エリオットとユリアの誓い 101
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
【ユリアとエリオットの誓い】
「この前は、ご馳走様でした」
そう声をかけたゆきなに、白髪混じりの優しい目をした女性が笑って答えた。
「まぁ、あなたたちが……うちの“お嫁ちゃん”の命を救ってくれた方々だったなんて。私、あの時知らなかったのよ」
「いえいえ、どうかお気になさらず」
と、ゆきなは静かに頭を下げた。
「ユリアさんたちはどちらに?」
「こっちよ。今ちょうど着替え中なの」
案内された控室の扉を開けると、そこには、華やかなドレス姿のユリアと、遠くで話し込んでいる赤い礼服のエリオットがいた。
「ユリアさん……とても素敵です」
「あなたたちこそ! そのお洋服、何なの? すごいわ!」
「私たちの国の、昔からの特別な式典用の服です。“振袖”って呼ばれているんですよ」
「……いいわね、本当に」
──式が始まるまで、控えのテーブルでお茶をしながら談笑する。
そして、まばゆい光に包まれてユリアが現れたとき、会場はまるで一瞬、息を止めたように静まりかえった。
拍手と祝福が響き、2人の誓いの言葉が交わされ、やがて式はあたたかい拍手とともに幕を閉じた。
宴が始まると、にぎやかな笑い声と共に酒が注がれ、場は次第に華やぎを増していく。
やがて、司会者の声が会場を包んだ。
「ここで、新郎新婦から皆さまへご挨拶がございます」
静けさのなか、ユリア中佐が一歩前へ出た。
「皆さま……本日は本当にありがとうございます。実は──今だからこそお話しできることがあります」
一瞬で会場の空気が引き締まった。
「約1ヶ月半前……私は捕虜になりかけ、敵の食糧として処理されるところでした」
どよめきが走る。
「死を覚悟し、ゆきな艦長に宛てて遺書を渡しました。その時、私の最後の想いを、ゆきな艦長は“自分で渡せ”と返してくれたんです」
「そして彼女は、単身で大型戦艦の前に立ちはだかりました。命をかけて、私たちを助けてくれたのです」
ユリアは深く息を吸い込む。
「この世界に、“平和”を信じる心がある限り──私はそれを信じたい。今回救われたのは、私を含め約500人。その家族や親戚を含めれば、何万人にもなる」
「家族を大事に思う気持ちは、誰もが持っています。そして──もしゆきな艦長が助けを求めた時、私はもちろん、皆さんの力が必要になるかもしれません」
「どうか、今日ここで感じた“勇気”と“感謝”を、心に留めておいてください。命を救う勇気が、誰かの明日になると信じています」
言葉を終えると、拍手が止まらなかった。多くの出席者が涙ぐみ、「ありがとう、艦長」と手を差し伸べてくる。
対応は大変だったが、温かい想いが肌に染み込むようで──
ゆきなはふと、胸の奥がやわらかく温まるのを感じていた。
食事を終え、部屋でお風呂をすませ、ジャージ姿に着替えたころ──
「トントン……」
「こんな夜中にどなた……?」
ドアを開けると、ユリアとエリオットが顔を赤らめて立っていた。
「ほら、お菓子持ってきたー!」
「子供かっ!」
思わず突っ込みたくなったが、えれなが嬉しそうにお菓子を受け取っている。
「そうそう、これ渡したくて」
手渡したのは、1枚のタブレットだった。
「試験……やってみて?」
2人はおとなしく問題を解き始める。
「……こんな選択できねーよ」
とぼやくエリオット。
「“ユリアと母、どちらを助けるか”なんて……選べないだろ……」
だが、その問いに2人は真剣だった。
やがて、採点結果が表示される。
「ユリアさん89点、エリオットさん78点。どちらも合格です」
「さっきの答え……あんな試験、馬鹿げてる。でも、そんな時があるかもしれない。星が攻撃されて、1人しか助けられない時がくるかもしれない……。だから、一生考えていくんだろうな・・・」
「……それでいいのよ」
静かに、深く頷くゆきなとえれな。
その夜、話は尽きず──笑いと想いを残して2人は帰っていった。
朝。波の音で目を覚ましたゆきなは、隣で起きていたえれなと顔を合わせる。
「ちょっと運動不足ね。走ってこようかしら」
「えっ、お姉ちゃん、ずるい〜! わたしも!」
ジャージ姿の2人が宿を飛び出す。
扉を開けた瞬間──
「……わぁ……きれい……」
えれなが、思わず漏らした言葉に、ゆきなは心の中で呟く。
(いい子に育ったなぁ……)
そして、朝の光の中を並んで走る姉妹の姿を見て──
昨日ここに集まった人々は、幻想的な光景に、ただ微笑むのだった。
戻ると、テーブルには豪華な朝食が並んでいた。
「どうぞ召し上がれ」
にっこりと笑うエリオットのお母さん。
「なんだか娘が三人も増えた気がするわ」
「……娘、だって。いいですね。なんか、こんな世の中」
「ほんとね……」
9時にはお迎えが来る。
窓から差し込む朝の光は、どこか新しい一歩を予感させていた──
ゆきなとエレナが朝の光を浴びながら外に出ると、
澄み渡った空の上から──まるで羽のように美しいフォルムの船が静かに降りてきた。
まわりにいた町の人々も手を止めて空を見上げる。
「お迎えね」
と、エレナが嬉しそうに呟いた。
ユリアさんが
「お母さん、行ってきますねー」
「はーい、いってらっしゃーい!」
後ろでエリオットの母が手を振って見送ってくれる。
晴れやかな笑顔で、娘とその伴侶の旅立ちを送り出す母の姿に、思わず胸が温かくなる。
「このあとは会議が終わったら──」
「……ハネムーンだってさ。のんびり惑星間を巡るらしいわよ」
ステーション司令が全部ないしょで、スケジュールを全部キャンセルしてくれているそうだ
・・・・・・・・・しらない二人
ウキウキと小さな荷物を抱えて歩くユリアとエリオット。
その姿はまるで、新婚カップルそのものだった。
周囲にいた人々も、自然と笑顔がこぼれる。
──なんだか、幸せをお裾分けしてもらったみたい。
そして、艦のハッチが開いた。
中からゆっくりと姿を現したのは──
昨日、にっこりと手を振っていたイエナパイロットだった。
今日は白い制服が朝の光に照らされて、どこか神々しささえ帯びている。
「お迎えにあがりました」
と、彼女は手を振る。ゆきなたちも笑顔で振り返す。
昇降リフトが降り、6名が順番に乗り込んでいく。
──ユリア中佐とエリオット中佐。
──アザト司令。
──ゆきな艦長、エレナ副艦長。
──そして、もう一人の要人。
それぞれが新たな役割と目的を胸に、この艦へと集まった。
最後に乗り込む前、ゆきながイエナの横でふと立ち止まる。
「イエナさん、またよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ。光栄です」
その言葉に、イエナはいつもの知的な笑顔を返した。
柔らかな風が吹き、振袖の袖がふわりと揺れる。
艦の扉が閉まり、浮上のブースターが起動する。
──ゆっくりと、空へ。
町の人々が手を振って見上げるなか、艦は新たな目的地へと向かっていくのだった。
次の星へ。
次の出会いへ。
そしてまた、次の物語が──。
綺麗でした・・・でもキャンセルって・・・
次の作戦会議が始まります。
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