作戦名:カゼヒカセ作戦 103
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
(壮大な作戦開始まであと5話)
【作戦名:カゼヒカセ作戦】
──破壊ではなく、“熱っぽさ”で止める戦略。
周囲がざわつく前に、ゆきなはスッと説明を続けた。
「そこで私たちが立案した作戦ですが、破壊ではありません。あくまで“風邪をひかせる”ような、静かな攻撃です」
えれなが補足する。
「使用するのは、ウイルス型ナノ生命体。生体や構造物には無害で、惑星の生産能力を約1/8に落とす効果が期待されます」
「数値にして80%のエネルギー削減を強制できるのです」
「また、このウイルスは100年単位で変異し、最終的には自然無力化される設計。つまり、未来への影響も最小限です」
司令たちの目が鋭くなる。
「人的被害は?」
「ありません。標的はあくまで自動化建造システムのみ。全体稼働を10時間以内に鈍化できると予測されます」
そして、ゆきなが作戦フローを表示する。
■作戦概要
•ステルス航行で“母星”の2銀河手前にワープ配置
•3隻の艦より分離→6地点にステルス衛星装置を設置
•同時作業により感染拡大・稼働遅延見込み
•作戦完了後、痕跡を残さず撤退 衛星は分解予定
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「作戦決行は2週間後。お迎えは2隻のハナフライム号にて行います」
「人員は基本任意としますが、第一推奨:ユリア艦長、第二推奨:エリオット艦長とします」
「また、同行者はこのタブレット・テストを受け、一定スコアを超えた者のみ参加可能です」
司令たちはうなずき、ゆきなが続ける。
「惑星到着後は、半日程度の自由時間を設けます。基本自動運転ですが、操縦権限も開放します。ブリッジもご自由に」
「ただし、航路・機密宙域の詳細は非公開とさせていただきます。ご了承ください」
静まり返る会議室に、ひときわ明るい声が響いた。
「……なるほど。問題ないと考えます」
「勢力が昔の状態に戻れば、我々にも十分対応可能でしょう」
そこに、ゆきながポンと誰かの肩をたたいた。
「えっ⁉︎」
立ち上がったのは──新婚旅行予定のユリアとエリオットの2人である。
「ええええっ⁉︎」
「本日からのハネムーン2週間、実は……銀河連邦向け訓練兼報告任務となりました!」
「えーーーーーっ⁉︎予約してたのにーーー‼︎」
「……あ、それ全部キャンセル済みです。総司令から先月許可済みですので」
「ええええええええ⁉︎⁉︎⁉︎」
にこにことパンフレットを手渡すゆきな。
「大丈夫です。絶対こっちの方が楽しいですから!」
会議室内が笑いに包まれる中、他の参列者たちは、2人に向かって「……うらやましい」「行きたかった……」と、ため息混じりの視線を送っていた。
そして、2人の“地味に過酷なハネムーン任務”が始まるのだった──。
『銀河の誓約、そして旅の始まり』
「わっ……すごい……!」
初めてその光景を目にしたユリアの目が、星のように輝いた。
青く澄んだ空に浮かぶ空中庭園、足元には緑とクリスタルが織りなす広場、周囲を囲むのは透明なチューブ状の交通路に走る浮遊カプセルたち。どこを見ても未来的で美しく、どこか懐かしい温かさもある。
「ご自由にお過ごしいただいて結構ですよ」と、エレナが微笑む。「ただし、たまに安全性や状況を、自国に正確に報告してもらえれば大丈夫です」
「まあ、楽しそうね……ふふ。いいわ。帰り道はあなたたちと一緒に帰れるんでしょう?」
「もちろんです」と、ゆきなが答えた。「あの船は特別艦ですから。あまり口外されませんように。ただ、マリア姫は見学ツアーで知ってますけど」
「マリア姫……えっ!?」ユリアが振り返る。
「先日、着いた瞬間に待ち伏せされましたわ。すごい行動力です。素敵ですね」とエレナが笑う。
会議室では、銀河連邦総司令・ミヤギを中心に、会議の最終確認が進んでいた。
「概ね了承した。テストについては、落ちた場合はこの星には入れない。それで大丈夫か?」
「はい、それがこの惑星に入る条件です」エレナがはっきりと答える。「ちなみに私は100点でした」
「皆様には、知り合いという扱いで75点が最低条件として緩和されています」とゆきな。
「理解した。……では、これにて作戦会議は閉会とする。2週間後、作戦開始。迎えはユリア中佐、エリオット中佐がそれぞれ船で赴くこととする」
その後、ミヤギ総司令がふと手にしていた竹皮包みを持ち上げ、にこやかに言った。
「それと、お二方――このお弁当、とても美味しかった。この“おにぎり”というもの……素朴で愛情が感じられて。手作りなのがまた、心が温まる」
「ありがとうございます」と、えれながぺこりと頭を下げた。
「これがあるだけで、お腹も気持ちも幸せに終われた。感謝する」
「総司令は、これから本星に戻られるのですか?」と、ゆきな。
「そうだな……かなり長旅になる。ワームホールを使っても250銀河分ほど短縮できるが、それでも180銀河分はある」
そのとき、耳元に通信が入る。
「ゆきな艦長。辺境防衛軍より、ハナフライム型宇宙船が1隻、こちらに向かっていると連絡が入りました。到着まで約4時間半です」
「ちょうど良いですね」とエレナが微笑む。「もし信頼していただけるのであれば、本星まで私たちの艦でお送りしましょうか?」
「……それは、本当か?」
「はい。速度的には通常の5倍。ワープと自動航行で約48時間。10日よりも遥かに早いですよ」
「ありがたい! みんな、いいか?」とミヤギ総司令が振り返ると、技術国の随行者たちは一斉に、乗せてくださいと言わんばかりの眼差しでこちらを見ていた。
お弁当好評でした。
ユリアさんとエリオットさんの新婚旅行は勝手にノアリエルに まあ無料だしいいんじゃないかと思うんですが
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