理科部ハナフライム、決戦と救助 121
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
理科部ハナフライム、決戦と救助
ユリア艦長の声は、震えを隠せなかった。
「……救援、ありがとうございます。でも……もうすぐそこまで迫っています。同じ運命を辿る前に、逃げてください」
その言葉を、ゆきながきっぱりと否定する。
「そんなこと言わないでください。ねえ、浅香艦長!」
「そうよ!」浅香先生が力強く頷いた。「大型艦が5隻、小型艦が2,435隻……数がどうであろうと、諦めてはダメ!」
次の瞬間——周囲の小型艦が一斉に爆散した。
光の中から現れたのは、青白い異様な輝きを放つハナフライム。
「砲撃拡散! 180度ランダム発射!」
「発射ーーーーー!」
轟音が連続し、敵小型艦は一気に半減、1,200隻へと激減する。
しかし、大型艦5隻が同時に主砲を放った。
「直撃コース!」
「シールド95%! 持ちこたえました!」
「主砲拡散、高出力フルチャージ! 撃てーーーー!」
連続発射により、小型艦は全滅。大型艦も損傷が広がっていく。
「第一砲塔、左側2番目! 第二砲塔、右側2番目! 撃てーーーー!」
巨大な閃光が宇宙を裂き、敵艦2隻が爆散した。
だが反撃も苛烈だ。3隻の主砲が直撃する。
「シールド90%!」
「まだ余裕です!」
「よし、砲撃手、自由射撃!」
さらに2隻が破壊され、残るは1隻——。
そこへ通信が入る。
「……降参する!」
「浅香先生、いかがいたしましょう?」
「受け入れます。ただし条件があるわ。その艦に輸送船の護衛艦員がいるなら、全員解放すること」
「……わかった。今ここに揃える」
降伏した敵兵は倉庫へ転送され、脱出不可能な状態に隔離される。
「今度から私たちに手を出さないことね。主砲はいつでも撃てるのよ」
怯えたようにアクセラ艦は離脱していった。
ユリア艦長が再び映る。
「……救急対応をお願いできますか?」
「もちろん。こちらには救援カプセルが9台あります。重症者から受け入れましょう!」
下部ハッチが連結され、次々と担架やカプセルが運び込まれる。
看護特進科の生徒たちが率先して動き、応急処置が始まった。
ユリア艦長は、きれいに敬礼する。
「ご助力、心より感謝いたします」
その様子を見守りながら、ゆきなが小声でえれなに尋ねる。
「ねぇ……リアルすぎるわね。どこからシミュレーターに入ってるの?」
「どこだと思いますー?」えれながにやりと笑う。
「……医療ルームに入るところ、かしら」
「正解です!」
張り詰めていた空気が、ふっと和らぐ。
「やっぱりね……」ゆきなは小さく笑った。
救助と戦闘、そして学び。そのすべてを体験に変える理科部の航海は、まだまだ続いていく——。
救助完了と未来の構想
救助活動は部員たちの頼もしさが際立っていた。
先生たちの指揮も冴え渡り、ノリノリとさえ言えるほど。けれどその中には、しっかりとした救急理論が根付いていた。
重篤患者は安定化処置が施され、9台のカプセル回復プログラムがフル稼働。中等症でも片腕の損傷など将来に影響するケースは、ナノ注射による復元医療が補完していった。
それから30分後——。
「治療は全て完了。あとはカプセルで40分ほどで回復できるでしょう」
部員たちが自信をもって浅香先生に報告する。
その傍らには、姿勢を正してビシッと敬礼するユリア艦長の姿。
「正式に、感謝を申し上げます」
浅香先生は穏やかに手をとり、微笑んだ。
「まあまあ、困ったときはお互い様ですよ」
看護特進科の3人も照れくさそうに笑った。
「私たちの実習が、役に立てたなんて……」
その後、休憩所へと誘われた救助者たちに、温かい飲み物や食事が振る舞われた。合成物ではあったが、冷え切った身体と心を十分に癒すには十分だった。
誰かがぽろりと涙を落とすと、周囲でも次々に泣き声が漏れる。張り詰めた緊張の糸が、ようやく切れたのだ。
だがそこには、確かな自信と安堵の光が宿っていた。部員たちも同じく、自らの成長を感じ取っていた。
「えれな」
「はいお姉様」
ゆきなはふと真剣な顔になる。
「少し考えてみたの。地球で緊急事態が起きた時、理科部が出動できる体制を作ろうかと」
「えっ……!」
「もちろん、入札が取れたらの話になるけど。部室に“緊急エマージェンシーコール”を設置して、代々部長が受け継ぐ仕組みにする。年3回の実習を義務化して、システムも二系統で構築済み。私たちがいないときでも、ステーション事故、海難事故、潜水艦事故……あるいは戦争を止めなければいけない時でも、理科部が動けるように」
えれなは目を丸くし、やがて笑顔で頷いた。
「……素晴らしい考えですね。秘密は明かせないけど、理科部の伝統になる。私たちも安心できます」
「そう。私たちだけじゃ限界がある。だから伝統にするの」
「空き地が取得できたら、専用スペースの設計も検討しましょう」
ゆきなはにっこり笑った。
「ねっ!」
その笑みは、新たな未来を切り拓く確かな希望そのものだった。
エレナが小さく頷く。
その一言に込められた希望と自信は、理科部の未来へと受け継がれていく“理科部の新しい伝統”の始まりだった。
「ユリア艦長。囚われていた方々も、救助しています」
「……えっ?」
ユリア艦長は思わず息を呑んだ。
通路の向こうから現れたのは、護衛艦インビシブルのクルーたちだった。
「おお……ユリア艦長!」
「無事だったか!」
エリオン艦長、そしてミネルバ副長。その背後には多数の乗組員の姿があった。
互いに駆け寄り、強く抱き合う。
「よかった……本当によかった……!」
涙と笑顔が入り混じり、再会を喜ぶ声が艦内に広がっていった。
ユリア艦長は感極まった表情で、浅香艦長に向き直る。
「……ご助力に、感謝いたします。ぜひ一度、連邦へお越しください。友好を結びたいのです」
浅香艦長は落ち着いた声で応じる。
「わかりましたわ。何かあれば寄らせていただきます」
そのやり取りを見守っていた理科部員たちは、自分たちの小さな一歩が、大きな銀河の絆につながるのを確かに感じていた。(シュミレーションだけどね♪)
シミュレーターでの救援・救助――
負傷者の手当てを通して、理科部員たちは少しずつ成長していきました。
その姿には、責任感と優しさ、そして仲間を思う強い意志が芽生えています。
精神的にも確実に進化を遂げた彼ら。
もしかすると、次は本当に“地球防衛”の任務を担う日が来るのかもしれません。
……それはまた、別のお話。
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