逃走中の翔平、アクマと出会う
それからも人目を気にしながら自転車を漕ぎ、誰もいない公園を見つけると、疲れていたのでベンチに腰かけました。警察に捕まるのは、時間の問題なのは分かっていました。
やぶれかぶれの気分でビールを飲んでいると、一匹の犬がこちらに近づいてきます。5メートルほど手前までくると、止まってコチラを見ていました。人間ぐらいの大きさの黒いプードルです。エサが欲しいのだろうと考えた翔平は、一口サイズの唐揚げをいくつか放り投げました。犬は唐揚げには見向きもせず、翔平に向かって口を開きました。
「あのー、私、犬の格好をしていますけど、実はアクマでして」
驚いた翔平はのけぞり、「い、犬がしゃべった!」と指差しました。
「はい、驚かせて申し訳ありません。ところでメフィストフェレスってご存じでしょうか? ドイツの小説家が紹介したアクマなんですけど」
「いや、知らない」
翔平は首を振ります。自分は今、酔っぱらっているか、夢の世界にいるんだ、と思いました。
「人間界に現れた時、黒いむく犬の姿で登場したんです。むく犬っていうのは、プードルっていう犬種のことなんですけど、私、メフィストおじさんとは親戚筋にあたる女の子のアクマでして、それで黒いプードルの姿なんです。他の一族の方たちは、黒猫やコウモリなどの格好で人間界に現れていますけど。あのー、それで私がアクマだって分かっていただけましたか?」
「分かった、分かった」と、しゃべる犬に向かって翔平は頷きました。改めて自分は夢を見ているんだと思いました。
《参考文献「ファウスト」(ゲーテ)》
お読みいただき、ありがとうございました。
ブックマーク、ポイントを入れていただけると幸いです。
よろしくお願いします。