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両手いっぱいに百合の花束  作者: 兼定 吉行
第五章 露見
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第54話 真相

 その思いもよらぬ言葉に、一朗は呆然とした。


 あの日って……あの日……だよな……? 


 ――いや、おかしくはない。


 五組は野原の教室だし、あの告白は緑化委員の集まりもあった後だった。


 付近に居たとしても何も変じゃない。


 ハッと、あることに気付く。


 そういえばあの時、確かに誰か人の気配があった。


 あの時は勘違いかとも思ったが、あれは野原だったのか……!? 


 じゃあやっぱり、とっくから二人の関係を知っていた……のか……。


 だが、なんで今頃になって嫌がらせを……? 


 それも、恩人の二人に……? 


 そう戸惑っていると、野原が更なる驚きの言葉を続ける。


「斉木殿は、あの二人のどちらかを好いておろう?」


「なっ」


 ――なんでバレた!? 


「見ていればわかるでござるよ」


 俺ってそんなにわかりやすい方じゃないと思うんだが……。


 それだけ野原が、俺のことを見てたってことか……。


 野原の真剣な想いに改めて気付かされると同時に、疑問も強くなった。


「……でもそれと、二人に嫌がらせをするのとなんの関係があるんだ?」


「斉木殿はその想い人に、気持ちを告げたでござるか?」


「……ああ。まあ、やんわりと断られたけどな」


「そこでござる」


「えっ」


「黒戸殿と雪野殿は両想いで付き合っているにも拘わらず、斉木殿の好意をはっきり断るでもなく半端に受け入れていることこそ、問題なのでござる。拙者の想い人である斉木殿を、俗に言うところのキープ扱いしていることが許せなかったでござる……」


「……な、なるほど」


 一朗は気付かされる。


 現状に甘んじていた、俺にも責任があったのか……。


「これがきっかけで、黒戸殿と雪野殿が付き合っていることを公にしたなら、斉木殿も諦め、拙者とのことを今以上に真剣に考えてくれるかもしれないと、そうも考えていたでござる。でも……」


 そこで野原は一度口ごもり、唇を噛んだ。


 そうしてから、意を決したように続きを語る。


「すぐに後悔して、ずっと悩んでいたでござる……。拙者はあんなことをしたのに、もしも今日斉木殿から色好い返事を聞かされたら、余計に自分のことが許せず、嫌いになってしまう……。それが何より怖かったでござる……。そもそも、こんな非道な真似をした拙者に、返事を聞く資格も無いでござる……。あの二人が優しくいい人であることも、本当は身をもって知っていたのに……」


 野原による心情の発露は、一朗にも強く響いた。


 俺の諦めが悪いばかりに、野原にもこんなことをやらせちまったっていうのかよ……。


 何やってんだ俺は……。


 そんな一朗の心境など知りようもない野原は、自身の過ちを詫びる。


「拙者、このことを黒戸殿と雪野殿に謝ろうと思うでござる……。それにあの日、二人のことを不自然だと罵倒してしまった件も……。真剣に好き合ってる者をあのように一時の感情で、思ってもない醜い言葉で罵ってしまい……」


「……そうだな。事情を話して謝れば、あの二人も安心すると思うぞ。それに喜びもするだろうな」


「えっ……喜ぶ……?」


「ああ、俺以外にもあの二人の事情を知ってなお、受け入れてくれるヤツが居るって知ったら間違いなく喜ぶぞ。謝りたいってことは、これまで通り仲良くしたいって、そういうことだしな」


「そ、それはそうでござるが……さすがに嫌われるのでは……? それに、拙者にムシが良過ぎるでござる……」


「ムシが良くて何が悪い? そんな心配すんな! どんと謝って、仲直りしてこい!」


「そこまで言うのであれば……承知した」


「そうと決まれば、早速電話掛けろよ?」


「いっ、今でござるか!?」


「俺も居てやるし、気が楽だろ?」


「……そうでござるな。かたじけない……」


「いいってことよ」


 野原から事情を聞いた黒戸も雪野も戸惑いはしたが、二人ともがすぐに謝罪を受け入れて許し、一朗の予想した通り、以前よりもお互いに深く分かり合えたことを喜んだ。


 こうして一朗も見守る中、野原は無事に御祓を済ませ、この一連の相合い傘問題は今度こそ本当に一件落着した。


 電話を終えた野原が、改まってこちらに向き直る。


「斉木ど……さ、斉木君」


「ん?」


「た、沢山迷惑かけて……ごめん……なさい」


「……気にすんなって」


「ゆ、許してくれて、しかも、何度も、助けてもくれて、ありがとう……」


「……おう」


「わ、私、やっぱり、こ、告白を、斉木君への告白、取り下げますっ」


「えっ!? はあっ!?」


「い、今の私じゃ、ダメだって思ったから……。でも、じ、自分を誇れるように、なった時、また、リベンジする……から……!」


「……ああ、わかったよ」


 その野原の決断を、一朗は他人事のように思えなかった。


 俺もそろそろ、決断すべき時なのかもしれない……。


 今回の事を受け、そう覚悟する。

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