽いので」
一角の声が、ゆきなの心に響いた。
「……え? なに、いまの……?」
えれなが不満げに見上げる。
「なにも聞こえませんけど!? ずるいですっ」
「ふふっ。では行ってきますね」
手を振って、ゆきなは地図だけを受け取り、えれなと一緒にユニコーンの背へ。
パッカパッカと軽やかな音を立てて、王都の石畳の道をのんびりと進む。朝の空気は澄み渡り、街の人々がふと二人の姿に目を留めるが、精霊を宿すその気配に、誰も声をかけることはなかった。
⸻
「ここね」
店の前に降り立った二人は、外観の木彫りの看板を見て微笑む。
「朝早くからごめんなさーい!」
店に入ると、店内には物持ちの良さそうな布地や革のジャケット、刺繍入りのブラウス、さりげなく魔法紋の刻まれたポケットなどがずらりと並んでいた。
カウンターには一人の女性が座っていたが、ふたりを見るなり声をかけた。
「あらあら……お嬢さんたち二人なのね」
「ええ、落ち着いた普段着を探していて」
「いい心がけね。どれも一生懸命つくったものばかりよ。自分で“これだ”と思うものを選びなさいな」
二人はほとんど迷うことなく、すぐに決めた。
「これにするわ」
「私も、これ!」
「うふふ、いいわねそのセンス。……耳をつければ、まるでエルフの双子ね!」
笑顔で言われて、二人はくすくすと笑い合った。
支払いの時には、身分証と兼用の銀河連邦通貨を提示し、あっさり完了。
「ありがとう。すごく楽しかった!」
出ると、すぐに一角が気配を察して近寄ってくる。
「じゃ、次は会議室へ向かいましょうか。今度は世界の代表として」
光る瞳が、静かに頷いていた。
真の妖精伯誕生まであと7話!
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ついに、ゆきなは1300年ぶりの“妖精伯”の称号を受け継ぎ、
そしてえれなも新たに“伯爵”として任命されました。
王への礼節と感謝を忘れずに、厳粛な式典を終えた2人――
……なのに、ちゃっかりおすすめのリゾットの話だけは忘れていませんでした。
その盛り上がりにつられ、なんと王様もマリア姫も、第一王子も妃殿下までもが「行ってみよう!」という流れに。
その後は一般の洋服ショッピングへと展開し、出てくる出てくる――おしゃれと笑いの連続です。
しかし、その賑やかな時間の裏で、
ゆきなたちはまたひとつ、大きな渦の中心へと近づいていくのでした。
どうぞ次章もお楽しみに。
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