心を壊された翔平、闇堕ちする
深夜2時すぎ、調べた自宅付近に、翔平が乗っている軽自動車が停まっていました。ダッシュボードには、ふだん料理で使っている包丁が、タオルにくるまれて収納されています。助手席には、中身の入った10リットル入りのガソリン携行缶が置かれていました。
心を壊された翔平は、人間関係を上手く築けず、薄暗い日中も真夜中も、電気もつけない部屋でひとりゲームをしているのに、心を壊した加害者は、犯罪行為の責任も取らずに学校に居座り、威張り続け、時間が経てば、学生時代はヤンチャだったけど、今は落ち着いてみんなの頼れる兄貴ヅラして生きている。
でも翔平は一生忘れずに憶えているのです。その兄貴ヅラしている男が、警察がいないことに調子づいて、14才児の王様として、下僕にした翔平を見下ろしていたことを。〈大谷のくせに〉〈使えねえ奴〉虫けら扱いのそんな言葉を浴びせていたことを。その教室は翔平にとっては強制収容所のようで、王様が気が向いた時に、殴ったり蹴ったりできる玩具として存在していたのです。
そんな辛い出来事は、心の中深くに埋めてしまえる日を望んでいましたが、29才の今でも、突如マグマのような怒りとして沸き上がってくるのでした。
「オレはアイツを包丁でめった刺しにしていい資格がある。オレはアイツのマイホームに、ガソリンで放火して全焼にしていい資格がある」
翔平はそう呟いて、加害者の自宅を睨みつけていました。しかし30分もしないうちに、結局何の行動もせずに、静かに車を走らせるのでした。そして誰もいない河川敷のグラウンドに車を停めると、ハンドルに自分の頭を何度も叩きつけて「わぁ~!!」と叫んで泣き出しました。頭の中で恐ろしいことを考えても、それを実行に移すことは、心優しい翔平には不可能だったのです。
そしてある日、アクマとの契約通り、心臓発作で亡くなりました。
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