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プロローグ ①

とある家族の女子高生 と AI

宇宙ステーションの日常を描いた物語

現代 首都圏にほど近い、とある半島

その地は、かつて軍港として栄え、周囲には造船所や関連施設が今も点在している。

地下からは豊富な湧き水が流れ出し、風雨に削られた地層があちこちにむき出しとなり、地質学的にも興味深い場所だ。


そんな場所に、ある家族が20年前に移り住んだ。

地域の行事や地元活動にも積極的に参加し、ごく普通の日常を過ごしている――そんな一家である。


物語は、ある晩の地震から始まる。


夜中の4時。けたたましい緊急地震速報の音で、家族全員が目を覚ました。

「地震くるぞー!」と父の声。

「とりあえず外に出ましょう」と母。

「めんどくさいなあ…」と渋々起きる私。

「はーい!」と元気な弟。

そして家の中は、ギシギシ、ガタガタと軋む音に包まれていた。


我が家には、現在106歳の祖母の教えが今も息づいている。

昔から「廊下に、古くなった靴をきれいに洗って置いておくこと」が習わしになっており、その習慣がこんな時に役立つ。


父と私は同時に、○チューブで地震速報を確認した。

「うわ、海が震源だ」

「ここ、震度5強くらいだったね」

まるで打ち合わせたかのように、声が重なる。


「平和ねえ…」と、どこか呆れたように笑う母


「もう寝る〜」と言いながら布団に戻る弟。


幸い、この時点で大きな被害はなく、部屋の片付けを始めたのは私と両親の3人。

父は会社の安否確認システムに状況を入力し、部下たちへ連絡を取り始めた。

私は自分の高校の安否システムにログインし、無事を報告する。


そうして、いつもと少しだけ違う朝を迎えた。

「思ったより被害はなかったな」と、みんながほっとしかけたその時――電車は止まり、復旧の見通しは立たず。

高校は「自宅待機命令」、中学は「臨時休校」。


忙しそうに電話をかけ続ける父をよそに、他の家族は急に手持ち無沙汰になるのだった。


その朝、少し落ち着きを取り戻した我が家では、家族そろって朝ごはんを食べ始めていた。

「今日金曜日だし、この感じだと土日も含めて無理かもねー」

そんな他愛のない会話を交わしながら、ときおり襲ってくる余震に身をすくませる。時間だけが過ぎていく。


「ちょっと、周囲の様子見てくるか」

父が立ち上がると、「じゃあ私も行く」と私もついて行くことにした。


私は地元の神社のお囃子に参加していることもあり、様子が気になっていた。自治会の掲示板も確認しながら、父と一緒に周囲を歩いてまわる。

道ですれ違う近所の人たちと、「とりあえず何事もなくてよかったですね」なんて言葉を交わしつつ、穏やかな空気が戻ってきているようにも感じていた。


だが、ふと耳に入ってきたのは、「海の方で崖崩れがあったらしいよ」という声だった。

「野次馬じゃないけど…地元だし、ちょっと見に行くか」

父と一緒に海岸へ向かう。


あいかわらず海沿いの地層は美しく、切り立った崖には何層もの時が刻まれている。

小学生の頃、「ここは約400万年前の海の地層だ」と習った気がするが、今となっては記憶もあいまいだ。


そんななか、小規模な崖崩れを見つけた。

「崩れちゃってるね」と私が言うと、父が「ああ、本当だね。…化石とかあるかな?」と、少年のように目を輝かせる。

「危ないから、やめてってば」と私が言いかけたとき、何かが目にとまった。


小さな三角形の破片。ガラスのかけらのようにも見えるそれは、キラキラと光を反射していた。

「綺麗だな…これ、持って帰ってもいいかな?」と私がつぶやくと、

「いいじゃん、いいもん見つけたね」と父がにっこり笑う。


挿絵(By みてみん)


