― それは、懐かしさという記憶 ―117
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
― それは、懐かしさという記憶 ―
「これか……」
ゆきなが空を見上げながら、ぽつりとこぼした。
「懐かしい感じを感じた理由……」
「ええ、私もです」
隣でえれなが小さく頷いた。
「……お姉様。私も同じような経験をしておりました」
えれなの声には、どこか遠い響きがあった。
「Aiさんわたしも生体アンドロイドなんですよっ今後悩んでばかりじゃなくて……
自分で体を作れるようになったら、こうした感覚や景色をいっしょに復興してもいいかもですよっ」
と、くるりと一回転して、髪をなびかせた。
「くるりんぱっ」
と、おどけたはずかしそうなその動作に、ゆきなもつい微笑んでしまう。
施設中央、白い光に満ちた主コンピュータールームに、
ゆきな、えれな、シーザー、そして伝承師アスタナが足を踏み入れた。
中央には、大理石のような台座に浮かぶ透明な全周地図。
「……意外と、広いわね」
ゆきながそのスキャンマップを見ながら呟く。
いくつもの都市区画が、階層的に配置されている。
居住区、教育施設、研究所、温室農場、格納庫、そしてメインシェルター。
その時、通信が入った。
⸻
― αより通信 ―
『――こちらハナフライムα。
全ての住民、無事に目覚めました。現在順次そちらへ向かっております』
「よかった……!」とえれな。
さらに、情報が続く。
『現在、周囲のネットワーク接続を試みていますが、ほとんど分断されております。
しかし、ラボコンピューターのみは自動運転で研究を継続していた痕跡があります』
「……ウイルスをずっと研究してたのかしら?」とゆきな。
⸻
そこへ、新たな報告が通信に乗って届く。
『環境スキャン結果。
――海中生物を除き、99%の陸上動物および生物は死滅。
植物はかろうじて遺存し、海中生態系は一部生命の継続が確認されました』
『しかし、空気を吸う大型生命体は全滅しております』
室内は、しん……と静まり返った。
「……そんなに……」
アスタナが目を伏せる。
「やはり、万年単位の隔離では……世界は変わり果ててしまいますね」
「……それでも、この子たちは目を覚ました。
都市は再起動し、未来はここから始まるのよ」
ゆきなの言葉に、皆が顔を上げた。
⸻
「残された時間と資源は限られている。
でも、146人の命が生きている限り、希望は残ってる。
この星を、もう一度……取り戻してみせましょう」
ゆきなの目はまっすぐ未来を見ていた。
えれなが一歩前へ出る。
「そして必要であれば、支援をいたします。
私たちの艦は――救助調査の船ですから」
シーザーが静かに頭を下げた。
「ありがとう……。
この星のニャーん族に、もう一度、夜明けが来る」
― 星の再起動と未来への橋渡し ―
「……そう、さみしいけど……これから、よね」
ゆきなが遠くを見つめながら呟いた。
その表情には、少しだけ残る寂しさと、それを包むような未来への希望があった。
「食糧系が厳しそうだから……えれな。うちの合成機、一式、貸し出せるかしら?」
「はい。ハナフライム二号機の三台連結型ユニット、そっくりそのまま外して転送可能です。どちらにお送りしましょうか?」
「この都市の食堂で。電源はこっちで手配してあるそうよ」
「承知しました。では、ユニットごと転送いたします」
「これで電源は確保できたわね。食料もなんとかなりそう」
ゆきながほっと息をつく。
⸻
― 共に手を取り合う未来 ―
「あと……通信装置を設置して。私たちにも連絡が届くように。たまに顔を出すから、お願い事があれば言ってね」
「そんな……そこまでしてくれるのですか?」
「ふふっ」
ゆきなが軽く微笑む。
「お友達が増えるのって、嬉しいじゃない? これは先行投資よ。しかも、みんないい笑顔だし」
「人数はまだ少ないけれど……一つの種族だけじゃ限界があるの。
いま私たちは、連邦国家・機械国家・そして不思議な種族国家との友好関係を築き始めている。
宇宙全体で何かあった時、きっと協力できるはず」
「一つの頭では無理なことも、他の種族にとってはもう解決済みの知恵かもしれない。
……そんな繋がりが、大きな危機さえ越えていけるのよ。仲良くしていきましょう!」
部族長シーザーとシルティが深く頭を下げる。
「……素晴らしい考え方ですね。まだ出会って1日ですが、これからよろしくお願いします」
「頭なんて下げないで。**平等な関係でしょ? これは“貸す”だけよ、ねっ♪」
ゆきながウインクを決める。
えれなは心の中で思った——「お姉様のウインクって、ほんと素敵」。
⸻
小さな手から広がる輪
そのとき、通信が入る。
『αより報告。通信衛星、設置完了。基地との通信、いつでも可能です』
「ありがとう、α」
ゆきなが声を返す。
「では……そろそろ“復興のお邪魔”になる頃ね」
——そのとき。
「おねえぢゃーーーん!!!」
ダッシュしてくる、猫耳の赤いワンピースの少女がいた。
「お母さんに聞いたの!助けてくれてありがとうーーーっ!!」
「いえいえ」
抱き上げるゆきな。
「今度落ち着いたら、お姉さんと一緒に遊んでくれる?」
「はーいっ!いっぱい遊ぶーーー!何がいいかなぁ〜、考えとくねっ!」
「うんうん、考えといて〜。お名前は?」
「シルエットっていうの〜!お友達にも聞いとくー♪」
走ってくるお母さん。「あ……すみません、お邪魔してしまって」
「いえいえ、癒されていますよ〜」
「この子、お話したらお礼するって聞かなくて……」
シルティが笑顔で話す。
「もう仲良しだよね〜っ!」
ゆきなとシルエットが**「ね〜〜っ!」**とぴったり笑顔を合わせる。
「……そうだ、子どもって、何人くらい?」
「全部で28名ですね」
「じゃあ、合成機でチョコ棒を30本お願い♪ 私のレシピで」
——シュイィィン
合成ユニットが起動し、チョコ棒が生成される。
「はい、シルエットちゃん。食べてみて?」
「わあああああ!あまーーーい!!」
「みんなに渡してきて♪」
「はーーーい!!!」
嬉しそうに走っていく——が、ぴたりと立ち止まり、くるっと回る。
赤いワンピースのスカートがふわりと舞う。
「お姉ちゃん、ありがとうーーーっ!!」
深々とお辞儀して、走り去っていく。
「素晴らしいですね」
ゆきなの本音
シルティが静かに言った。
「この子、おてんばだけど楽しみです」
長い旅路の中で、エレナはふと自分自身を映し出すかのように、この星に何万年もひとり待ち続けていたAIの存在に気づきます。孤独と希望のはざまで耐え続けてきたその姿は、彼女に深い共感と決意を与えました。
同じ境遇を乗り越えてきたからこそ、これから彼女はそのAIに、そしてこれから起こるであろう新しいことに、どんな助言や未来を示していけるのか。物語はまだ続き、その先には無数の出会いと学びが待っています。
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