第46話 ……という夢を見た?
一郎は驚く。
「いつの間に桜の木……の苗が……?」
野原が説明する。
「あ、私、緑化委員の先生に許可取って、さ、桜の苗木を新しく植えたんだ……。や、やっぱりシンボルとして、こ、ここには桜があるべきだって、なって……」
一郎も納得した。
「ああ、そういう……」
捨てる神あれば拾う神ある……か。
本来は桜の木の下で告白をすれば成功するという伝説であったが、実際には桜を見下ろす形となった二人。
頬を紅潮させた野原は、朝の陽射しを受けて輝く長い前髪を耳にかけ、潤んだ瞳を泳がせながらもこちらに向け、意を決した様子でこう告げる。
「わ、私は、さ、斉木君のことが……す、好き……です……!」
「……」
俺の人生で、こんな美少女から告白されることがあるなんてな……。
しかもこんなにも誠実に……。
こんな機会、もう二度と無いかも知れない。
一度きりの青春。
いいじゃねぇか、付きあっちまおうぜ!
そう結論を出した一朗。
唇を固く結び、緊張した面持ちで待つ野原へと、それを伝えようとした。
だが寸前に、雪野の存在が脳裡に過る。
同時に黒戸の顔もだ。
「……ッ」
何かを言おうと口を開けはしたが、言葉が続かない様子の一朗を見かねたのか、野原は先手を打つように言った。
「あ、こ、これは私が、勝手に気持ちを、伝えたかった、だけ……なので、その、返事は、む、無理にしなくても、まだ……ダイジョブデス」
「お、おう」とだけ返した一朗は、内心でホッとする。
助かった……。
徐々に余裕も出てきたので、気を使った言葉を続けた。
「あーじゃあ、返事って訳じゃないけど、お前みたいな可愛い子から告られて、俺は素直に嬉しいよ」
それを聞いた野原の顔が、更に赤くなる。
「あ、なら、よかった……デス……」
こっちまでハズイというか、照れるな……。
「……おう」
その返事を最後に、沈黙が訪れた。
気まずさの中、突如として野原が言う。
「拙者、そろそろ失礼つかまつるでござる!」
あ、結局時代劇口調に戻んのね……。
「あ、ああ、またな」
「ではこれにて失敬!」
そそくさと、野原は階段を登り、自身のクラスのある二階へと去っていった。
気付けば背中に、登校してきた生徒達の気配が届く。
なるほど、だから逃げるように去っていったのか。
一朗も靴を履き替え、教室に向かった。
俺の周囲で、確かに音を立てて何かが動き始めた気がするな……。
あるいはそれこそ、運命にまつわる歯車が回り始めた音なのかもしれない。
……なんてな。
その後野原と会った時、この出来事が無かったかのよう、完全に普段通りのござる口調に戻っており、一朗は女子という生き物の切り換えの早さと完璧さに恐怖すら覚える。
……あれは夢か何かだったのかな?
真面目にそう思ってしまう程にだ。




