ゆきなの悩みと決断 112
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
― 戦場、静寂へ ―
「全攻撃艦艇、ロック完了です」
ブリッジ内に緊張が走る。
複数の敵艦にマーカーが赤く点滅し、やがてすべてが青へと変わった。
「20連続目標主砲発射」
敵艦群は、すでに反撃能力を失いかけていた。
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― ゆきなの判断 ―
ゆきなは、ふとモニターから目を離し、考え込む。
「……勧告を出すべきかもしれない」
「もう十分だと……降伏を促すべきかもしれない」
しかし、その思考はすぐに打ち切られる。
「――でも、一瞬でも私たちの“殲滅”を選択した相手よ?」
モニターに再び視線を戻し、短く命じた。
「えれな、遠慮はいらないわ。
……ゴミクズと化しなさい」
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― 自動殲滅モード、始動 ―
「はい。周囲からの被弾ありますが、ダメージは軽微です」
「主砲、撃ちます」
その後は――もはや“戦闘”とは呼べなかった。
それはまるで、“処理作業”のように静かで整然とした殲滅だった。
全システムが自動演算を実行し、照準・砲撃・冷却・再照準……すべてがオートで連続展開。
その作業が終わるまで、わずか17分。
そして――
宇宙域、沈黙。
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― 勝利の余韻と感謝 ―
「えれな、お疲れ様」
「いえ……お姉様のおかげです」
モニターの光の下で、えれなはゆっくりと頭を下げる。
「何度も……無理だと思いました。でも、あそこまで踏ん張れたからこそ、ハナフライムαが間に合った」
「もしあの時……諦めていたら」
「きっと今ごろ、私たちは――ゴミか食糧になっていました」
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― “地球の心”と、姉妹の絆 ―
「……**地球の“心”**よ。あなた、いっぱい見てきたでしょう?」
ゆきなの声に、えれなが微笑みながら頷く。
「ええ、あの“諦めない”心……私の中にも残ってます」
「でもね、私も最後は――ダメだと思ったわ」
「ふふっ、まだまだですね」
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― 仲間への感謝、そして帰還 ―
「ユリア艦長、エリオット艦長――本当にありがとう」
モニター越しに映る彼らの笑顔が、今はただ温かかった。
「……さあ、星に戻りましょう。のんびり、紅茶でも飲みながら」
「では――帰還ルート設定、最短で。」
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― 知的好奇心は尽きない ―
その時、ゆきながふと振り返る。
「……ごめん、えれな」
「あの敵の記憶装置やコンピューター、探せないかしら?」
「……どうしてこれほどのことができたのか――知りたいの」
「全部で、4000隻近い大型艦。ただの力じゃない。思想か、技術か、組織か……」
えれなが静かに頷く。
「わかりました。生きていそうな記憶装置、スキャン開始」
しばらくして――
「……30基、稼働反応ありました。回収転送、実行中です」
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― 終幕の静けさの中で ―
外の宇宙は、何も語らず静まり返っていた。
青白い光に照らされた艦体が、静かに帰還の軌道を進む。
しかし、物語はまだ終わらない。
“なぜ、彼らはこれを行ったのか?”
それを探る旅が、今――新たに始まろうとしていた。
― 静かな帰還の途中で ―
激戦を終え、星へと戻るハナフライムα。
その内部――倉庫区画では、ちょっとした“見学会”が始まっていた。
「これが……ゆきな艦長のパワードスーツ……!」
「実物だ! すごいですね、艦長!」
うさぎさん整備ロボたちが、ぴょこぴょこと跳ねながらスーツの冷却チューブを繋ぎ直し、表面を丁寧に拭いている。
それを見つめる乗員たちの顔には、緊張が解けた安堵の笑みが広がっていた。
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― みんなの憧れと、ゆきなの照れ ―
「お気に入りなのよ」
ゆきなが頬をかすかに赤らめながら、スーツに手を添える。
「パイロットスーツ姿の艦長も……いいですなぁ〜」
誰かが小声で呟くと、クスクスと笑いが起きる。
「少し恥ずかしいけどね……」
「……これ、私たちも乗れたりするんですか?」
ゆきなが首を横に振った。
「いえ、生体認証です。一人ひとりの特注モデルよ。それに――」
「下手すると、星を一個まるごと殲滅できてしまうくらいの出力があるから、万が一の時には厳重な管理が必要」
「もしパイロットが不慮の事故などで動けなくなった場合は――中のサポートAIが引き継ぐ設計になってるの」
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― 紅茶とクリームパン ―
見学の後、食堂ブロックにある丸テーブルに、ゆきなとえれな、そして仲間たちが集まった。
「みなさん、よろしければ……お茶でも」
白磁のティーカップに注がれる紅茶の香り。
えれながポットを持ってくると、ゆきなが手際よくカップを並べる。
「甘い……」
「このクリームパン、めっちゃうま……!」
勝利のあと、ようやく味わうことができた小さな幸福が、艦内に広がっていた。
⸻
― 星が見えてきた ―
「あと30分程度で、惑星に到着予定です」
静かに流れる放送の声。
疲れ切った仲間たちは、それぞれの椅子に身を沈めながら、言葉にできない安堵を胸に抱いていた。
「……生きてるって、こういうことかもね」
「ノアリエルでは、のんびりご飯と温泉入りたいわぁ〜〜……」
誰かが夢見るようにつぶやくと、笑いが起きる。
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― ノアリエル管制との交信 ―
《こちらノアリエル管制。帰還、お待ちしておりました》
《戦闘データはリアルタイムで共有させていただいております》
《ハナフライムα、臨時着陸場までの誘導ルート確保済みです。どうぞ》
「わかったわ。緊急対応、ありがとう」
《いえ……いつもたくさん助けていただいております。少しでも恩返しをさせてください》
⸻
惑星防衛シールドが、ゆっくりと解除される。
管制より
《……おかえりなさい》
「ただいま」
ゆきなが静かに答えると、ハナフライムαの機体が――
工場の横にある巨大な発射場へ、ゆっくりと着陸していく
星の夕焼けが、青白い艦体を神殿のように照らしていた。
静かで、壮大で、確かに――
**“帰ってきた”**という実感が、全員の胸に広がっていた。
本当は、ゆきなはずっと慈悲をかけたかったのです。
けれど、どんなに呼びかけても、どんなに願っても、一度として応じてはくれなかった——。
自分も死ぬかもしれない、その底知れない恐怖が、最後に殲滅という選択へと手を導きました。
それでも、彼女は信じています。
その選択の先に、いつか必ず平和が訪れることを。
その信念だけを胸に、ここまで歩んできました。
この物語を見ていただいているあなたに、心から感謝します。
もし、ほんの一瞬でも心に響くものがあったなら、それが何よりの喜びです。
評価をしていただければとても嬉しいです!
地球のあちこちでも、いまも戦火が絶えません。
それでも私は、そしてゆきなも、えれなも出てくる人たちも信じています。
いつの日か、必ず平和な世界が訪れることを——。