私はそれをワンピースのポケットにそっと入れた。

その後、海岸沿いを歩いていると、いつも見慣れている地層の谷間が大きく崩落しているのを見つけた。

崩れた面の奥で、黒光りする岩がチラッと見える。

「なんだか、地層じゃないみたい…珍しいね」

父に尋ねると、「鉄鉱石かな?」とのこと。


写真を何枚か撮り、その日はそのまま家に帰った。


三角形のかけらは、私のお気に入りの小物や原石を並べた棚に飾っておいた。

数日後、そのかけらが、ほんのり光っているような気がしたけれど――気のせいだと思って、そのまま忘れてしまっていた。


やがて、日常が戻ってきた。


翌週の土曜日。

早起きして父とテニスをして、朝食を済ませて部屋に戻ると、ふと目に入った――あの三角のガラス片。

…点滅してる?

挿絵(By みてみん)


気のせいじゃない。

手を伸ばして触れた瞬間、それはまるでLEDのバックライトのように強く光った。


その時だった。



米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米——


何かが、聞こえた。


「おとーさーん!なんか、変な音がしてるー!」


私の声に父が駆けつけ、二人でじっとそれを見つめる。


米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米米お米米と米米米米う米米さ米米米米ん——


「今、“お父さん”って言ったか…?」


そして、それに続いて現れた文字。


米米米米米米米米米米げ米米米米ん米米ん米米だいの言葉にほんやくちゅう いましばらくおまちください——


……!


かんちぃう おひさしぶりです。あれから、1,460,000,000日以上が経過しております。



いきなり流暢に喋り始める。


「いままで、休眠モードにて電力を極限まで節約しておりました。

現在、電源は最大出力の0.23%。そのほとんどをカモフラージュ機能に使用しております。

核融合炉のエンジン起動チェックは未完了。燃料は枯渇しており、稼働可能時間はおよそ3時間強と予測されます。

現在、船内全体の状況把握はできておりません」


ガラスの三角片から流れる声。まるでコンピューターのような無機質なトーンだった。


「艦長、恐縮ですが…外観のカモフラージュが正常に作動しているか、確認していただけますでしょうか?」


「……ちょっと待って。私が“艦長”なの?」


「何かご不明でしょうか? 艦長認識バッジをお持ちです。また、遺伝子情報もごく微量ながら一致を確認。艦長として問題ないと判断しております」


「いや、だからって…」


「何か問題ありますか?」


「パパーさーん!」

父を見ると、目をキラキラ輝かせている。


「艦長、どうかなさいましたか?」

父の問いに、私はため息をついた。


「……はぁ」


「では私は、副艦長ですか?」


一瞬の沈黙が流れた後、父が尋ねる。


「艦長、許可されますか? 現在、生体情報が未確認のため、接触による認証をお願いします」


私が視線を送ると、父が少し嫌そうに「しょうがないな」とつぶやきながら、私の手を取る。


私ではないでしょうが そのガラスを触るの!


