高卒の翔平、チャンスを奪われる
中学を卒業すると、姉も翔平も昼間は働いて夜間高校に通いました。姉は稼いだお金を貯めて高校を卒業すると、看護師になるための専門学校に進学し、その目標を叶えました。翔平は高校を卒業すると、有名メーカーの工場に就職しました。マニュアル通りの製造工程を、時間通りにやっていく単調な仕事です。単純労働は耐えられないと辞めていく人も多くいました。高卒の現場要員に、会社が与えてくれる仕事はその程度でした。自分で考えたり工夫したり、会社の方針を決めるのは大卒の人間にしかさせないのでした。高卒の人間にも、会社の重要な仕事をさせてくれるチャンスがあるなら、それをモノにして出世していき、会社の業績を上げていく人物は必ず出てくるはずだと思うのですが、チャンスが存在しないのでした。
貧困家庭出身なので、中学高校と授業のスピードが上がると、塾に行けない翔平は学力を上げることはできず、テストのための一夜漬けの勉強でごまかしながら、なんとか高卒になりました。学力と学費の両面から、翔平が大卒になるのは不可能でした。しかし、大学で学んでいることはビジネスで成功することに結びついていないのに、なぜ大卒をビジネスの世界で有能だと会社が判断するのか、翔平は納得できないのでした。
4年ほど働いた頃、会社の業績が悪くなり、リストラが始まりました。製造業は現場要員からリストラされ、翔平も自主退職に追い込まれました。会社の業績を悪くしたのは、会社の方針を決めている大卒のお偉いさんなのに、その人たちの失敗の尻拭いを、高卒の現場要員の自分たちが取らされている。そんなのってあんまりだ。だから大学の勉強なんてビジネスでは役に立たないんだ。大卒なんて全然優秀じゃない上に、責任も取らない最低の奴等だ、と翔平は思うのでした。
《参考文献「格差という虚構」(小坂井敏晶)》
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