JAX⭕️ 見学会 10
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
「では、ご説明します。簡単に――」
エレナが後部座席でスッと姿勢を正しながら話し始めた。
「この車のコンピューターを入れ替えました。そして、面白いことにこの車には通常とは異なる“切り替えモード”が存在していました」
「切り替え?」
「ああこの左側の通常 eco スポーツに切り替わるやつだね」
「はい。たとえば、“eco”は電気走行に変更。“スポーツ”はそのまま加速重視の走行モードです。“universe”モードは……今後長くなるので現在は開発中です」
「なんかすごそうだな(笑)」
「さらに、パスワードを入力すれば“通常”のように見せかけて、車検にもそのまま通る設計にしました。ecoモードではモーター出力を上げ、小さな融合炉を搭載しております」
「え、融合炉!?」
「はい。心臓ほどのサイズの融合炉発電機レベルです」
「マジか……すごい電気自動車みたいじゃん!」
「乗って確認しましょう」
⸻
そして、高校に到着。校門の前で父に撮ってもらいながら、エレナと記念写真をパシャリ。
そのタイミングで先生が校舎から現れる。
「あら、妹さん?」
「そうです、妹です」
「あらまぁ、かわいらしい〜」
後輩たちも「わー!」と集まってきて、にぎやかな雰囲気に。
理科部の部室を見せたあと、校内を一周。
見学の最後、先生が声をかけてくる。
「ぜひ来年はうちの学校に来てね〜。今度お母さんと一緒に説明会にも来てちょうだい」
「はーい、考えてみます」
その後、出発の準備に入る。
「さあ、行きますよ〜。こっちはあと2人乗れるよー!」
「先生の車は4人ねー!」
「えー、部長のところがいいー!」
「じゃあ、じゃんけんだね!」
「だって、エレナちゃんと話したいし!」
一年女子たちの熾烈なじゃんけんバトルが始まり……
「やったーーー!」
歓喜する2人と、落ち込む他の子たち。
「あーあー、先生のところかぁ……」
「ちょっと、何よ! 先生だってそっち乗りたいわよ!」
みんなで笑いながら、車に乗り込む。
⸻
「では、出発しまーす」
車内は和やかな雰囲気。
「ねえねえ、エレナちゃん来年うちに入るの〜? 後輩ちゃんになるの?」
「ええ、そうなったら嬉しいです。頑張ります!」
わいわいしながら走る車内。父は内心――
(……すげえな。モーター、高速でも滑らかで加速が鋭い……こりゃすごい)
⸻
そして、相模原JAX⭕️に到着。
「エレナちゃん、ずっとお姉さんと手つないでるね〜」
「私もつなぎたーい!」
両手を後輩たちに譲って、ゆきなは嬉しそうに笑っていた。
正門に着くと、すでに数名の出迎えが立っていた。
「⭕️⭕️女子高校、理科部部長です。本日はお招きいただきありがとうございます!」
しっかりとお辞儀。
「みんなも、ほら!」
メンバーはお揃いのワンピースをそっと手を添えておしとやかに、丁寧にお辞儀。
先生は少し出遅れ気味にあたふたとお辞儀する。
「いえいえ、こちらこそ。発表、とても良かったですよ! ぜひ意見交換もしたいですね」
⸻
見学が始まり、まずは通常の見学ルートへ。
そのあと研究棟に移動し、月のサンプルの説明が行われる。
「では、こちらが月の石です」
「わぁ〜!」
歓声があがる。
「触れることはできませんが、こちらがレゴリスです」
その時、私はふと質問をした。
「このレゴリスから、どれくらいのヘリウム3が採取できたんですか?」
職員の人がハッとしたようにこちらを見て、真剣な顔で答える。
「……感知はできる程度でした。ですが、地球に運んでくる途中で、ほとんどが抜けてしまいました」
「なるほど。本当に貴重なんですね」
「ご興味が?」
「はい。祖父の研究が、先日の発表のもとにもなっているので」
職員は「なるほど」と頷きながら、じっと私を見ていた――。
その後、見学はさらに深まり、
宇宙エンジンの仕組みや火星への航行計画、宇宙ステーションの研究成果まで、たっぷりと説明を受けた。
展示資料や実物模型、研究員の方々の話す熱意に、理科部の一同も興味津々だった。
「お昼は食堂をご自由にどうぞ」と案内され、全員でのんびりランチタイムに。
カレー、定食、サンドイッチ…思い思いのメニューを手に、グループに分かれてテーブルに着く。
そのとき──
「部長さん、お隣よろしいですか?」
声をかけてきたのは、先ほどの説明にもいたJAX⭕️の職員だった。
「感想をまとめたレポートを書いた佐々木と申します。今回のご来訪、ありがとうございます。」
「こちらこそ光栄です、興味はすごくある部員がおおいので」
と、部長はやわらかく応じる。
「祖父が、ヘリウム変化の研究をしていたらしくて、それを理解したくて…お勉強しただけなんです」
と照れたように話すと、佐々木さんはうなずいて微笑んだ。
「……あの、食後に少しだけ、お時間いただけますか?」
ぽろっと、佐々木さんが真剣な表情を見せる。
「ええ、いいですよ。話を聞きましょう」
「みんなー、ご飯食べたら13:30まで休憩ねー」
と声をかけて、部長はそっと立ち上がる。
(エレナ、一緒に来る?)
(いえ、時計で聞こえてますので、先輩方と一緒にいます)
(了解)
「お父さんー」
「おっ、今行くー!」
元気な返事と共に、父も加わる。
案内されたのは、音漏れ対策の施された個室。
エレナの画面に「周囲に盗聴などはございません」と表示される。
「どうぞ、おかけください」
佐々木さんの言葉に従い、ソファに腰を下ろす。
「実は……お見せしたいものがあります」
鞄から取り出したのは、一枚の設計図のような紙。
「……これは?」
「少々、拝見いたします」
目を通すと、思わず息をのんだ。
「……まさか、こんな単純な方法で……時間はかかるけど、ヘリウム4からヘリウム3を製造する方法ですか?」
「はい。祖父の研究で、倉庫の装置で70年かけて完成していたようです」
「現在、特許申請中です」と続けながら、ゆきなは小さなガス缶を取り出した。
「これは……ヘリウム3、ですと?」
「精製中のものが残っていて、この一本がそれです。
鑑定・調査をお願いしたいのです。結果は、JAX〇で正式に証明書として出していただけると助かります」
佐々木さんが驚いた顔でこちらを見る。
「もしも、本物と証明されるなら……この一本、差し上げます」
「これは……いただいても?」
「はい、試験用としてなら構いません。
ただし、本物と証明された場合には、その鑑定書をご提示いただいた上で交渉をさせてください。
祖父の研究が正しいなら、国の力で効率化し、研究用としての製造も不可能ではないはずです」
部屋が静まり返る中、佐々木さんは深く頭を下げた。
1週間10話目・・・本当は3日に1回予定なんですが…
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あしたも・・・頑張れるかもしれない・・えっ・・あしたも・・がんばりますかも・・