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崖が崩れたらそこは宇宙ステーション♪  作者: Sukiza Selbi


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光の王、朝の食卓に降り立つ 128

とある家族の女子高生 と AI

宇宙ステーションの日常を描いた物語

光の王、朝の食卓に降り立つ


挿絵(By みてみん)


 ふわりと湯気が立ちのぼる食卓に、今しがた焼きあがったばかりのパンが並べられる。香ばしい香りが朝の陽光に溶け込むように漂い、食器の中心には、余剰分のパンが籠に山のように盛られ、皆の手が自由に伸ばせるように整えられていた。


「では……少し、国のことをお話ししましょうか」


 と、王がゆっくりと銀のフォークを置き、姿勢を正した。その場の空気が自然と引き締まり、魔法によって浮かび上がるスクリーンの光も、まるで星のように淡く瞬いた。


「……実はですな。マリアについて、少々恥ずかしい話ではありますが、あの子は――珍しくも、闇、火、雷の三属性の精霊王の加護を受けております」


 一同に静寂が落ちる。


「惑星及び超大型宇宙ステーションに設けられた超大型融合炉……星一つを支える主動力源でございますな。あれを稼働させるには本来、三ヶ月にわたる重力制御が必要です。しかし――マリアがそこにいるだけで、それが三週間で完了するのです」


 ざわ……と、えれなが小さく息を呑んだ。


「つまり、各宇宙惑星のメイン動力炉において、マリアは欠かせない存在となっております」


 王は少し目を伏せた。


「……昔はそれを、私の弟である公爵が仕切っておりました。闇の上位精霊の加護を持ち、部下たちと共に1.5ヶ月で稼働させるという効率を誇っていたのです」


 ゆきなとえれなは黙って耳を傾けていた。王の声には、王ではなく、ひとりの父としての重みがあった。


「ですが……マリアが天性の加護を得て以降、彼は……妬みました。そして、国家の飛行ルートを外宇宙にリークしたのです」


 光のスクリーンに、破損した航行ログと、回収された艦の航跡が浮かび上がった。


「その結果、我が貴族も含めて国民19名が、マリアを含めて行方不明となりました」


 えれなの眉が曇る。


「必死に探しました。艦隊を何度も派遣し、星を越え、時には銀河の境界にまで……それでも見つからなかった。希望は、徐々に……絶望へと変わっていった」


 王は一度、深く息を吸った。


「だが、奇跡が起きた。――19名の国民が、命を繋いで帰還したのです。そして、その中に……マリアがいた。あのときの国全体の安堵と歓喜……未だかつて、あれほどの歓声を聞いたことはありません」


 その声には、揺るぎない想いが宿っていた。父として、王として、国民としての心が。


「事件の犯人は、大型艦のログから明らかとなりました。裁判の結果、公爵の爵位は剥奪、資産は19名と建て替え費用へ分割。……そして、彼の宮殿は取り壊され――先日、あなた方にお泊まりいただいた新築の屋敷に生まれ変わったのです」


「えっ! あそこ……新築だったんですね?」


 えれなが驚きの声を上げる。


「もったいないくらい立派でしたよ……」


 王は柔らかく笑って言った。


「いえ、あそこは本来、あなた方お二人の別荘として建てたもの。ぜひこれからも使っていただければ幸いです」


ゆきなとえれなは顔を見合わせ、そっと微笑んだ。


「ちなみに私は、風・水・地の精霊王の加護を受けております」


 王が付け加えた。


「そして、次代を担う第一王子エリク……彼は全属性の上位精霊の加護を受けています。ですが、唯一、精霊“王”の加護は持っておりません。それが悩みの種でしてな……」


 その言葉に、マリアが小さく視線を落とした。


「もしかすると……マリアが、次代の女王となる可能性もあるのです」


 そこに、王の声色が変わった。


「さて――ゆきな様。先日、光の精霊様とご挨拶をされたとか」


「はい」


 ゆきなは姿勢を正した。


「どのような精霊でしたか?」


「王冠が可愛くて、光が眩しくて……少女のようでした。『こんにちは』と声をかけたら、すごく笑顔で、私の手にキスをしてくれたんです。……そのあと、私の中にふわりと、溶けるように……消えていきました」


挿絵(By みてみん)


 その話に、王妃が小さく息を呑む。


「……そうですか。――では、よろしければ、あの大きなエメラルド水晶に触れていただけますかな?」


 席の奥、浮遊する水晶が静かに降りてくる。ゆきながそっと手を添えると――


 パァァァ……ッ!


 一瞬で水晶がまばゆい光を放ち、空間全体が明るく照らされた。


 その輝きが天井へ、壁へ、そして遥か空へと伸びていき、惑星を包むように優美な光の線が引かれていく。


挿絵(By みてみん)


「……きれい……」


 その言葉を口にした直後、空の高みから星の粉が舞い降りてきた。


 銀と金の光が、花びらのように国土全体に降り注ぎ、国民たちはそれを浴びて空を仰ぎ、手を伸ばし、静かにその祝福を受け取った。


 王も、妃も、マリアも、民と共にその光の中に立ち尽くす。


「……これは……!」


 侍従が慌てて古文書を開き、声を震わせながら読んだ。


「文献によれば……これは“光の王”が国民すべてに与える“全加護”……1420年前に一度だけ記録された奇跡……」


 瞬く間にこの現象は国中の魔法通信網で報道され、ニュースや速報が至る所で流れ始めた。国民は通りで抱き合い、精霊信仰の神殿では鐘が鳴り響く。


 その中心にいたのは、ゆきな。


 王は深く、静かに頭を下げた。


「……ゆきな閣下。あなたは、“光の王の加護を受けている”どころではない。――あなたは、光の王と共に“住まわれている”」


 広間が静まり返る中、王の言葉は厳かに響いた。


「元より、お二人には伯爵の位と、あの屋敷をお渡しする予定でした。ですが、改めて申し上げます」


 王は膝をつき、深く頭を垂れた。

ついに、エルダンカ国の真実がゆきなたちの前に明かされました。

マリアの存在がどれほど重要であるか、そしてその真実が――

一歩間違えば「内乱」とも受け取られかねないほど深い意味を持つことを、彼女たちは知ることになります。


そして、ゆきなの中に宿る“妖精王”の力。

その光が放たれた瞬間、王までもが静かに膝をつき、

国全体が運命の転換点を迎えようとしていました。


この先、さらに大きな渦へと巻き込まれていくゆきなたちの物語。

どうぞ次章もお楽しみに。


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