めしっ 嫌な奴ら・・・想像 122
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語 →エルダンカ国編まであと2話お楽しみに!
帰還と不穏な気配
ピピッ、ピピッ……。
艦内に、重症者カプセルのタイマー通知が響いた。
「出てくるみたいですわ」
浅香先生が医療室へ向かい、部員たちもぞろぞろと後に続く。
やがてカプセルが開き、救助された人々が次々と目を覚ます。
泣き崩れる者、冗談を言って笑う者、ただただ微笑む者——その感情は様々だったが、胸にある思いは一つだった。
「救助できてよかった」
それに尽きる想いが、艦内を満たしていた。
「では失礼する」
ユリア艦長とエリオン艦長が、きりりとした表情で敬礼する。
「皆さんの無事を心より祈ります。この御恩を、銀河連邦は決して忘れません」
その言葉を残し、彼らは帰還の旅路についた。
「さて、私たちも戻りましょう。帰り道——パイロットやりたい人?」
「はーーい!」
手を挙げたのは二人。副部長の鈴木さんはノリノリ、さらにみすずちゃんも意欲的に挑戦する。
「宇宙には“上も下も”ないの。自分で基準を決めれば整理しやすいわ。ここが母星・地球。そこに向かってワープするのが基本。障害物はコンピューターが回避してくれるから安心して」
ゆきなとえれなの指導を受け、二人は操縦桿を握り、少しずつ感覚を掴んでいく。
「部長ーー!」
カプセル室の清掃を終えた部員が、駆け戻ってきた。
「消毒は終わったんですが……なんか繭みたいなのが4つ、落ちてました。あとで見ていただけますか?」
「わかったわ。あとで確認しましょう」
その時——。
ピコン、ピコン、と可愛らしい警告音が響いた。
「何これ?」
「艦内不明動作反応です!」
レーダー員が答える。
「生命反応はありませんが……何かが動いています」
「倉庫を中継して」
モニターに映し出された瞬間——。
めしっ……。
小さな、しかし不気味な声が聞こえた。拡大映像の中で、うごめく影。
「……あああああ! いる!」
「何匹いるのかしら?」
「不明です!」
そこへ清掃班の部員が悲鳴をあげてブリッジへ駆け込んできた。
「きゃあああああ! なんか“めしめし”いうものに追いかけられました! 小さかったですけど!」
「センサーには反応なし……!」
「ブリッジ隔壁、開始します!」
「全隔壁、順次閉鎖!」
艦内に緊張が走る中、ゆきなが短く命じた。
「……とりあえず、帰るわよ」
侵食事件と帰還、そして……
「帰還予定37分。何もなければ、ですが」
「フラグ立てないでよ、えれな」
「えー、だって“何もない”なんてありえないじゃないですか」
その瞬間——。
ビビビビーーーーッ! 侵食警報が艦内に鳴り響いた。
「食堂でエネルギーが吸われています!」
「場所は!?」
「倉庫です!」
カメラを切り替えると、そこには例の“めしめし”生命体が。
「ブリッジに全員揃ってるわね。……よし、扉解放、宇宙へ放出!」
「了解!」
プシューッ。ビューーーン。
吸い込まれていく影と、途切れる奇妙な声。
「……めーーーーしーーーー……」
「聞こえなくなった。二匹減少確認」
「えれな、転送装置のバッファを確認! 数を特定して!」
「はい……ログには27匹。残り25匹います!」
「なにそれ……!」
さらに警報。
「主砲システム不具合! 第一砲塔、使用不可!」
「ええ!? 今敵が来たらどうするのよ!」
「お姉様、今度はフラグ立てないでください!」
次々とシステムがダウンし、サーベルや小銃での白兵戦まで検討される始末。
だが、ウサギさんロボットを遠隔操作して撃退作戦が始まると、部員たちは一転してゲーム感覚で大奮闘。
「ほら! 多く倒した人にはご褒美あるわよ!」
「わーい!」
笑い声混じりの銃撃戦。小さな影がグチャリと潰れ、ばきゅーんと撃ち抜かれていく。
「残り……3匹!」
だが安堵も束の間。
「警報! 主エンジン融合炉隔壁に侵食!」
「星図システム……致命的エラー!」
「星図ダウンしました!」
「方向は!?!」
「……太陽が見えてます、真っ直ぐ行けば!」
残り数分。部員たちが必死に叩き潰す中、最後の異常警告が鳴り響いた。
「——特異点ミサイル、起動痕跡!」
「えっ!? ブラックホールを!?」
「安全装置は作動中ですが、3分後に生成開始!」
「無理です! 誰も止められません!」
「浅香先生、どうしますか!」
「副担任! どうする!」
「わからないっ!」
「——起爆します!」
その瞬間、景色が切り替わった。
『お乗船ありがとうございました。なんとか無事に地球に帰り着きました。今後ともシミュレーターのご利用をお待ちいたしております』
「もーーーー! 死ぬかと思ったーー!」
涙目で叫ぶ浅香先生に、生徒たちは大爆笑。
「先生、フラグ立てすぎです!」
「な、何がよ……!」
場を包む笑いと安堵の空気。
「さーて、今回の参加賞はこちら!」
配られたのは、宇宙船が描かれた特製校章バッジ。
「わーー! かわいい!」
「帰りにはパン屋さんが“ハナフライムパン”を用意してますからねー!」
「やったー!」
笑顔でバッジとパンを手に帰っていく部員たち。
騒ぎが収まり、部室には浅香先生と副顧問だけが残った。
「……でも、本当に思いました」
副顧問が静かに口を開く。
「ここで死んだら、一生伝えられない気持ちがあるって」
「えっ?」
その瞬間——。
「浅香先生……結婚してください!」
指輪はない。だが真剣な想いだけは溢れていた。
「今言わなきゃ、一生後悔する気がして」
ぎゅっと抱きしめられた浅香先生は、頬を染めて答える。
「……もちろん、お願いします」
扉の外に立つゆきなは、そっと笑った。
「先生、おめでと」
中には入らず、そのまま部長として静かに帰路についた。
長く続いた大冒険もついに幕を下ろし、理科部員たちは数々の試練を乗り越えて無事に生き延びました。
その経験は、彼らの絆をより深く、そして強く結びつけてくれたようです。
そして――浅香先生にも、思いがけない幸せの予感。
プロポーズを受けたその笑顔には、これまでの努力と優しさがすべて詰まっていました。
新しい未来へと続く物語。
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