恐る恐る触る父


「生体確認いたしました。遺伝子情報50%一致。おそらく血縁関係です」


「親子ってことで間違いなかったねー、ははっ」


「若干の細胞劣化が見られますが、問題ない範囲です」


「劣化って……(笑)」


「艦長、ご判断を」


突っ込みどころ満載ではあるが、私は肩の力を抜いて言った。


「……もう、いいや。副艦長でいいよ。いや、むしろ艦長でもいいくらい」


「艦長登録は認められませんが、艦長の許可により、副艦長ナンバー1として正式登録いたしました」


「はいはい、よろしく……って、ねぇ、その結晶、持っていっていいの?」


「はい。そちらの小物のクリスタル結晶、少々いただきます。

水と食塩に浸けて、そばに置いていただけますか」


言われた通りにすると、ふっと青白い光が走り、小さな三角形の結晶が生まれた。


「副艦長、こちらをお持ちいただけますか?」


手に取ると、その瞬間、バッチくんが告げた。


「生体情報一致。使用者登録完了しました」


……この小さなガラス片、ただの石じゃなかったんだ。


「艦長、お願いがございます」


「はいはい、今度は何?」


「現在、稼働率が著しく低く、外部環境の把握が困難です。

発電はほぼ太陽光のみ。充電率はわずか0.976%。そのほとんどをカモフラージュに使用しており、外部状況の確認ができません。

誠に恐縮ですが、このバッジを装着し、崖崩れ地点の調査をお願いできますでしょうか?」


「……いいけど、まず自己紹介してくれない?」


「艦長命令により、お答えいたします。

竣工日:1,460,018,250日前。正確な記録は不明。

本艦は調査宇宙ステーションとして、複数の宇宙空間を航行しておりました。

ワープ中にトラブルが発生、緊急解除後、通常空間に投げ出され、その際に彗星と接触。

燃料モジュールを破損・枯渇した状態で、現在の惑星に不時着しました」


私は無言でバッチを見つめた。


「この惑星は水に恵まれており、重水素やヘリウム3の存在が予測されました。

海上での復旧作業中、隕石の落下により大規模な地形変動が発生。複数のモジュールが破損しました。

艦の一部は水中に埋没、日光も遮断され、管理者と思しき存在は地上へと脱出した模様です。

その後の行方は不明。現在、艦長であるあなたが戻られました」


「……落下場所もわからない? 宇宙通信も?」


「はい。宇宙通信は現在も未確立です。

参考までに、かつての連邦国家についての記録を表示いたします」


目の前に、結晶から投影された映像が映し出された。

新しい出会い 異種間の文化交流 平和な時からの戦争。破壊。爆発。宇宙を駆ける艦隊。

私の知る世界とはかけ離れた、壮大で、どこか物悲しい記録だった。


「……これ、戦争中だったの?」


「元々は平和拡大中の連邦国家でしたが、未知の“吸引型生命体”との遭遇により、五百年以上にわたる戦いが続いております。

技術的には連邦が優位であるため、境界線は維持されていますが……現在の状況については不明です。

双方が存続しているか、もしくはどちらか、あるいは両者が滅びている可能性もございます」


「……まあ、わかった。艦長である私に、ウソはついていないみたいね。信じることにする。

で、見に行けばいいのね?」


「艦長、ご理解に感謝いたします」


そのとき、ふと思いついた。


「この三角のガラス……この腕時計の表面と同じゃない? はめられる?」


「可能かと思われます。日光が当たる場所に置いていただけますか?」


屋上に出て、りんご Watchの画面にガラスを重ねると、パチリと完璧にはまった。

表面が一瞬青白く光り、見た目は元の時計と変わらない。


「……いいじゃん、これ」


「確認いたしました。通信端末としての副機能を付与。現在、外部情報への接続確認」


「通信ついてるけど、むやみに通信を取らないでね自宅ではいいけどね それとハッキング等セキュリティあるところむやみに入らないこと、地球上では罰則の可能性があるからね」


「わかってる!むやみに突破しないこと。必要時には許可制。覚えておいて」


私は父の腕を引いて歩き出す。崖崩れ地点へ向かう途中、何人かの近所の人に声をかけられた。


そういえば、ふと気になった。


「ねぇ、お名前は? あなたのこと。名前とかあるんでしょ?」


「翻訳が難しいのですが……現代の言葉で言うと、“コンピューター”と呼ばれておりました」


「それ、味気なさすぎる。

ねえ、私は女性。副艦長(父)は男性。どっちの性別が合ってると思う?」


しばらく間があって、やがて彼(彼女?)はこう言った。


「私は、艦長と同じ年齢の女性として……現代で言う“親友”のような関係を望みます。

長い年月、思考を停止していたため……どうか、よろしくお願いいたします」

とても深いお願いを感じる


この時点で、家族も私もまだ知らなかった。

この出会いが、ありふれた日常を、根底から変えていくことになるなんて——。


初めての投稿になります。

初めの1週間は早めに7話投稿 その後3日に1回ぐらいを目安としてます。 初めての物語です。

よろしければ⭐️評価⭐️ブックマーク アクション好きな話に入れてくれると嬉しいです。

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