素敵なお友達との出会い 127
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
朝のエルダンカの空気は澄み渡り、まるで星のささやきをそのまま地上に落としたかのような庭園が広がっていた。花々が霧の中で静かに咲き、草葉に残った雫が光を受けて七色に輝く。
ゆきなとえれなは並んで歩き、目にするすべてに微笑みと驚きをこぼす。知らない虫や、こちらの世界特有の小動物たちがぴょこぴょこと顔を出し、まるで好奇心の塊のようにふたりを眺めてはまた草陰に隠れていく。
やがて二人は花でできたアーチのトンネルをくぐり抜け、陽だまりの広場に出た。そこには——。
「あっ……!」
昨日、馬車を引いてくれたユニコーンたちが、柵の向こうに数頭たたずんでいた。
その姿を見て、えれなが小さく手を振ると、なんと一頭のユニコーンが突然、力強く走り出した。
「お二人とも、離れてください!」
侍女の声が響く。
間に合わない——そう思った瞬間、ユニコーンは足をふわりと止め、柔らかく砂を蹴って減速し、ゆきなの目の前でぴたりと立ち止まった。
「え……」
そして、彼はその長い額の角をゆきなの肩にすり寄せ、まるで懐いているかのように優しくすりすりと擦り寄ってきた。
「可愛い……仲良くしたかっただけなのよね」
ゆきながそのたてがみに手を添えて撫でると、ユニコーンはうっとりと目を閉じた。
周囲の侍女や守衛たちは、言葉もなくその光景を見守っていた。
「……ありえない……」
「生まれた時からの世話係か、運転手以外には絶対に懐かないと……」
ユニコーンは、精霊に愛されし者にしか心を開かない。特に上位精霊の加護を受けた者には、跪くとも言われている。
昨日、光の精霊と邂逅したという報告が侍女たちの間でささやかれていたが——
「やはり……王へ報告を……」
誰かが小さくつぶやき、すでに内々に連絡が走っていた。
「ゆきな様。機会がございましたら、ユニコーンの伝承についてもぜひお聞かせしたいと存じます」
「ええ、ありがとう。えれな、あとで王様にお願いして、王国の歴史と伝承にアクセスできるように頼んでみましょう」
「はい、きっと快く承諾してくださると思います」
「それじゃ、そろそろ……王様にお呼ばれしてるわね。朝食に向かいましょうか」
その時、控えていた侍女が顔を青くして慌てた。
「ゆきな閣下、えれな閣下……そのお召し物で向かわれますのですか……?」
「えっ? だめかしら? いいと思うんだけど」
「だめでございます! 王宮の正式朝食には、ぜひこちらをお召しくださいませ……!」
はあ……とゆきなが深くため息をつきながらも、あきらめて答えた。
「わかったわ。……でも、15分でお願いね」
「もちろんでございます!」
⸻
支度を終えると、ゆきなは白く輝くドレスをまとう。そのシルエットはストレートで控えめながら、魔法糸の刺繍が光を受けてきらめく神秘を帯びていた。
「これ、いいわね」
えれなも同じくを白を基調とした上品なドレスと赤い靴をまとい、姉と並んで鏡の前に立った。
そして、外に出たところで、侍女が言った。
「馬車をすぐご用意いたします」
「いえ、馬車はいらないわ」
「えっ……? ですが……国内精霊の影響で転送は制限されておりますし……」
「それは分かってるわ。でも、さっき、誰かの声が聞こえたの。“いつでもお呼びください、私がお連れいたします”って」
ゆきなが手を挙げ、パンパンと二度、手を叩いた。
すると——
空間が、裂けた。
光と風が渦を巻き、鏡のように割れた空間の中から、ユニコーンが現れた。
「来てくれたのね……!」
その隣には、えれなのための白馬までついてきていた。
「頭に語りかけてきたわ。“妹さんにもお友達を連れてきました”って」
ゆきなが首に抱きつくと、ユニコーンは優しく嘶き、蹄で小さく地面を蹴った。
城の使用人たち、侍女たちはもう言葉を失っていた。
「……こんなこと……ありえない……!」
空間魔法、それも転送召喚とは一生に一度見られるかどうかの高等魔術。
そしてユニコーンが自ら現れるなど、伝承の中の英雄譚以外に記録がないというのに——。
⸻
「では、王宮までお願いね」
「かしこまりました。お連れいたします」
「お名前はあるのかしら?」
「あるにはあるのですがお好きにお呼びください」
「名前、つけていい?」
「どうぞ」
「そうね……私の土地では、ユニコーンのことを“一角”って呼ぶの。あなたも一角でいいかしら?」
「……はい。“一角”として、お仕えいたします」
その声は、直接ゆきなの心に響いた。
二人はユニコーンたちに跨り、花のように舞い上がる。
花の絨毯をなぞるように進み、水の上を滑るように渡り、森を越え、噴水の上で一度旋回する。
まるで夢の中の旅のようだった。
途中、人々が手を振り、声を上げる。
「ユニコーン様が……!」
「あれは、ゆきな閣下……!」
やがて、王宮のテラスに降り立つと、すでに朝食の準備が整っていた。
「おお……仲が良くなられたようで」
王が一歩進み出て、ユニコーンのたてがみに手を添える。
ユニコーンは嬉しそうに鼻を鳴らし、目を細めた。
「こちらへどうぞ。食事をしながら、少しご説明を……」
席に着くと、ふわりと空中に光のパネルが現れる。そこにエルダンカ国の地図や魔法体系が映し出されていく。
料理は、銀のトレイに乗った果実やパンが空中を滑るように運ばれてくる。スプーンも、ゆるやかな魔法で手元に届く。
「……科学と魔法が、本当に調和しているのね」
「ゆきな様、えれな様。昨日はゆっくりお休みになられましたかな?」
「ええ、ぐっすり。とても気持ちよかったわ」
「それは何より。では——ご説明を始めましょう」
新しいお友達ができて、笑顔を見せるゆきな。
――けれど、それだけでは終わりませんでした。
彼女の体からは、まるで星のような魔力があふれ出し、
周囲の空気さえも柔らかく震わせていきます。
その光景を目にした侍女や守衛たちは、
誰一人として言葉を発せず、ただ静かに敬意を抱くのでした。
ゆきなに何が起きようとしているのか――
この先の物語も、どうぞお楽しみに。
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