刻印を押された翔平、ベンチの上で人生を終える
「それでは契約成立ということで。翔平さん、お手数ですけど上着をめくって、左腕の手首を見せてもらえませんか」
翔平は言われた通りにし、素肌をさらした手首をアンナの方に差し出しました。
アンナがその手首を掴むと、熱湯をかけられたような熱さが手首に襲ってきました。
「熱っ! 何するんだ!」
びっくりした翔平は、アンナをにらみつけ、自分の手首を見つめます。本当に熱湯をかけられたような赤味があり、円型のうずまきの模様がミミズばれのようになっています。
「そのうずまきがアクマの刻印です。刻印も熱さもすぐに消えます」
確かに言われた通り、ミミズばれも赤味も、手首から消えました。
「これでアクマとの契約は完了しました。翔平さん、今の人生はもうすぐ終わります。大好きなビールでも飲んで、最期の時をお迎えください。それでは私はこれで失礼します。契約していただきありがとうございました」
ベンチから下りると、礼儀正しく頭を下げます。小学5年生ぐらいの女の子が立ち去っていき、とうとう公園のベンチからは見えなくなりました。一人ベンチに取り残された翔平は、アンナが去った方向をしばらく見つめていましたが、すぐに気を取り直して、つまみを頬張り、ビールを流しこみます。酔いが回るとベンチに横たわり、そのまま気分良く眠りにおちました。寝息を立ててしばらくすると、契約通り心臓発作が起こり、苦しまずに死ねたのでした。
死んだ翔平の体から、ゴルフボールぐらいの銀色の球体が浮かび上がり、飛んでいきます。その球体は、夜道を歩いていたアンナの前で、宙ぶらりんのまま止まりました。立ち止まったアンナは、嬉しそうにその球体を掴むと、着ぐるみの腰のあたりに付いてあるポケットの中にしまいました。
「50年分の寿命が手に入るなんて、我ながらよくやったわ!」
エッヘンと胸を反らしたいぐらい、アンナは誇らしげです。そのアンナの姿は徐々にかすんでいき、とうとう消えてしまいました。時間と空間を自由に移動できる能力がアクマにはあるので、アンナは次の人生を歩んだ翔平を見にいきました。興味がある時は、声をかけようと思っています。
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