銀河の静寂を切り裂いて ― 惑星ウイルス作戦 109
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
銀河の静寂を切り裂いて ― 惑星ウイルス作戦
「何が起きるかわかりません。臨機応変に。――ただこれだけは、死なないように!」
艦長の号令とともに、三隻の艦が静かに動き出す。緊張と決意の中、乗組員たちは一斉に敬礼し、それぞれの艦橋から目を光らせた。
惑星1:湿潤の工場惑星
「お姉様、湿度が異常です。工場内の空気がまるで熱帯のよう……」
「見て、ぶどうの房みたいに吊るされたあの塊。あれがすべて、大型艦の建造中ユニットでしょうね」
調査チームは静かに侵入し、次々と噴霧装置を配置していく。
「この星には20箇所。設置完了後、噴霧状況をチェックして次へ」
「了解しました」
惑星2:狭間の通商ノード
「配置完了。小型船の数が尋常じゃないです……」
「まるで銀河高速道路。すれ違うたび、当たらないかヒヤヒヤよ」
慎重に作業を終え、次の星へ移動。
惑星3:異常発生
「……接触。軽くぶつかりました」
「内部通信が増えています。アラートが出ました」
「こちらには気づいていない様子ですが、どうやら内部で揉めているようです」
ギリギリで設置を終え、即時離脱。
惑星4:静かな完了
問題なく完了。次へ向かう。
惑星5:水中惑星
「うわ、水中建造施設です。しかも…巨大です」
「噴霧量を倍に。蔓に直接吸収させるよう設置しましょう」
時間はかかるが、慎重に完了。
「予定より30分オーバーです」
⸻
本星到着 ― 眠れる森の巨艦
「……これが本星。なんて巨大……」
ジャングルのように張り巡らされた蔓の森。その中心には、大量の大型艦がまるで果実のようにぶら下がっている。まるで植物に“実った”戦艦。
その一角にあった建造棟、通称「睡眠倉庫」では――
「……すごい数の動物が睡眠モードで捕獲されてる。連邦市民はいないけど……これはもう、助けられない」
「無力ですね、私たち……」
「……でも、これで未来の被害が減るなら」
悲しみをこらえながら、ステルス装置をひとつずつ設置していく。
その時――
「全体スキャン、きました」
「……反応はないです」
「怪しまれてはいるかもしれないけど、まだバレてはいません」
再びスキャン。
「反応、変化なし。今は動かず待機します」
10分後、静かに外へ脱出。
⸻
作戦完了 ― 銀河の夜明けへ
三隻の艦が星系の外縁で静かに合流。ステルスモードのまま、連結が開始された。
「全機、遠隔起動。惑星ウイルス作動!」
20の惑星、そして本星に設置された噴霧装置が一斉に起動。目に見えぬウイルスが、静かに惑星全体に広がっていく――
「本星の燃料補給装置、不具合表示が出ています!」
「工場全体、稼働速度が1/13まで落ちました」
「予想より早い。初感染だから抗体がないのでしょうね」
モニターには、製造惑星1〜5、そして本星の感染状況が次々と表示される。
「全領域で感染確認。本星も抑制段階に入りました」
最後に――
「偵察用ステルス衛星だけを残して、全装置を自然分解モードへ」
「水中に溶けるようにして……バレたら大変ですから」
「……はい」
銀河に静けさが戻る。
誰にも気づかれぬまま、戦火を止めるための戦いが終わった。
それは破壊ではなく、眠りと衰退をもたらす穏やかな攻撃。
戦わずして未来を救うという、静かで力強い勝利だった
「では、任務完了とします」
静かに、艦内に響いた艦長の言葉。
満場の乗組員が無言で頷く中、次の言葉が続く。
「では、故郷に帰りますか。…今回の効果は、すぐには現れないかもしれない。でも、きっと一年先には、少しずつ少しずつ効いてくる。そう信じて」
「帰還ルート、最短で設定を。えれな、お願い」
「はい。ワープスタート。現在、13.7。順調です」
ブリッジに静かな緊張が流れる中、艦は加速し、銀河の縁を滑るように走る。
だが、その静寂は、わずか一時間で破られた。
― 異変 ―
「えっ……? 一瞬、ワープ速度が2まで低下しました」
「また戻りました……でも、また下がっています」
「また……上昇……これは……」
えれなの手元のパネルが目まぐるしく変動を示す。
表示は13.7 → 2 → 13.7 → 2.1 → 13.7……そして再び低下。
「何かが起きていると推測されます」
「現在、ワープ13.7……あ、また落ちました。今回は……長そうです」
「通過時間、約10分間。……抜けました」
ブリッジの空気が重くなる。
誰もが、言葉にできない違和感を感じ始めていた。
⸻
― 空虚な宇宙 ―
「……そういえば」
「行きには、あんなに大量にいた大型艦の群れ……今は、数隻しかレーダーに映っていません」
「異常な減り方……これは偶然?」
その違和感はやがて、確信に変わっていく。
それから同じようなワープ波の乱れが18回も繰り返される。
そのたびに一瞬冷や汗が流れ、また正常に戻る――まるで不安定なトンネルを抜けるかのように。
そして。
「緊急事態発生!」
「ワープ速度、1.3まで低下。……現在も徐々に低下中!」
「制御不能に陥る可能性あります!」
「こんなこと、今までに――」
「……抜けました。ワープ、13.7 復旧」
再びブリッジに安堵のため息が漏れる。
― 無音の宇宙にて ―
「前方レーダースキャン開始……」
「……不審なものは、見つかりません」
「今のところ、問題なく出ています」
えれなが報告するが、誰も完全には安心していない。
艦長が機関部に呼びかける。
「機関、チェック」
「正常」
「シールド、チェック」
「正常」
「武器システムは?」
「正常。すべて問題なし。現在、98.7%の稼働率で安定稼働中です」
艦内に静けさが戻る。
しかし、それは嵐の前の静寂か、それとも――
⸻
― 静かなる決断 ―
「……とりあえず、進もう」
ゆきなが言った。
えれなも、小さく頷いた。
「全員一致で、進行継続とします」
誰もがこの不気味な宇宙の異変に気づいていた。
だが、止まる理由はなかった。進まなければ――帰れない。
再び、静かに銀河を滑り始める艦。
その航路の先に、何が待ち受けているのかは、まだ誰にもわからない。
今のところ順調にひやひやしながら進んでいます。
へいわにおわらないだろうなああ・・
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